夏期講習三昧の夏休みも、日を重ねれば慣れるもので、ツバキやモニカとたのしくお勉強を しております。なんといっても、小野の存在もスルーできる実力をつけたことがこの夏1番の 成果なんじゃないかなと思う。それでいいのか受験生! 講習の後の今や恒例となったガールズトーク大会にも、日が合えばエステルも参加できるように なった。そして4人でガールズトーク、たのしいです。 あたしのために、先生にどうアタックしたらいいかとかもアドバイスくれたりしてね! でもそれをまとめたら無理なことばっかだったよ!色仕掛けをしろとかベタなものから、いっそ 捕まえてしまえよと言ったツバキさんの眼が本気であたしはとってもこわかった。 そんな監禁まがいなことできるわけねえよ!むしろ物理的に無理だよ!あたしは戦士タイプ なのでMP0の初期状態まっしぐらだよ。ドラクエ4でいうアリーナ的な存在だよ! でも会心の一撃が出やすいのでレイヴン先生も一発KOにでき…ってなんの話? ちょっと話がずれずれになりましたので、戻したいと思います。結論から言えば、みんなの アドバイスは役に立つものがなかったということです。結局は今のまま突っ走ればいいのか? と自己解決したのでそれでいいと思う。みんなの気持ちだけもらっておくことにする。 ありがとうみんな!あたしがんばるよ!力ある限り全力で挑んでみせるよ! 「今度の花火大会、雨降るらしいよ」 「ええー!うっそ、ほんとに?」 「うん、天気予報で言ってた」 「いやだー!この夏1番たのしみにしてたのにいいい!!」 「そんなことわたしに言われたって困るし」 「おねがい魔法少女モニカちゃんどうにかして!」 「任せて!」 「ちょ、のらないでよモニカ!ツッコミわたししかいないんだから余計な労力使わせないで!」 「だって、ごめんね」 「ひどい!ツバキは少女の夢をそうやって消していくんだ!」 「知るか!てるてる坊主でも作ってどうにかしなさいよ」 「てるてる坊主か…」 「作るんかい」 花火大会が中止とかなったらまじで泣くよ。高3になって花火大会中止で泣くぞ!いいのか! よくないだろ!あたしが!だからお天道様おねがい!晴れてください。夜だけでもいいから! そうじゃなきゃあたしのこの苦労はなんだったんだ!ほんとにずっと勉強ばっかりでさ…。 夏休みに勉強だけで終わるなんて信じられないよ!そんなのひどいよ!うそだと言ってよ! 中止になったら花火職人がかわいそうじゃないか!あ、でも延期とかになるんでしたっけ? それなら、まあいいんですけど?やってくれさえすれば全然いいんですけど? 「もしかして、2人とも花火大会は彼氏と行くとかそういう予定ですか?」 「うん、私は約束してる」 「わたしも」 「そうなんだ…ほんとに約束してるんだ青春なんだらぶらぶなんだずるい!」 「あんたも彼氏作りなさいよ」 「あーひどいやひどいや!あたしが先生をすきだから無理なの知ってるくせにい!」 「じゃあさっさと落としちゃいなさいよ」 「だったらもっと的確なアドバイスくださいよ」 「拉致」 「監禁」 「薬」 「緊縛」 「あんたらどうかしてるぜ」 ほんとにだめだよこの人たち。法に触れちゃってます。ガンガンせめていこうぜ!ってくらい 法に触れてる。むしろ法の隣でずっと太ももさわさわしてる状態だよ。セクハラ! しょうがないからやっぱり自分で考えよう。そうだよね!だって誰も先生落とす方法なんて 知らないもんね!でも同じ人間なんだからいけるんじゃね?いやいや、とは言ってもあたしたち よりも長く生きてるからかわす方法とかも上手いでしょうよ。 じゃああたしは結局どうすればいいんだろうね。わかりません! 「とりあえず、花火大会晴れるといいね」 「天気予報って結構はずれるもんね、大丈夫でしょ」 「うんうん。きっと2、3日すれば天気マークも変わるよ」 「だよね!いやーたのしみだなあ」 ◆◆◆ 「雨降っとるやんけー!」 「でも小雨だし、夜には止むかもしれないよ」 「こんくらいなら止むわよ。そんで決行されるって」 「そうかな?せっかくの花火大会、たくさん食べたいものあるのに」 「そっち?」 「これだから色気より食い気はだめなんだよ」 「辛辣なお言葉★ひゃっふー!」 まあこれから講習あるしー、勉強しているうちに止むか。