あなたとの恋が欲しい。
あなたとの愛が欲しい。
あなたの過去を受け入れる愛が欲しい。
あなたに受け入れられる愛が欲しい。
欲張りなわたしはだめですか?
それでも、欲張る恋からすべてがはじまる。
欲恋
V
とりあえず、どうする俺!?という状態であることには変わりはないと思われる。そして
お互いが動けずにいるということだ。
わたしとレイヴンはかれこれ10分はこの状態にいるのではないだろうか。いや、もしか
したらわたしが思うよりも長い時間経っているのかもしれない。
むしろ、まだ1分しか経ってないのかもわからない。もはや混乱しすぎて時間の感覚が狂って
しまっているようだ。
とにかくこの状況をどうにかしなければならない。
説明しよう、わたしは上にユーリを乗っけたまま肘でなんとか身体を支えている。正直重
いのだがそれどころじゃねえという気持ちで支えたままになっている。
そしてレイヴンはドアノブをつかんだままの状態で固まっている。一応、わたしの上に
乗っかったままのおばかさんの説明もしておくが、こいつはただ全力で寝ているだけです。
きっと日頃の疲れが…ってちげえからな!酒でこうなっただけだからな!このバカヤローが!
いやもうまずはこいつをどかそう!うん!それがいい!
「どおりゃっ!!」
「ぐっ」
なんか変な声聞こえたけど知らない。みぞおち辺りに足がフィットしたような気がするけ
ど知らない。
わたしに蹴飛ばされたユーリは仰向けに倒れた。当たり前だが。でも普通に寝ている。
お前どんだけ酒弱いんだよ!
邪魔な人はどかしたし、これでわたしは晴れて自由の身だ。でも一番の問題は解決してい
ない。やっぱり何か言うべきだよね。言い訳的なものを。
うん、そうだよね。ユーリとは別に何もありませんよーって言った方がいいよね。これ絶
対誤解したよね。軽くちゅーしちゃったの見られたよね。まあ見られてなくてもユーリが
わたしに覆いかぶさっていたあの状況はダメだろ。でもすべてが事故だということをはっきり
きっぱり言わなければ!
でもさ、今思ったんだが、わたしだけが謝るのっておかしくない?だってさ、もとはと言
えばこのおっさんがいけないんじゃん?うじうじしやがってよ。
いやでも、なんでもう帰ってきたんだろうか。断って帰ってきたのかな。もしかしてわた
しのために、とかそんな都合のいいことを考えるほどばかじゃないんですー。
レイヴン自体が気乗りしなかったり、わたしに対して悪いなって思って帰ってきたとかな
んだろうな。そうだな、きっと。あーあもうめんどくせえよ。全部がめんどくせえよ。
まあでも一応今後のことも考えて言い訳するか。うん。そうしよう。
えっと、なんて言えばいいのだろうか。そうだな、まあここは普通に、
「あ、」
「…え?」
「あの、」
「……」
「わたし部屋戻るね!こいつのことは任せた!」
ちがああああああああう!!!何それ!!ばかじゃね!?やっぱりわたしばかだった!!
そういうことを言おうとしたんじゃないのに!
わたしは「こいつとは別になんでもないから!誤解しないでね」って言おうとしたんだよ!
なのになんかおかしい!なぜ逃げる!意味分からん!
どうやらわたしは自分で思っていたよりも激しく混乱しているようだ。今となってはあと
の祭り。とか今落ち着いてどうするんだYO★
もういいや。こう言ってしまったからには逃げよう。もうどうでもいい。
あらためて自分で脱いだ服を手に、いそいそとレイヴンの隣を通り過ぎようとした。
あ、どうもすいませーん、なんて片手をあげながら腰を低くし通り過ぎようとした。大事
なことだから言い方を変えて2回言いました。「それじゃ、おやす」ぐいっ
おやすみなさいと言って部屋を出たつもりだったが、どうにもこうにも足がこれ以上進ま
ない。なぜでしょうか。それはレイヴンがわたしの腕を掴んだからです。なんなんだ。
もうこわくて顔見れませんんん。
というかどうすればいいのかわかりません!冷や汗やばい。だらだらだよきっと。
まさに、どうする俺!でもこうしていても仕方ないので、声をかけてみることにした。
これ基本中の基本。
「…何?」
「……」
「レイヴン?」
「…何でこの部屋に、いるの?」
「え?あ、えっと、ユーリとお酒、飲もうと思って」
「もしかしてちゃんてさ、青年のこと、すきなの?」
「は?」
「そりゃ、そうよね。青年は男から見てもかっこいいし、色気ムンムンだし、」
「ちょ、何言ってんの?なんでユーリ褒めちぎってんの?というか別に青年、間違えた。
ユーリのことすきじゃないし!いやすきだけど、それは仲間としてのすきであって…って
なんでこんなこと言ってんだわたしは」
「でも、」
「でも、何よ?」
「…ちゅーしてた」
「え」
「ちゅーしてた!」
「何子供みたいな言い方してんのよ!別にしたくてしたんじゃねえよ!事故だよ!空気読
めよ!わかるだろ!むしろ自分のこと棚にあげて『ちゅーしてた!』じゃねえよ!アホか!
