ユーリの髪は、なんであんなにもあたしを誘うのでしょうか。
髪がさらさらで良い匂いがするユーリ。色気ムンムンのユーリ。たまらないんですけど。
というのは冗談という名の本気だとして、謎だよね。髪さらさら要素は、色気につながるの?
良い匂いにつながっているの?そうなの?そういうことなの?
もしや、あれなの?あのー、あれ。食虫植物がすてきな匂いで虫を誘ってばくって食べて
しまいたい!とか、そういうこと?そういう原理なのかしら。
はっ!というと、もしやユーリくんは、あたしのことを食べてしまいたい!とか思ってる
わけですか。そういうお年頃なのですか。ちくしょー、食べられたい。
いや、今思ったけど、虫はいやだな、虫は。やっぱり花の蜜を吸いに行こうとしている蝶
のようだと言ってほしいね。むしろそっちを希望します。申請します。受理されました。
というわけで、今日からあたしは蝶です。意味わからない、どうしよう。でも、ユーリく
んに食べられてしまいたいのは変わらないです!胸をはって誓えます!声を大にして誓えま
す!だから、どうぞあたしを食べてしまってください。
「ねえねえ、カロルくん」
「なーに?」
「あのさ、ユーリに食べられたいんだけど、どうしたらいい?」
「はっ!? なに言ってるの!?」
「おっと、少年にはまだ早かったかな。ははは」
「そういう問題じゃないよ!」
「あらやだ、このマセガキ!」
「子ども扱いしないでよ!」
「それは失礼しました」
「あ、うん、わかればいいよ……じゃなくて、ってユーリが好きなの?」
「ん? 好きっていうかさ、彼があたしを誘うから」
「誘う!?」
「ユーリの髪ってさ、良い匂いするんだよねえ。だからさ、ユーリが近くにいると、つい
つい飛びついてしまいたい気持ちになるのさ」
「そうなんだ……」
「ナンに恋をしているカロル少年、これはどう判断します?」
「べべべべつに恋とかしてないよっ!」
「はっはっはっ、若いな」
「だって若いでしょ」
「まあ、レイヴンよりは若いね」
「それってどーゆー意味ー!?」
「あ、遠くから年齢のことを言われてレイヴンが叫んでいるよ」
「……あっ! レイヴンに相談してみればいいんじゃない?」
「うーん、レイヴンかあ」
良い案を出した!って顔をしているけど、カロルってばあたしから解放されたくて言って
いるんじゃなかろうか。バレバレなんだよ、少年。ま、いっか。レイヴンなら大人だし、カ
ロルよりは良い案を出してくれるかもしれない。そもそも案とかそこまで話いってないし。
さあて、自称博愛主義者のレイヴンはどんなすてきなアドバイスを出してくれるんでしょ
うね。あー、たのしみ。
★★★
「ね、レイヴン」
「……」
「さっきのまだ気にしてんの?」
「だってさ、だってさ!」
「やだなー、あたしは渋いけどかわいいレイヴンがだいすきだよ35歳だし」
「ほんとに?」
「あたしが嘘つくと思う?」
「うん」
「コノヤロウ」
「うそです! ごめんなさい!」
「うむ」
レイヴンがすきなのは嘘じゃない。だって、35歳でこんなかわいいおっさんってそうそ
ういないと思うし。それがレイヴンの持ち味っていうんですかね。
と、今はレイヴンの魅力がどうとかじゃないのよ。ユーリの話だよユーリの!もう、すぐ
話ずれるんだからね。ずらしてるのはあたし自身だけど。
「でさ、レイヴン」
「うん?」
「あたし、ユーリに捕食されたいんだけど、どうしたらいい?」
「捕食!?」
「食べられてしまいたいんですわ」
「それは、どっちの意味で?」
「いやだよーセクハラだよー」
「いやいや! ちゃんが言ってきたんでしょ!?」
「んー、どういう意味だろうね。だってさ、ユーリの匂いって、食べてやりたいぜ!って主
張してる気がするんだもん」
「そうなの?」
「レイヴンはわからないの?」
「うん」
「役立たず!」
「ひどい!」
レイヴンでもわからないっていうのかい!これって女子にしかわからないのかなあ。あれ、
でも、エステルとかジュディスとかが、わかるって言ったらそれへこむ。なんかへこむ。
「どうしたらいいの、レイヴン」
「うーん、恋してるわけね」
「恋?」
「恋」
「恋なの!? 初耳ですよ、奥さん」
「いやいや、好きだから食べられたいって思うんでしょ?」
「やだ、レイヴンが真面目にアドバイスしてる」
「どゆ意味!」
「あー、でも言われてみればそうなのかなあ? どうなのかなあ? っていう気持ちにはなり
ますな」
「いっそ青年のところに行って確かめてきたらどう?」
「そっかー、そうする」
「がんばれ若人!」
というわけで、ユーリのところに行ってみることにします。でも、なにを確かめればいい
んですかね。ま、いいか。
★★★
ユーリの部屋の前に来てみたよ。いるのかな?ノックとんとん。「開いてるぞ」開いてる
ってさ!入っちゃうよ!きゃっふう!