小雨だし。ぱらぱらくらいだもんね。 すぐ止むさ!というか止みなさいよ。久しぶりのたこ焼きとやきそばとりんご飴とチョコバナナと ベビーカステラと、それからそれから「だからあんたどんだけ食べんのよ」はっ!心を読まれた! 「声出てたよ、」あ、そのパターンね。さ、とりあえず勉強がんばろう勉強ー! 「あれ、気のせいかな。今日ここに来た時よりも雨降ってる気がするんだけど気のせいかな」 「こりゃ中止だねー残念」 「結構降ってるね」 「まじないわーほんとないわーふざけろよお天気おねえさんよー」 「おねえさんは悪くないでしょ」 なぜだ。あたし良い子にしてたのに!ちゃんと勉強してました!むしろ夏休み総合で考えても 良い勉強っぷりだったはず!それなのになんで雨降るの!騙された感がものすごいよ! あたしとってもがっかりです。空気の読めない雨にいつだってがっかりです。 やっぱりお天気おねえさんは信じない!特に笑顔がめっちゃ爽やかなおねえさん。 「あ、電話だ」 『よう』 「ユーリせんぱああああああああい!」 『うるさい』 「どうしたんですかーユーリ先輩!あたしのことが恋しくな」 『今日の花火大会中止らしいから、行くのも中止な』 「なん…だと…?」 『いや、普通に考えてわかるだろ』 「だけどただ集まってうはうはとかあるじゃないですかー!」 『めんどくさい』 「めんどくさいの一言で終わらされるほど悲しいことはないですよ」 『残念だな、また今度手持ち花火でもやればいいだろ』 「なにそれナイスアイディア。さすがユーリ先輩!」 『オレはお前が単純でよかったと今日ほど思ったことはない』 「あれ?もしかしてあたしけなされてます?」 『むしろ全力でほめてる。あー、あとエステルにはもうフレンから連絡いってると思うから』 「はあい」 『じゃあな』 「うい」 残念。とっても残念。花火大会中止どころか、ユーリ先輩たちにも会えないなんて! しかもめんどくさいという悲しい理由。知ってたけどね、あたしは知っていたよ! ユーリ先輩がそういうタイプだって知ってた!だからいいんだ。別にいいんだ…。 それに、今度手持ち花火でるんるんするって言ってたしね!あれ、でもそろそろ夏休み終わる けどだいじょぶ? そっか、大学生は夏休み長いもんね!でもあたし高校生ですけど?うん?おかしくなあい? しかも、9月は修学旅行だよ!もしかして、あたしだまされた!?うそやん!そんなわけない! きっと土日でどうにかしてくれるはずだ!そうだよね?そうじゃないというなら涙とヨダレで ユーリ先輩の枕を濡らしてやるから!ただの嫌がらせ乙^q^っと、また電話だ。 「もしもし?」 『あ、先輩?アラシです』 「おー!どしたの?」 『講習終わりましたか?』 「うん、終わったよー!」 『おつかれさまです。で、沖縄のお土産渡したいんですけど、この後平気ですか?』 「だいじょぶだよ!うわー!ほんとに買ってきてくれたんだー!ありがと!」 『いえいえ!じゃあ俺、予備校の下に行くんで、待っててもらっても大丈夫ですか?』 「おっけー!」 『じゃあ、すぐ行きます。またあとで!』 「はいはーい」 良い子や。ほんとにお土産買ってきてくれたよ!うれしいね。やっほいやっほい。 今日は散々だったけど、アラシくんのおかげでテンション再浮上ですね。 「、わたし達帰るよ」 「まじで?もうちょい一緒におしゃべりしましょーよー!」 「ごめんね、彼氏と会う約束してるんだ」 「ツバキも?」 「うん」 「雨の日なのに?花火大会中止だよ?」 「別に関係ないでしょ。それでもデートするの」 「雨の日デートだよ」 「うわあああん!悔しいよう!あたしとっても悔しい!」 「じゃあね」 「ばいばーい」 「しかもあっさり帰ったー!ひどいひどい!薄情者ー!…くすん」 こんなかわいい少女が大声で叫んでいるというのに、友人たち一瞬たりともこちらを振り返る ことなく帰って行きました。愛の巣へ。ばっきゃろー! しょうがないから、さっきよりも勢いを増した雨を見つめながらアラシくんは待つことにした。 切ないんですけどおおおおおおお!! ◆◆◆ 「先輩!お待たせしました」 「いえいえ、だいじょぶだよー。むしろ来てくれてあたし歓喜だよ。薄情な友人たちはさっさと 彼氏の元に去っていったからね…」 「あはは、俺なんかでいいならいつでも駆けつけますよ?」 