キャリアアップ











43 .












びついた クピド












最後の体育祭も無事終了。次々と終わっていく学校行事に、切なさを覚える今日この頃
です。次に迎えるは学園祭。ああ、これも最後の学園祭なんですな。うわあ、寂しいねえ。
そういえば、体育祭の話に戻りますが、優勝したんですよ!黄色組が!最後の体育祭で
優勝!うれしいもんですね!あたしの野望も叶ったわけで、万々歳の体育祭でした。めでたし
めでたし。この調子で学園祭もすてきな思い出残るといいなあ。わっしょーい!





















「それでは、学園祭での出し物を決めたいと思いまーす」




出し物ねえ。毎年毎年あたしが適当に言ったことが決定されてなんかコワイわよ!と思ってる
あたしですけども、今年は一体どうなるのでしょうね。というか、みなさんなんか言ってよ!
そうでないとまた適当に決まっちゃうぞ。




、お前なんか言えば?」
「そういう小野こそ言えばいいじゃん。ていうかこっちにふらないでよね」
「なんだかんだ、毎年お前が言ってるのに決まってるんだし、また適当に言えばいいだろ」
「あーあ!そういうどうしようもないやつがいるから社会は腐敗していくのだよ」
「スケールがデカイんだよ、いちいち」
「まあ、あたしという女がすでにスケールの大きいで定評がありますしね」
「お前さ、言ってて恥ずかしくないの?」
「真面目に返されると最高にムカツクんですけどね」
「……」
「……」




ついに無言でにらみ合いという新しいスキルを手に入れたわれわれは、学園祭のなんちゃらを
決めている教室でバトルを繰り広げていたのでした。
とかなんとかで、お互いすごいにらみ合ってたら、周りのクラスメートがざわざわし始めたの
で、やめました。あたしが大人になってね!




「どなたか意見ある人いませんかー?さんとか」
「なんで!?」
「いつも素敵な意見を出してくれると定評があるので」
「ねえわ!びっくりだわ!…はっ!まさかの小野!」
「ばかめ」
「コロス!」
!そんなこと言ってないで意見出してください!」
「理不尽!エステルちゃん!それは理不尽!」
「いいから何か出してください」
「ハイ…じゃあ、スイーツ屋さんでおねがいします…」
「スイーツ屋さん決定で」
「適当か!」




こうも適当だともうなにも言えませんよ…。こわいわね、最近の若者ってやつは。少しは意志
ってもんを見せてほしいわね!あの子がそれなら、ワタシもお…とかいう時代ですか?こわい!
がんばれ若者!あたしも若者!がんばるあたし!
ちなみに余談ですが、レイヴン先生が明らかに嫌そうな顔をしていた。甘いものが苦手だから
だよね。それを知っているあたしがあえて甘いものを推すっていう。鬼畜!
ていうか、スイーツ屋って幅広すぎ!っていうツッコミはないんかい!ってあたしがツッコむ。

































「スイーツ屋ってなにやるんだろうね」
が言ったんですよね?」
「適当に決まってるじゃん!むしろあれでいいのか問い質したいわ」
「スイーツって言ってるくらいですから、甘いものですよね」
「まあそうだねえ」
「手作りのお菓子とかを売る、とかですかね」
「ああ、それでいいんじゃない?」
「そうですね。じゃあ、お菓子の研究ということでお茶しに行きませんか?」
「いいねえ!ないす!行こう!」




ほんと、うちら適当だなーと思いました。それでいのか、あたしたち。いいんじゃないかな。
にしても、甘いものかあ。ほんとにレイヴン先生が近寄らなさそう。仕方ないですけど。まあ、
あたしの愛の力で甘くないお菓子を作ってあげよう!先生だけ特別に!愛だねえ、うん。
とか思いながら下駄箱を開けると、そこには一通の手紙が入っておりました。ラブレター?
やだあ、困るわあ★あたしにはレイヴン先生というダーリン(仮)がいるんだからあ!という
のは置いておいて、誰からかしら?ぺらっと後ろを見て、身体が硬直しました。あふん。




「このタイミングって、すげえ…」
?」
「ああーっと、ごめんエステル!用事あったの忘れてた!明日でいい?お茶しに行くの」
「はい、大丈夫ですよ」
「ごめんね!ありがとう!じゃあまた明日!」




優しいエステルに手を振って、体育館裏へと走る。古典的!古典的すぎる場所っすね!明るく
努めているあたしですが、実はとっても動揺してるんですよ、これでも!だって、顔が引きつって
いるのを感じますもん、自分で。相当ぶさいくな顔になってるんじゃないですかね、普段の6割
増しで。とにかく、体育館裏へGOです。





















