「クリスマスってどういうものなの?」
「家族でわいわいしたり、友だち同士できゃっきゃっしたり、
恋人同士が爆発したりするものかな」
「え、爆発しちゃうの!? 各地で事件勃発!?」
「それはおいておいて、どっかのえらい人の誕生日なんだって」
「ぼんやりしてるのね」
「だって、あたしもよく知らないもん。でも、イベント的なあれで
わいわいやってるから、なんとなくクリスマスかーと思ってるだけさ」
「意外と冷めていらっしゃる……」
「でも考えてごらんよ。知らない人の誕生日に一緒にわいわいやるならさ、
毎日がクリスマスだよね」
「確かに……」
「だから、こんくらいの認識がちょうどいいんです」
「なるほど!」
「だからこそね、誰かの誕生日に便乗して雰囲気らぶらぶしようぜ!」
「えっ!?」
「と、考えているそこらへんのカップルが憎い」
「……び、びっくりした」
「ちょっと、レイヴンあのカップルの男の背骨に頭突きしてきてよ」
「おっけー! って言うと思った!? やらないわよ!」
「空気読んでよ、読みなさいよ、理解しなさいよ」
「なんか、その、ごめんなさい……」
クリスマスの夜、レイヴンと一緒に帝都を見下ろす。
どこかの人の家の屋根で、イルミネーションを憎々しい目で見ているあたし。
きっと、そこらへんを笑顔で歩いている恋人たちは、今日が誰の誕生日だろうが
誰の死んだ日だろうが、何の日だろうが、しあわせなんだろう。
それなのに、こんなあてつけのように外を出歩くんじゃないよ。
家で楽しくやっててください、ちくしょうコノヤロー。
「あーあ、クリスマスが楽しいのはカップルたちじゃん」
「あはは、まあそうかもね」
「あと、カロルとかリタとかエステルとか」
「うん、気持ちはわかるけどね、うん」
「じゃあ、大人で微妙な立ち位置のあたしとかはどうしたらいいのさ」
「うーん、それなりに楽しんだらいいんじゃないの?」
「そんなん言われても困るう。ま、いいけどさ」
「結局いいのね……」
「ほら、意外と楽しいもんよ。帝都中がキラキラしてる」
「そうねえ……」
「でも、このキラキラ帝都をレイヴンと一緒に見てるっていうのがね」
「なに!? 不満!? ひどいひどい!」
「うそだよ、ばっかだねえ」
「ぐすん」
ちゃんと知ってるよ。
寒いのが苦手なのに、こうやって一緒に帝都のイルミネーションを見てくれてる。
わかってるよ。
鼻を赤くしながら、寒そうに服の袖いっぱいに引っ張ってがんばってること。
だって、あたしもレイヴンと見たかったんだもん。
「あたしはまだここで見てるけど、レイヴンは中入る?」
「……一緒にいる」
「寒いんじゃないの? 鼻、真っ赤だし、ガタガタ震えてるし」
「……一緒にいるって言ったら一緒にいるの!」
「意地にならなくてもいいじゃん。無理して風邪引いてもあれでしょ」
「やだやだ!」
「頑なだな」
素直に言えばいーのに。
ちゃんと一緒にいたいからって、早く言っちゃえ、ばか。
でも、今日はクリスマスだから、後押ししてやるか。
「しょうがないなあ、レイヴンは」
「……ふふ」
「なーに、笑ってんの?」
「ふふ、だってちゃんの手、あったかい」
「レイヴンの手も、あったかいよ?」
「そう? じゃあ、もっとあったかくする!」
「え?」
「ぎゅうううう」
「あはは。……確かにあったかい」
「でしょ? ふふふ」
レイヴンに背中から抱きしめられる。すごく、あったかい。
最初からこうやって、してくれればよかったのにな。
レイヴンは意外とシャイだから困っちゃう。
男なんだから、たまにはぐっときてほしいよね。
「息、白いよ。でも、レイヴンがいるからあったかいね」
「うん、俺もちゃんがいるからあったかい」
「そっか。ね、来年も一緒に見ようか」
「え」
「来年も再来年も一緒に見ようか?」
「うん! 見る! 来年も再来年もその次の年もずっとずっと一緒に見る!」
「そうだね、ずっと一緒に見よう」
「でも、来年は、その……」
「なに?」
「……来年は、こ、恋人同士で爆発しませんか!」
「あたしたちも一緒に爆発してどーする」
「じゃ、じゃあ、しあわせになりませんか?」
「それなら、いーよ。それに、今からでも遅くないでしょ?」
「え?」
「今年も恋人のクリスマス、できるでしょってこと」
「……えへへ、そうね」
「でも、もうちょっとこのままがいいな」
「うん、俺もまだこのままがいいな」
レイヴンがさらにぎゅっと抱きしめ、ふふっと笑う。
あたしもつられて、ふふっと笑う。白い息が二人分、広がる。
「レイヴンがすき」
「俺はちゃんがだーいすき!」