自分だってわたしが帰った後あの女の人とにゃんにゃんしてたんだろ!この腐れ外道!」
「棚になんてあげてないでしょうよ!ていうか別におっさんやましいことしてないから!
ちゃんが店出てった後すぐ追いかけたけど、見失っちゃったから街中探しまわって、
でも見つからないから宿帰ってきて…そしたらちゃんと青年がちゅーしてて、む
しろなんでこうなってるのかおっさんが知りたいわよ!」
「うそだ!追いかけたなんて、絶対うそだ」
「何でそんなこと嘘つかなきゃならないの!」
「だいたいさ!追いかけるくらいなら何で、何であの時ちゃんとあの女の人断らなったのさ。
あの時レイヴンがあの人にはっきり言えばお店から飛び出すこともなかったし、やけ酒
しようとも思わなかった。ユーリとお酒飲むことにもならなかった!それに、ちゅーだって
することもなかった!」
「で、でも、やっぱりどんな女性にも優しくしないと、」
「……」
「それにクレアちゃんだって悪気はなかったと思うし、だから、」
だめだ。もうだめ。我慢、できない。
「…そういうのが、」
「え?」
「そういうのがむかつくって言ってんの!女の人には優しく?自分は博愛主義者なんで?
ふざけんのもいい加減にしてよ!レイヴンが女の人に優しいのは十二分にわっかったよ。
でもさ、誰かれ構わず優しさをふりまくことで、他の誰かが傷つくこともあるって考え
たことある?」
「どういう、」
「優しけりゃいいってわけじゃないんだよ。優しさは、時に人を傷つける。本人が気がつ
かなくても、誰かが傷つくことだってあるんだよ」
「…ちゃん?」
「わたしは、そういうレイヴンがきらい」
レイヴンの優しさは、平等だ。女の人には平等に与えられるものだ。わたしもその一部に
過ぎない。
わたしは欲張りだ。レイヴンが誰かに優しくするのが嫌なだけだ。こんなの、単なるわた
しのわがままじゃないか。それなのに、わたしはレイヴンを責めるの?
こんなことが言いたいわけじゃない。それなのに、レイヴンを傷つけることしかできない
なんて。勝手に傷ついてる自分が悪いんじゃないか。別にレイヴンは悪くない。どうして
こんなこと、言ってるのかな。
気がつけば、頬に涙が流れていた。苦しい。自分で言ったのに、こんなに苦しいよ。
「ごめん、ね。ちゃん。嫌な思いさせたよね?ごめんね」
「…!」
何でよ、何で?どうして、レイヴンが謝るの。意味わかんない。わたしが悪いのに。
わたしがレイヴンを傷つけたのに。
何で?そんなの、違うよ。わたしは謝ってほしいんじゃない。怒ってほしいんだよ。そん
なこと言われたくないって。そんなのお前には関係ないって。お前に言われる筋合いなん
てないって怒ればいいんだよ。なんでレイヴンが謝るの。嫌な思いしたのはレイヴンでしょ?
おかしいじゃん!そんなの、おかしいよ。お前なんて嫌いだって言えばいいじゃん!
それでいいのに。そうすれば、いいのに。
こんなの!…こんなの、どっちも苦しいだけじゃん。どうして、こんな時まで優しくするの?