「あらやだ、この子ったら!」 「あ、そうだこれ」 「ん?お土産!うわあ!開けていい?」 「はい、どうぞ」 「どれどれ。かわいい!」 アラシくんがくれたお土産は、沖縄の貝で作ったというネックレス。かわいいなあ。 シンプルだからどんな服にも合いそう。センス良いし顔もいいし、気が利くし、最高の男だね! 「ありがとね、アラシくん!大事にする」 「はい!喜んでもらえてよかったです」 「喜ぶよーそりゃあ!今つけようかな」 「じゃあ俺がつけます」 「え?」 「ほらほら後ろ向いてください」 「う、うん」 半ば強制的に後ろを向かされ、ネックレスをつけてもらうことに。 アラシくんの白く長い、でもちゃんと男の子の手が両肩から伸びて、なんだか落ち着かない。 そして、うなじに少し当たる指先がくすぐったくて恥ずかしい。なんか、照れるわあ。 「はい、つきましたよ」 「あ、ありがと」 「かわいいですよ」 「あは、恥ずかしいねーなんか!」 なんか言ってくれるだろうと期待してアラシくんを見たのに、いつもよりも大人びた顔で 微笑むもんだから変にどきっとしてしまった。 なにどきっとしてんだよ、あたしの心臓!あたしがすきなのはレイヴン先生なんだからね! そこのところは忘れちゃだめだめヨ。いや忘れてないけどね。 いつものアラシくんとのギャップにちょっとびっくりしたというかそういう意味です。はい。 あたしのすきなひとが先生から違うひとになることなんかあり得ないんですからね! とりあえず早く帰ろう、うん。時間を追うごとに雨脚が強くなってる気がするし。 「…じゃあ、帰ろうか?」 「そうですね。駅まで送ります」 「ありがとう…っておいい!傘が、なひ!パクられた!」 「あ、俺の傘に入ってください。それで、コンビニで新しい傘買いましょう」 「すいません!お邪魔します…」 「狭いですけど、どうぞ」 傘をパクったやつ、もしも見つけることができたなら、必ず貴様の傘もパクってやる! これを人は負のスパイラルという。 コンビニに向かい、傘を買おうとしたものの、なかった。売り切れですって…。 お前ら本気を出すなよこんなところで。あたしの方が傘買いたいと思ってる気持ち上回って いると言えるよ。 というわけで、駅で買うことになりました。だから駅までアラシくんの傘にお世話になるわけ でございます。申し訳ない。相合傘って片方が絶対濡れるもんね。アラシくんは気を遣って くれているのか、ほんとの紳士なのか、濡れる役をしていくれている。ごめん! 「アラシくん、肩濡れてるよね?ほんとごめんね」 「いいんですよ。女の人は冷えるとだめですから」 「めっちゃ紳士じゃん!いやーもてるでしょ?アラシくん」 「そんなことないですよ」 「いやいや、外も中も最高の男だと思うよ!成長したらもっと良い男になること間違いない!」 「……」 「友だちもアラシくんのことほめてたもん」 「……」 「アラシくん?」 「…俺、」 「なに?ってちょ…!?」 途中からだんまりアラシくんは、なにか言葉を発したかと思いきや、突然あたしの腕を掴んで 建物の間の路地まで引っ張った。なにこれこわい。いや別にこわくないけどさ、どうしたんだ。 それに急に引っ張るもんだから傘が落ちたけど。おかげであたしもあなたもびしょ濡れよ★ 風邪引くから!どうせあたしは風邪引かないだろうけどね…経験談。 「アラシくん?急にどしたの?びしょ濡れだよ。風邪引いちゃうって」 「……」 「アラシく」 「先輩」 「え、はい」 「俺、」 「うん?」 「先輩が好きです」 「…え?」 「他の人にかっこいいとか言われても嬉しくない、です。俺は、先輩だけに、 そう言われたい」 「ちょ…え?な、に」 「先輩のことがずっと好きだったんです」 「…アラシ、くん」 なにが起こっているのか理解ができない。どういう、こと? 夏の雨が降りしきる中、あたしとアラシくんはびしょ濡れで、なぜかアラシくんに抱きしめられ ていて、街の喧騒は雨と距離によって最少音量。 アラシくんの肩越しには表通りの人が傘をさして歩いているのが見えて、やけに遠く感じる。 確かに表通りが見えるのに、別世界のように感じるのはなぜなんだろうか。 時折目に雨が入って、視界がぶれる。