#04








デートってなんだ。デートってなんでしょう。デートってなんなの。デートって以下略。
昨日のデート発言はどうやら実行されるらしい。それは、朝からエースが張り切っているからです。
たぶん、彼の感覚としてはデートっていう名の遊びにでかけるんだぜいえーって感じだと思います。
でも変な所でデートっぽくしようとしてて、同じ家にいるのに、街で待ち合わせな!とか言って、
彼はすでに家を出て行った。どんだけ。
そういうわけで、とりあえず昨日エースからいただきましたワンピースを着て、鏡の前に立った。




「やだ、かわいい…!」




かわいかった。ワンピースかわいい!とってもかわいいよ!サイズもぴったりだし、しっくりくる。
なにこれやばい。一気にテンション上がった。エースありがとう!あたしとっても感謝します。
ついでにエースプレゼンツ第2弾の靴(ショートブーツ)を履いてみた。
やだ、似合う。なんかあたし似合う。似合ってます。うわー楽しくなってきた!
鏡を見ながら髪もセットして、服をもう一度チェック。よし、そろそろ行くか。あー緊張してきた。














  ◇◇◇














あれ、思いのほか緊張している自分がいるよ。
そういえばあたしデートとかしたことなかった。もはや、はじめてのおつかいレベルの不安感。
すごい緊張するよ。世の中の女子っていうのものは毎回こんな緊張感を伴っているのだろうか。
それともこれは初デートの時のみなんでしょうか。どうなんでしょうか。あーあー緊張する。
息を吸うのが若干辛いですけどね、そこは気合いで息を吸って肺に酸素を送りたいと思います。
あーもうすぐ待ち合わせの場所に着いちゃうよ。どうする。どうするってもう行くしかないだろ。
あきらめろ。ここは普通に楽しめばいいんだ。そうだ、そうしよう。
って、あたしどんだけ初心なんですか。ここまできたらかわいそうな子じゃんよ。
あ、エース見つけた。ズボンのポケットに手を突っ込んで立っている。普通に立っているだけなのに
なんでエースはあんなかっこいいんだろう。街の人も、主に女子が、エースをちらちら見ている。
あーあーあー。ん?今一瞬いらっとしたような?まあいいや、早く声かけよう。




「エー…」
「エースさん!!」




なんでやねん。空気を読みなさい、空気を。
横から割って入ってきたお嬢さん。そして思わず物陰に隠れるあたし。なんで隠れるかな、自分。
しょうがない。あのお嬢さんの話が終わるまでここで待ってるか。
でも気になるのでこっそりのぞくことにした。これくらいいいだろ、たぶん。
ここからはエースとお嬢さんの会話を盗み聞きしたいと思います。あたしは黙っているよ。




「ん?お前は、いつも買いに来てくれる子?」
「そうです!覚えててくれてるなんて、うれしいです…!」




黙っていようかと思ってたけどツッコミさせてくださいおねがいします。
覚えててくれてるなんてって言いますけど、誰よりもたくさん買って印象付けていたくせに、と思う。
それなのに、買いに行っているだけなのに覚えててもらえるなんて!という発言。
異議あり!けど、とりあえずつづきを見ようか。




「今日はお店、開かないんですか?」
「あァ、今日はこれから用事があるんだ」
「そうなんですか。もしかしてショッピングとかするんですか?」
「いや、これからデートだ」
「え!?…今なんて」
「デートするんだ」
「そ、そうなんですか…。ど、どこの方と?」
「どこのって、おれといつも一緒に木の実を売ってるやつ」
「ええ!?あの子、ですか!?って、そもそもあの子とはどういう関係なんですか!?」
はおれの恩人だ」
「恩人…」




やべえ。話終わる感じしないんですけど。というかあのお嬢さん、わかりやすくなんであいつなんだって
顔しましたね。あたしでごめんね!ほんとごめんね!偶然の産物なんですけどね!
あなたも村に住んでたらエースと先に出会ってたかもね!ごめんね村人がエースを拾っちゃって!