「部屋に、戻る」
「…うん」
「手、離して」
「…うん、ごめんね」
ばかじゃない。ばかだよ。本当、ばか。ばか。あほ。わたしの、ばか。
「あんたももどっちもばかだな」
「…そうねえ」
◆
部屋に入るとジュディスがすでにいた。まだ寝ていないで何かの本を読んでいた。わたし
の顔を見ると少し驚いた顔をしていた。
そりゃそうか。いかにも泣きましたって顔で帰ってくれば驚くわ。だけど、ジュディスに
話しかける気も起こらなかったのでそのままベッドへ直進し、ベッドにダイブした。
もう何も考えたくなかった。何も考えられなかった。
ジュディスはやっぱり何も聞いてこない。ただ、そのまま寝ると明日ひどい顔になっちゃう
わよ、という助言はいただいた。わたしはありがとうという意味をこめて枕に顔を沈めたま
ま片手をあげた。
どうにも動く気にはなれなかった。早く寝てしまいたかった。忘れてしまいたかった。忘れ
られるはずもないのだが。
しばらくして、部屋の電気が消えた。隣のベッドでごそごそと衣擦れの音がした。ジュディス
も寝るのだろう。
わたしも寝ようとさっきから試みているのだが、一向に眠気がやってこない。それどころか
目はギンギンに冴えていた。眠気すらわたしの味方にはなってくれないのか。
味方だなんてずうずうしいということだろうか。散々人を傷つけて謝りもせず、逆に謝らせ
てわたしはただ逃げてきただけだ。
一体わたしは何がしたかったんだろう。どうしてほしかったの、レイヴンに。
レイヴンにとってわたしはただの仲間なのに、どうしてそんな望んでばっかり。これじゃあ
だめだよ。こんなの、だめだ。
「ジュディス、まだ、起きてる?」
「ええ」
「ジュディスはさ、すきなひと、いる?」
「ええ、たくさんいるわ」
「いや、あの、恋的な意味で言ったんだけど」
「もちろんそうよ」
「えええ!さ、さすがですね」
「ふふ、冗談よ。は騙されてくれるから、からかいがいがあるわね」
「えええ!からかったんかい!ジュディスが言うと本当っぽいから焦ったーってじゃあ実際
はどうなんです?」
「そうね、いないかしら」
「その濁す感じが怪しい。けどまあ深く突っ込むのはやめます」
「は、いるのね」
「うえ、ああ、まあうん、そうですね、はい」
「その人と喧嘩でもしちゃったのかしら?」
「ん?んーんーんー…うん。というか一方的に、怒っちゃった。わたしが勝手にすきなだけ
なのに。本当、ばかなことしたって思ってるよ、うん」
思い出してはもう一度しゅんとする。レイヴンはきっと傷ついただろうな。
彼の顔を思い出すと、胸がすごく、痛い。
「怒ってしまうほど、その人のことが好きなのね」
「えええ、怒ったのはあの、あれじゃん」
「好きだから彼を取り巻くすべてに嫉妬してしまったんでしょう?」
「うん、そうだね。その人の笑顔も、涙も、嫉妬も、全部全部、わたしのためだけにあって
ほしい。でもこれってすっごい欲張りだよね」
「そうかしら?好きならそれって当たり前のことだと思うわよ」
「そう、かな」
「そうよ。でも、はそれを伝えたの?」
「え?」
「その人のことを、そう思ってしまうほど好きですっていう気持ちを伝えたの?」
「伝えて、ない」
「じゃあ伝えなくちゃね」
「伝える?」
「そうよ。、言葉にしなくては伝わらないことだってあるのよ。だから、あなたの気
持ちをありのまま伝えなきゃ」
「…そう、だよね。自分一人で思ってたって仕方ないもんね。うん、わたし伝えてくる」
「あなたならできるわよ。いってらっしゃい」
「いってくる!」
思い立ったら吉日。ガバッと起き上がり、ベッドから飛び降りた。
タイツは脱ぎっぱなしだったから裸足だけど、構わずブーツに足を突っ込んだ。そして上着
をかっさらい、急いで着る。
夜中にも関わらず、ドアを荒々しく開け、飛び出した。
「がんばって、。…こんなに愛されてるおじさまがうらやましいわ」
◆
とりあえずレイヴンの部屋に行ってみることにした。ということは、つまりあのおばかさん
もいるっていうことだろうけど、そんなこと気にしている場合ではない。
少し緊張するけど、このままでいるのは嫌だ。だから、勇気を出して。がんばれ、わたし。
コンコンコン
大丈夫。わたしなら大丈夫。自分のありのままの気持ちを言えばいいだけだ。
何も恐れることなんてない。がんばれ。緊張で手汗がやばい。それに、震える。
ガチャ
「あ…れ」
「なんだ、こんな夜中に」
「…レイヴンは?」
あろうことか、ユーリが出てきた。しかもこんな夜中になんだよばかか?みたいな顔してい
ます。ばかはお前だばか!
ていうかさっきまで一緒に飲んでいたこと忘れたんですか。この鳥頭!
「ああ、いない」
「いない?どこ行ったの?」
「さあ、散歩とかじゃねえの」
「こんな夜中に?」
「こんな夜中に訪ねてきたやつに言われてもな」
「酒弱いのに飲みまくってたやつに言われてもな」
「……まあ」
「ていうかそもそも誰のせいでこうなったと思ってんだ、コラ」
「え、オレ?」
「え、オレ?ってとぼけることができるあなたにびっくり!そして今は相手してられないけ
ど、帰ったらボコボコするから」
「なんでだよ!」
「自分の鳥頭に手をあててよく考えてごらんなさい。そして怯えながらわたしの帰りを待つ
がいいさ」
「…悪魔か」
「あばよ!」
若干顔の引きつったユーリを置いて、夜のダングレストに飛び出す。
ちょっと寒いんだけど。ちょっと露出には優しくない気温な気がしないでもない。しかも今
は生足サービス中。あらやだ、21歳が生足公開中よ。どうでもいいね。
っていうか、飛び出したはいいけどどこへ行けばいいんでしょうか。
ああ、もうどこだっていい!ダングレストをとにかく走りまわれば見つかるさ!
必ず見つけ出す!