それで、アラシくんはなんて言ったの? あたしがすき?すきってなに?あたしだってすきだよ、アラシくんのこと。でもそれは弟の ように感じるすきであって。 「…アラシ、くん?すきって、」 「俺は、先輩のことを一人の女の人として好きなんです」 「あたし、」 「今すぐ好きになってほしいとか思ってません。でも俺が先輩をそういう意味で好きだって 知っててもらいたかったんです」 「でも、あたしは、」 「返事は、今度ください」 「え、」 困るよ、困る。だって、あたしはレイヴン先生がすきなんだよ。それはきっと変わらない事実で。 だからアラシくんのことを先生のことをすきなように、すきにはなれないんだよ。 いくら時間があいたってそれは変わることなんか、絶対ないんだよ。だからあたしは今すぐ この腕を振り払ってごめんなさいって言わなきゃいけないわけで、だから、 「ただ、好きなんです」 「……」 あたしと、同じなんだ。アラシくんは、あたしと同じなんだね。 あたしがレイヴン先生をただ、どうしようもなくすきなように、あたしのことをそう、想って くれてるんだ。 同情?違う。同情なんかしたら失礼じゃないか。あたしは、自分とアラシくんを重ねて、 こわくなっただけ。あたしがアラシくんの気持ちを振り払うように、先生もあたしの気持ちを 振り払ったらどうしようって。でもこのままもよくない。ごめん、アラシくん。 「アラシくん、ごめ…!」 「…先輩?」 「せんせ、い」 アラシくんの腕を振り払って、ごめんって言おうとした時、表通りを歩く人の中にあろうことか レイヴン先生を見つけた。そしてアラシくんの肩越しに先生と、目が合った。 たまたまだったんだろう。たまたま先生は路地を見た。そうしたらそこには若い女と男がいて、 男の顔は見えないが、女の顔が見えた。そしてその女は、あたしだった。 世界が止まった気がした。雨の音も遠くの喧騒も心臓の音すら、消え去った。そんな瞬間。 先生はあたしを見つけて目を見開いて、なにかをつぶやいた。たぶん、あたしの名前だろう。 それから、なぜか傷ついた顔をしたから、だからあたしはその顔に釘付けになった。 違う。違うんだよ先生。これは違う。だって、あたしがすきなのはずっと、ずっと…! 待って!先生が、行っちゃう、 「アラシくん、ごめん。あたし行かなきゃ」 「…わかりました。引き止めてごめんなさい、返事はまた今度聞かせてください」 「…うん」 アラシくんに解放されたとたんにあたしはすぐ先生を追いかけた。 後ろで先輩傘!っていうアラシくんの声が聞こえたけど、足はもう止まらなかった。 早く、先生を見つけなくちゃ。それで、それで、あたしはどうする気なの?わかんない。 そんなのわかんないけど、でも追いかけなきゃいけない気がした。だから、走る。 雨の日で混んだ歩道に傘をささずに走るあたしを、人は怪訝そうな顔で見ては避ける。 今は逆にそれがありがたい。そしてたくさんの傘から先生を探した。 それから、駅の近くまで来たけど、先生がいないのでUターンして、先生と会った公園に 向かった。 「…先生!」 「ちゃん、」 「あの、あたし!」 「なにやってるの!びしょ濡れじゃない!」 「え?ああ、傘なくなっちゃって」 「…いいから、おいで」 「おいでって、」 「先生の家、この近くだから。しばらく雨、止みそうにないし」 「でも」 「いいから、はやくおいで」 「…はい」 いつもとは違う有無を言わさない先生におとなしく従った。 去年もこんな風にびしょ濡れのことがあったけど、その時のように強引に帰る力なんて、 今のあたしにはなかった。 ◆◆◆ 「今タオル出すから、ちょっと待ってて」 「…はい」 公園の近くのマンションが先生の家らしい。割と新しいマンションだった。 マンションの503号室が先生の部屋。玄関で先生がタオルを持ってきてくれるのを待つ。 玄関に一歩足を入れるとそこは先生の匂いがした。ああ、ここは先生の家なんだってやっと そこで実感したような気がした。いつもなら先生の匂いがーとか思ったかもしれないけど、 さっきのアラシくんのことと言い、先生のことと言い、なんだか思考回路がうまく働いて いないらしい。がんばれ、あたし。 「はい、タオル。それから、これ着替え」 「ありがとうございます…って着替え?」 