「やほ」
「か、どうした」
ユーリくんは、ベッドの上で雑誌を読んでいました。誘っているんですか、そういうこと
ですか。そのちらっと見えている胸にダイブしていいってことですか、たまらん!
いかんいかん。そんな欲望丸出しではきらわれるぞ!ていうか、髪の匂いとか関係なしに
食べられたいんですけど!あれ、これって解決?
「お隣いいですか」
「おう」
ベッドにこしかけてみる。あらやだ、あたしってばなんて大胆なんでしょうね!あふふ。
そんなことじゃきらわれるわよ!あれ、でじゃぶ?
「あのさー」
「なんだよ」
「ユーリってシャンプーなに使ってるの」
「は?」
「いや、なんとなく」
「なにって言っても、そこにあったもんを適当に使ってる」
「じゃあいつも同じのを使ってるとかじゃないの?」
「そういうことになるな」
「なん……だと……?」
「なんなんだよ、お前は」
毎回違うシャンプー使ってるの!?それじゃあ、なんでいつも同じ良い匂いがするの!?
もしや、もももももしや!フェロモン!?巷で噂のフェロモンなるものが、あたしを誘惑
しているというのかい!なんか、それっぽいぞ。
「ユーリくんの発するフェロモンで無性に欲情するんですけど、どうしたらいいですか」
「は?」
「ユーリの髪から、いつもさらふわっ! 良い匂い! ってするから、シャンプーとかかな
って思ったけど、実はそれってフェロモンなんですよ! そんなこんなでそのフェロモン
にすっかりやられてしまって、ユーリに食べられたいと思ってしまうのですけど、どう
したらいいですか」
「お前、大丈夫か?」
「全部ユーリのせいなんだから責任とってよ!」
「いや、意味わからん」
「ちくしょう!」
「うわっ」
なんかもうどうにでもなれって思ったので、馬乗りになってユーリを見下ろしてみたわ
けではなく、ユーリの伸ばした足にまたがって向き合ってみた。
とりあえず、良い匂いがしてどきどきします。ちら見えしてる胸にかじりつきたい。も
う、ユーリのことになると、とっても変態になってしまうみたいです。
目の前のユーリをじっと見つめて、そもそも、どうしてユーリにこんなにもどきどきす
るのかしら?っていうのを考えてみた。
初めて会った時、イケメンこわいって思った。イケメンってさ、こわいじゃない?って
いうのはあたしだけかもわからんけども。こわかったんだよ!顔が整いすぎてて!でも、
ユーリは話しやすいし、一緒にいて楽だった。気を遣わなくていいし。沈黙だって、苦じゃ
ないなって思った。
それからだろうか、ユーリと色んな話をして、色んなものを見て、色んな時間を一緒に
過ごしたら、ユーリの一つ一つが気になった。見つめている先とか、ちょっとした仕草と
か、今問題になっている匂いとか。全部気になる。ユーリの全部が、すきなのかもしれな
い。あ、そうか、すきなのか。よっしゃ、結論でた。で、たぶんその中で一番すきなのが
ユーリの匂いなんだ。
「おい、。いい加減……」
「ユーリ」
「なんだよ」
「あたし、ユーリの匂いがすき」
「は?」
「ユーリのこと、全部すきだけど、中でも匂いがすき」
「なに言ってんだよ」
「だから、告白してるんだよ」
「告白ってお前……」
「ユーリ・ローウェルのことを、お慕い申し上げています」
「ちょっ……」
ユーリの髪を両手で引っ張り、引き寄せる。そのまま、ユーリの顔に頬ずりをした。
やっぱり良い匂い。髪っていうか、ユーリ自体から出てるんだなあ、きっと。
「たまらん」
「おい、!」
「なあに」
「一方的すぎんだよ、お前は」
「だめなの?」
「お前なあ、人の気も知らずに……」
「なにが?」
「……」
「うわわっ」
鼻と鼻がくっつきそうなほど、近くにいたユーリに、今度はあたしが髪を引っ張られた。
ドメスティックバイオレンス的な髪の引っ張り方じゃないからね。あたしがユーリにした
ような軽く、つんってやったあれだからね。ご心配なく。
というか冷静に分析してたけど、実はユーリの柔らかいくちびるがあたしのくちびるに
フィットしています、なう。これが俗に言う、きす、ってやつですか。すごくしあわせ。
そんで、目を伏せているユーリの色気にあてられたのか、頭がくらくらします。もう、
どうしたらいいっていうの。
「……オレの方がお前の匂いにやられてんだよ」
「ユーリ、すき」
「ばか」
「あいしちゃってます」
「オレの方が、好きだ」
「もっと、きす、ください」
「喜んで」
そんな近距離で笑わないでよ。心臓が壊れそうです。もう、どうにでもしてください。
めちゃくちゃに壊してください。どこまでも、あいしてください。
深い深いキスと、ユーリの匂いに溺れる今日。