梅雨が来た。梅雨の湿気はつらい。とってもつらい。 この梅雨を乗りきれば、すぐそこにはもう夏が。太陽が今か今かと順番待ちをしている。 そしてあたしたち3年生にとっては受験のための夏休みがはじまる。勉強の毎日さ。 かくいうあたしも夏期講習なるものをうけてみようかと思っているので、受験生仲間入り。 で、実は今日、その夏期講習を申し込みをしに最寄り駅の隣の駅までやってきています。 あたしは予備校とかに通っているわけじゃないので、夏期講習だけ申し込めるところに来て いるわけです。夏強化です。夏に実力強化ってことですよ。 予備校ってすごくめんどくさそうですから、まあ別に夏くらいでいいんじゃね?っていう。 あたし、それでだいじょぶなのかしら。きっとだいじょぶだ!そういうことにしておく。 予備校は駅から徒歩5分くらいのところにある。駅が近くて便利!すぐ帰れるね!なんつって。 ちゃんとお勉強しますよ、夏くらいは。ええ、夏くらいは。 「はい、受理しました。それでは、こちらの方を講習初回の時に持ってきてください」 「わかりました。ありがとうございまーす」 無事受理されちゃった。申し込みの。いや受理されていいんですけどね。ほんとに行くのか としみじみ思ってみただけですよ。 さーて、もうここには用はないので帰ります。にしてもここ涼しいなあ。外は久しぶりの晴天 のおかげでめっちゃ暑いんですう。汗がだらだらですう。出たくない!クーラーが効いたこの 建物から出たくない!でも出るー。アイス食べようっと。 予備校から一歩足を踏み出すと、もう暑い。あー暑い。暑いって言うな!暑いんだから! とか若干頭がおかしくなりそうです。なので駅の近くのコンビニにすぐさま避難。 「すんずしーい」 生き返るわーと言っても、そんなまだ汗出てないけどね。まだいけたけどね。いいんだ。 さあ、アイスを食べよう。アイスを。やっぱりガツンとみかんだよね。 いやーユーリ先輩に泣きついた1年生の夏を思い出すわあ。今思うととんだ出会いですね! 「って、ガツンとみかんないし…ありえんてぃー!しょうがないからガリガリくんにするか」 「あれ、先輩?」 「うい?おー、アラシくんじゃん。どしたの」 「いえ、アイスを買いに来たんです」 「あらまあ、アラシくんでもアイス食べるんだね!」 「あはは、食べますよ。というか先輩、この辺りなんですか?家は」 「んー違う違う。今日は夏期講習の申し込みしてきたんだよ」 「あそこの予備校ですか?」 「そうそう。アラシくんは家近いの?」 「はい。ここの近くの公園の先です」 「へえ。あたし隣の駅なんだ」 「そうなんですか、じゃあ割と近いですね」 「うん」 ばったり会ったアラシくんとアイスを買って、近くの公園に行くことにした。 なんかこの暑い中、アラシくんは暑そうな感じしない。あたしってばわんこのように舌を 出してしまいそうだというのに。あ、これは例えであっていくらなんでも出しませんからね! 「暑い。おいしい」 「そうですね」 「アラシくんさ、暑いの感じる?」 「感じますよ」 「ふうん」 「幽霊だと思いましたか?」 「んなわけないよう!なーんか涼しい顔してるからさあ」 「そうですか?一応汗かいてるんですけどね」 「あ、ほんとだ」 公園の日陰にあるベンチに座って2人でアイスを食べた。 あたしはガリガリくん。アラシくんはハーゲンダッツ。この金持ちめ。うらやましい! 涼しい顔しているアラシくんは幽霊じゃなかった。知ってたさ。 あたしよりも少し背の高いアラシくんは、ベンチに座っても少しあたしより高い。そんで、 どっかの先生とは違って猫背じゃない。背筋が良い。だから余計涼しく感じさせるのかしら。 そんなアラシくんの横顔を見ると、確かに汗がにじんでいた。ああ、やっぱり暑いんだ。 だって人間ですもの、そりゃあそうですよねえ。あーガリガリくんっておいしい。 