「そんなびしょ濡れじゃ風邪引くでしょ。乾燥機かけるから、しばらくそれ着てて。 あそこ、洗面所だから、そこで。脱いだ服は近くにあるカゴに入れておいて」 「…はい」 またまた強引に押され、洗面所で先生から預かった服に着替える。 これも先生の匂いがする。ただそれだけで、胸はどきどきする。単純な心臓だなあ。 ふと、洗面所の鏡に映る自分を見て、なんでここにいるんだろうと思った。先生の家でなんで 半裸になってるんだか、と恥ずかしくなった。そんなこと考えること自体ばからしいけど。 急いで先生が貸してくれた服を着る。Tシャツはやっぱり大きくて、下のジャージも裾が 長いので折った。 着替えてからおそるおそる洗面所を出て先生を呼ぶと、向こうから声がしたので行ってみる。 そこにはカウンターキッチンでお湯を沸かしている先生がいた。先生にうながされ、リビングの ソファにちょこんと座る。 「ほい、紅茶」 「あ、ありがとうございます」 「ん」 先生から温かい紅茶を受け取ってすする。おいしい。 夏だからと言って、長く雨に打たれたらやっぱり身体は冷えるらしい。なので、先生が淹れて くれた紅茶で身体が温まった。 落ち着いてから部屋を見ると、シンプルな家具で揃えていて、整理整頓されていた。 先生は普段ゆるい格好をしているけど、実は整理整頓とか得意だったりするのかもしれない。 洗面所の方に行っていた先生が戻ってくると、あたしが座っているソファを背もたれにして 床に座った。 「服、10分くらいで乾くから」 「あ、はい…すいません」 沈黙。なんとも気まずい沈黙。 そもそもあたしってなんで先生を追っかけたんだっけ?あ、誤解を解くためだ。そうだ。 でも誤解を解くっていってもそれは先生には関係ないでしょって言われそうだよね。 というかそれが正解なんですけどね。むしろそれ以外のなにものでもないっていう話。 それでも先生には誤解してほしくない。それすら、あたしのわがままなんでしょうか。 「…あの子、こないだの後輩?」 「あ、そう、です」 「そっか」 「…はい」 「よかったわね」 「…え?」 「告白、とかじゃないの?」 「あ、いや、」 「きっと良い男になるわよー、あの少年」 「そう、ですね」 「付き合うんでしょ?」 「え、」 「おめでとう」 「……」 「おっさん寂しくなるわあ」 なに勝手に話進めてんだし。誰が誰と付き合うんだよ。意味、わかんないし。 あたしは、あたしがすきなのは、 「あたしは、」 「…なあに」 「あたしは、レイヴン先生がすきなんですっ!」 「え?」 「あたしはアラシくんのこと弟としか思ってない。気持ちはうれしいけど、でもあたしは、 ずっとずっとレイヴン先生がすきだから、だから!」 「ちょ、ちゃん、なに言って」 手に持っていたカップをテーブルに置くと、先生に抱きついた。 「あたしは、あなたがすきなんです」 「、ちゃ」 「先生とか、そういうの関係なくて、ただ先生が、すきなんです…!」 「…俺、は」 「言わないでください」 「え…」 「今は返事聞かない。まだ、いらない」 「…ちゃん」 「帰ります」 「あ、」 先生の顔を見ないで洗面所に走った。タイミング良く乾燥が終わった音がなり、勝手に自分の 着替えを取り出し、急いで着替えて玄関に向かった。 先生はいない。まだリビングにいるようだ。ちゃんとあいさつしようかとも思ったけど、 なんだかそれもできなくて、ちょっと大きめの声でお邪魔しましたって行って部屋を出た。 「あたし、なにしてんだろ」 アラシくんがしたことを先生にして、なにしてんだろう。 悔しくて、思わず想いが溢れてしまった。だって、先生はあたしとアラシくんのそのやりとりを 生徒たちの間の出来事としかとらえてくれてなくて、大人の顔してやり過ごそうとしてたから。 だから、悔しかった。あたしは、やっぱり先生とは対等にはなれないんだって。 先生と同じ目線から見てもらえてないんだって思ったら悲しくて、切なくて、苦しくて。 あたしをただの1人の女の人として見てもらいたかった。それで、こんな急に告白だなんて。 先生を困らせてどうするの、あたし。困らせるような形ではしたくなかったのに。 なんで、こうなるのかな。 あたしの心を見てよ、あなたがすきだと叫ぶ軋んだ高鳴りを。 |