「…でも、あの子あんまり冴えないですよね?」
「……」
「いつもボロボロの格好しているし、髪の毛だってぼさぼさで手入れなんかしているわけがないだろうし、
 それにそれに、そもそもエースさんとは釣り合わないですよっ!」
「……」




おいおいおいおい。失礼なこと早口で言ってるんじゃないよ。あたし聞いてますけど。がっつり。
聞こえてますよ、お嬢さん。残念ながら。
それにね、あたしは昨日までのあたしじゃないからね。髪だってさらつやです。これ気に入ってます。
服だって最近は結構気にしてる方だし、今日はエースのくれたワンピースでおしゃれしてるし。
確かに街のお嬢さん方のようにたくさん洋服持ってないし、きれいにだってなれないけど、だけど
あたしだってそれなりに気にして、るんですけどね。
こんなお嬢さんにほんとのこと言われて今さら傷つくとかあほらしい。それなのに、目頭熱い。
あー上向いておこう。決して鼻血が出そうとかじゃないですから。




「そうだ!エースさん、これから私とデートしませんか?この街のことはよく知っているので、
 素敵なお店とかも知っていて、」
「行かねェ」
「え?」
「行かねェ!」
「エ、エースさん?」
「お前はあいつのなにを知ってんだ?」
「え、あの、」
「あいつは毎日一生懸命に生きてる。どんなに格好が汚くても、どんなに髪がぼさぼさだって、
 はお前よりもよっぽどきれいだ」
「…っ!」




エース、そんな、ばかだなあ。あたしのことなんてかばわなくていいのに。
あのお嬢さんが言ってたことは全部全部ほんとのことで、だから別にいいんだよ。
でも、でもうれしい。あたしのために、そんなこと言ってくれてすごく、うれしいよ、エース。
なんか、さっきとは違う涙出てきたんだけど。これ、責任とってよね?




「エース!」
「おー!遅かったなァ。そのワンピース、やっぱり似合ってるな」
「ありがとう、エース」
が喜んでくれたなら、おれもうれしい」
「うん、あたしもうれしい」
「なんだそりゃ」
「あははっ」
「あ、あなた…!本当にあの子なの?」
「え?ああ、そうですけど」
「どうだ?こいつ、すげェかわいいだろ?」
「ばっかなのかいエースくん」
「私…帰ります!」
「おーまた買いに来てくれなー」
「いやもう来ない気がする」
「そうか?まァいいじゃねェか!さ、デートしよう」
「…うん」




完全にお怒りになったお嬢さん。しーらね。あたしは知らない。
あ、そうそう。驚いてたお嬢さんの顔を見たら、ちょっとざまあみろって思いました。














  ◇◇◇














「そういえばエースってなにしてるの?」
「なにしてるってとヒゾンジュース飲んでる」
「そういう意味じゃないでしょわかるでしょ」
「これうまいなァ」
「話を聞きなさい」




エースと街をぶらぶらデート中。
ウィンドウショッピングとか、アイス食べたり、つまめるお肉食べたりとか、この島伝統のお菓子を
食べたりとか主に食べてばっかりじゃないかと今気がついた。
そして今は、お腹が空いたと馬鹿な胃袋を持ったエースのわがままにより適当にお店入って休憩中。
席についてから、そういえばと思いだしたように聞いたらさっきの会話になってあたしびっくり。




「それで?なにしてたの?ここに来るまでは」
「あー海賊」
「え」
「こわいか?」
「なにそれかっこいい」
「は?」
「エース海賊なの?なんていう海賊なの?エースって強いの?お宝たくさん見つけたりしたの?
 やっぱりきれいなお姉さんをはべらしたりするの?」
「ちょ、おいおい!落ち着けって、ちゃんと答えるから」
「うん」
「おれは白ひげ海賊団ってとこの海賊だ」
「ほうほう」
「そこの2番隊隊長をしてる」
「じゃあエースは強いんだ」
「いや、まだまださ。お宝は、そりゃァ海賊だからな、見つけることもあるさ」
「へえ」
「きれいなお姉さんをはべらしたことも、ある!」
「あるんだ!すごい!うらやましい!」
「はははっ!なんで女のお前がうらやましがるんだよ」
「あたしだってきれいなお姉さんに癒されたいこともあるんだよ」
「なんだそりゃ」




エースって海賊だったんだ。いいな、かっこいい。そしてうらやましい。
なんか似合うなあ、海賊。じゃあここに来る前は大きな船に乗って航海してたんだろうか。
ということは、喧嘩って海賊船同士の喧嘩てことなのかなあ。すごいなあ。
やっぱりエースってすごいやつだった。