息を切らしながら体育館裏まで走る。そこには、手紙の差出人が壁に寄りかかっていた。
息を整えながら、ゆっくりとその人へ向かって歩き出す。その人は、あたしに気付くとにっこり
微笑んだ。




先輩、来てくれたんですね」
「…アラシくん」




来てくれたんですねって呼んだのきみでしょ、とツッコむ力もありません。あたしはただ、不安
な気持ちでアラシくんを見つめた。呼び出しってことは、つまりはそういうことですもんね。
決着をつけるときが来たってことだよね。あたしがアラシくんを呼び出さなきゃいけなかった
のに、アラシくんにその役目をさせるなんて、やっぱりあたしって弱虫だ。




「先輩もさすがにわかりますよね、ここに呼んだ意味」
「うん、そうだね」
「じゃあ、単刀直入に言いますね」
「……」
先輩がすきです。俺と、付き合ってください」
「……」




アラシくんが真っ直ぐにあたしを見つめる。初めて見た時は儚い男の子だなあって思ったけど、
今はそんなこと思わない。アラシくんは、強い男の子だ。あたしなんかよりもずっとずっと、
強い男の子。だったら、ちゃんとあたしも言わなきゃ。




「アラシくん」
「はい」
「あたしは、アラシくんの気持ちには応えられない」
「……」
「すきなひとが、いるの」
「……」
「すごく、だいすきなひと。アラシくんの気持ちはすごくうれしい。でも、ごめんね」
「…はい」
「すきになってくれて、ありがとう」
「いえ、こちらこそ…ありがとうございました」




そう言ってきれいに笑うアラシくんを見て、なんだか泣きたくなった。どうしてあたしは彼じゃ
だめなんだろう。どうしてあたしは苦しい方を選んでるんだろう。そうは思うのに、先生を
きらいになんてなれないし、先生をすきでいることをやめたいなんて思えない。そんな自分に
ばからしくもあり、誇らしくもあって、頭がぐちゃぐちゃになった。




「…先輩、泣かないでくださいよ」
「ごめ、んっ…!」




困ったように笑うアラシくん。あたしが泣いてどうすんだ。ばかか、あたしは。これ以上アラシ
くんを苦しませないでよ。困らせないでよ。ばかなあたし。もう、アラシくんを自由にしてよ。
必死に涙を止めようとうつむき、口を押える。けど、嗚咽は止まっても目からあふれる涙は止ま
る気配を見せない。ぐしぐしと拭っても拭っても、次々とあふれてくる。




「ごめ、アラシくん…!今、止めるからっ」
「そんなごしごしやったらだめですよ」
「でも、止まらないんだもんっ…!」
「腕、どけてください」




顔を隠していた腕をどけ、腫れた目でアラシくんを見上げた。唇を噛んでいないと、また嗚咽
がこぼれてしまいそうだ。涙は未だ出っ放し。




「ははっ、うさぎさんみたいですよ。先輩」
「しょうがないでしょっ!」
「…でも、やっぱりかわいいです」
「なっ…!」




何言ってるんですか、この子は。びっくりしているあたしを包んだのは、アラシくんの腕だった。
何してるんですか、この子は。どうして抱きしめられてるんですか。あたし、この子をさっき
振ったような気がするんですけど、合ってますよね?




「アラシ、くん」
「本当、悔しいです」
「え?」
「先輩を幸せにできるのが、俺じゃないってことがすごく悔しいんです」
「…アラシくん」
「でも、先輩をすきになれてよかったです。本当の本当に」
「あたしも、アラシくんにすきになってもらえて…すごくうれしかったよ」




こんなあたしをすきになってくれて、ほんとにうれしかったんだよ。ありがとう。
あたしは、アラシくんの身体を少し押した。あたしのその反応に、最初は抵抗したが、どこか
あきらめたようにアラシくんはそっと身体を離した。




「アラシくん、ごめんね。…ありがとう」
「…はい。先輩、ありがとうございました」




そう言うと、アラシくんは少し泣きそうになりながらも、やっぱりきれいな笑顔でその場を後
にした。あたしは、しばらくそこから動けなかった。というか、動けそうにもない。
壁に寄りかかって、ただ止まらない涙をぽろぽろ流し続けた。気持ちを受け止められないこと
がこんなにもつらいだなんて知らなかった。あたしは、先生を苦しめているのかもしれない、
そんなことに今さらながら気づいた。どうしてこう、うまくいかないものなのかしらね。人生
というものはそういうもんですか?誰かを傷つけて、苦しめることが恋なんですか?しあわせ
にすることはできないんですか?あたしには、なにができるんですか?
空を仰げば、何度も見た夕焼け。夕焼けにはたくさんの思い出がつまっている。今の夕焼けも
こんなにも複雑な気持ちでいるのに、涙のせいで余計にキラキラ輝いている。皮肉のつもり
かい。まばたきをすれば、たまった涙がこぼれる。