「いいなあ」
「海賊がか?」
「うん、それもあるけど、この海の色んなところに行ったことあるっていうのがさ、いいなって」
「お前も海に出たらいいんじゃねェか?」
「こんな年頃の娘が一人で海に出れるかってんだよ。航海術もないし、強くもないし、無理だって」
「そんなことねェ。だったら、おれと一緒に行くか?」
「え…」
「そんで一緒に海賊やるか?」
「な、に言っちゃてんだか、エースったら」
「おれは本気だぞ」
「エース、?」
さえよければ、一緒に行こう」
「……」
「ま、今すぐ決めなくてもいいさ。ゆっくり考えろよ」




本気で言ってる、みたいだね。冗談って笑える空気じゃなかった。エースの眼がすごく真剣だった。
その眼に思わずうなずきそうになった。けど、あたしなんかが行けるわけない、と思ったらうなずく
寸前で踏みとどまった。
正直、行ってみたい。だってずっと憧れだった。毎日毎日木の実を採りに行く時、いつも海を見ては
いつかこの海を渡りたいって思ってた。だけど、なんの力もないあたしがエースについてったら迷惑だ。
足手まといになるだろうし、そんなの、いやだ。足手まといになるくらいなら、行かない。行けない。














  ◇◇◇














あの後、何事もなかったかのようにデートを続けた。純粋に楽しかった。
エースの喜ぶ顔とか、うれしそうな顔とか、からかうような顔とか、少年みたいな顔とか、色んな
顔を見れてすごく楽しかった。ただ、一緒にいるだけで楽しかった。
エースを拾ってから今まで色んなエースを見たけど、あたしはエースの少年みたいな笑顔がすきだと
思った。くしゃって顔をくずして笑うエースが、すきだと思った。
一緒にいるだけであたしもいつの間にかエースのペースに引き込まれて、でも嫌じゃなくて。
あたし、エースが、すごく大切になっちゃったよ。
橙色に輝く太陽に照らされた海を見ながら、エースと砂浜を歩いた。あんなに騒いでたエースも
今は大人しい。




「きれいだな」
「うん」




どうしたエース、もっと話しなさいよ。そうじゃなきゃ、あたしどうにかなりそうだよ。
エースのちょっと後ろを歩きながら、徐々に音が大きくなる自分の心臓に戸惑っていた。
どうしてあたしはこんなにときめいているんだろう。おかしいよ。
あらためてエースの背中が大きいなあとか、エースって癖っ毛だなあとか、男の人だなあとか、
そんなことを考えながら下を向いて歩いていたら、どんっとなにかにぶつかった。
なにかと思って顔をあげると、エースがあたしを見下ろしていた。それにまたどきっとする。




「…エース?」
「…なァ、
「なに?」
「やっぱりお前、おれと一緒に来いよ」
「だ、からなに冗談」
「おれは本気だって言ったろ」
「……」
「おれと行くのはいやか?」
「いやなわけ、ないじゃん」
「だったら」
「でも行けない」
「なんでだ」
「足手まといになりたくないから」
「おれは強ェからそんな心配すんな。のこともおれが守る」
「エースがよくてもあたしがよくない」
「意味わかんねェよ」
「わからないならこの話は終わり。早く帰ろう」




こんなの逃げてるだけじゃんって言われても仕方がないと思う。
でもあたしのこの複雑な気持ちもわかってもらいんです。守られるだけの女だなんていやなんだよ。
強引に話を終わらせてさっさと家に帰ろうとした。けど、エースの腕がそれを阻んだ。




「エース…離して、よ」
「ちゃんと理由を言えよ」
「言ったじゃん。足手まといになるのはいやだって」
「おれは平気だって言っただろ」
「だからあたしは、あたしなんかのせいでエースの自由を奪いたくないって言ってんの!」
「…なんだよ、それ」
「守られるだけなんか、いやなんだよ」




エースの腕を振り切って無理やり前に進もうとした。だけど、今度はエース自身がそれを阻み、
その大きな体に自由を奪われた。なんで抱きしめんの。意味、わからない。




「エース、離し」
「おれがお前を守りてェんだよ」
「……」
「それじゃ、だめなのか?」
「…もう少し考えさせて」
「わかった」




結局あたしは揺れてる。エースに誘われて、そんな勘違いしちゃうような言い方されて、わかりやすく
あたしの心はぐらぐらしている。さっきまでの拒否はどうした。帰ってきなさい今すぐに。
でも、今はまだ答えは出せない。すぐにうなずけるほど、あたしは子どもじゃないようだ。
船のお金が貯まるまで、あと少し。