「…あたしの心も晴れてくださいよ」




見事な鼻声。そして涙がまたひとつこぼれる。










ちゃん?」




涙でよく見えない視界にぼんやり映ったのは、レイヴン先生。先生がタイミングよく現れること
はもうわかっているから、あえてそこにはツッコまない。というか、どうしてここにいるし。




「…泣いているの?」
「まあ、そうですね」
「どうしたの?なにかあったの?誰かになにかされた?」
「…ふふっ」
ちゃん?」




焦って駆け寄ってくる先生に、なんだか笑えてきた。普通におもしろい。あたしが泣いてると
すごく焦るんだね。誰かになにかされただなんて、さ。この涙の延長線上には先生がいること
をこの人はわかっているんだろうか。わかっていないだろうなあ。わからなくてもいいけど。
ああもう、やっぱり早く終わらせなきゃだめなんですか。




「やっぱり誰かになにかされたの?」
「いいえ」
「じゃあなにがあったの?」
「なにもないですよ」
「…なにもないなら、どうして泣いてるの?」
「悲しいから、ですかね」
「なにがちゃんを悲しくさせてるの?」
「……」
ちゃん?」
「先生」
「え?」
「先生が、あたしを悲しくさせてるんです」
「…俺?」
「なんちゃって」
「ええ?」
「冗談です!」




呆気にとられている先生に向かって笑ってやった。あながち間違ってない答えだと思うんだ
けど。きっとその真実を先生が知ることなんてないんだろうな。
やっと止まった最後の涙を拭って、じゃあ、また!とその場から去るあたし。男前だなあ、と
われながら思った。




「…待って」
「はい?」




予想外の展開がいらっしゃった。レイヴン先生があたしの前に立ちふさがった。えらく真剣な
目をしているので、ちょっとびっくり。いつも引き止めるときは強引なんですけどね。でも、
今回は腕をつかむというのはなしらしいです。ちょっと残念。とか思うあたしは重症。




「どうしたんですか?」
「どうしたのはこっちのセリフでしょ」
「え?どういう意味ですか」
「どうしていつもはぐらかすの?ちゃんは」
「…はぐらかす?」
「絶対になにかあっただろう時も、いつもはぐらかすわよね」
「そんなことないです」




先生の言葉に少しむっとなった。自分のことを棚に上げてよく言いますわ!いつもはぐらかして
いるのは先生の方なのに。あたしはいつも向き合ってた。逃げてたのは先生の方なのに。




「先生じゃ、頼りにならない?」
「いいえ、そんなことないです」
「…ユーリにだったら言ってた?」
「え?どうしてここでユーリ先輩が出てくるんですか」
「じゃあ、どうして言ってくれないの」
「言ってますって」
「言ってないでしょっ!」
「!」




なんで先生が怒っているのかあたしにはさっぱりなんですけど。誰かわかる人いますか?
というか、むしろ怒っていいのはあたしの方じゃない?どう思いますか、これ。そろそろあたし
だってぷっちんイキマスよ。




「俺じゃだめなの?」
「…っ!」




それはあたしのセリフなんですけど!全力でこれは怒っていいよね?俺じゃだめだあ!?いい
加減にしてってんですよね!ぷっちん!!!




「…はぐらかしてるのは」
「なに?」
「いつもはぐらかしてるのは先生の方でしょっ!」
「え?」
「俺じゃだめなのって、なんでそんな無責任なこと言えるんですか?あたしの気持ち、考えた
 ことあるんですか?」
「考えてるわよ!」
「考えてない!…先生は、なにもわかってないっ!」
、ちゃん?」
「あたしは、いつも先生のこと知りたいって思ってた。でも、先生はいつも隠してる。ずっと
 ずっと隠してる!知りたいって思ってても、なにも!なにひとつ見せてくれないじゃんっ!」
「っ!」
「自分はずっと隠してるくせに、逃げてるくせに、あたしには全部見せろって言うんですか?
 だったら…ひとつだけでも、見せてよっ!」
「……」
「ほら、なにも言えないじゃないですか…」
「……」
「もう、いいです。…帰ります」
「……」
「…ばか」




ばかばかばか!せんせいの、ばあか。
止まったはずの涙は、今度こそ先生のせいでもう一度流れた。あたしよりも弱くて、逃げてる
先生。たまにはぶつかってこいってのよ。いくじなし。



















「…ごめんね」




去っていく彼女を追いかけることもできずに、直接謝ることもできない。
本当に、最低なやつだな、俺は。口先だけで、結局まだ決着をつける勇気がないのだから。























未だ動くことができないクピドがあたしを見つめてる。