「もうすぐ夏休みだねえ」 「はい」 「臨海学校あるね、いいなあ」 「先輩はもうないですもんね」 「そうなんだよー。ほんとね、たのしいよ沖縄」 「へえ。お土産買ってきますね」 「あらやだ悪いわねえ!あ、じゃあ修学旅行でお土産買ってくるね」 「本当ですか?うれしいです!」 「まあ、まだどこ行くかはわからないんだけどね」 「…俺、」 「ん?」 「先輩と沖縄行きたかったです」 「うれしいこと言ってくれるね!でもそうだよね、ちょうど入れ違いだからなあ」 「…はい」 「そう落ち込まないのー。学校ではいくらでも会えるんだからさ!それもあと1年だけど。 あれ、でも1年もないのかな?」 「そう、ですね」 1つ疑問に思った。すごい今さらかもしれないけど、アラシくんはなんでこんなにあたしに 懐いてくれるのだろうか。別になにかしたわけでもないのに、なんかすごい懐いてくれてる。 うれしいけどね。うれしいけども、単純に疑問に思ったというか。なんでだろうなあって。 それよか、この子はちゃんとクラスに溶け込めているんだろうか。ちょっとおとなしいから あたしゃあ心配だよ。えっちゃんみたいに積極的な子はだいじょぶだろうけど、アラシくんは 積極的にいけそうな子じゃないからちょいと心配。親心というか姉心というか。そんなん。 ていうか顔は良いし、この儚げな雰囲気がまた女子にもてそうな気がする。なんでこうあたしの 周りってのはもてそうなやつばっかなのかね。ずるい! 「アラシくん、クラスはどう?」 「楽しいですよ。俺はあんまり人の輪に入っていくことはないんですけど、仲良いやつはいます」 「そかそか。大事にしなー友だちは!あたしもさ、エステルっていう親友がいてね、すごい 良い子なんだよ。きっとこれからも付き合っていくんだろうなって思うくらい」 「へえ、いいですね、そういうの。でも、俺が仲良いやつもそんな感じかもしれないです。 すごく気が利くやつで、安心できるというか」 「ほほー!良い友だちを持ったね」 「はい」 そかそか。安心だぜ、お姉ちゃんは。 よく、こういう少年ってクラスで浮いちゃってーとかあるかなあと思ったんだけど普通に 仲良い友だちがいてよかった。しかもエステルみたいに親友って思える子がいるってすごい すてきなことだもんね。 ガリガリくんおいしかった。すっかり食べ終わってしまった。アラシくんもいつの間にやら 空になったカップを持っていた。 それからしばらくは、ぼんやり近づく夏を身体で感じていた。ていうか湿気どうにかしろ。 「…ちゃん?」 「はい?ってレイヴン先生!?なんでここにいるんですか!」 「なんでって、先生この近所に住んでるんだもん」 「あ、そうなんだ」 「そうよー。で、お隣さんは?…彼氏?」 「ぶあかか!後輩です後輩!」 「後輩?あれ、でも前に教室に来てた子とは違う?」 「そです。あれはえっちゃん。もう2年生ですよー。この子は1年生の時枝アラシくんです」 「初めまして、時枝アラシです」 「あ、どうもどうも。おっさんはちゃんの担任のレイヴン先生です」 「あたし理系なんだ。でね、この先生は物理の先生なんだよ」 「そうなんですか。だから見たことなかったんですね」 「1年じゃ物理ないもんねえ。ま、もし理系に行くことになったら来年お世話になるかも しれないね!お世話にならない方がいいかもしれないけど」 「ちょっとちゃんてばひどおい!ぷんぷん!」 「すぐ冗談を真に受けるんですからねー大人げなーい」 「ピュアなだけだもん!」 「そうですねー」 「ちゃんと聞いてよう!」 「あははっ、2人共仲が良いですね」 「そんなことないよう!いやだわーアラシくんたら!」 いやだわーと言いつつほんとはうれしかったりする。先生と仲良いって言われてうれしいに 決まっているじゃないですか!あはん。 というかね、こう休みの日に先生と会えたっていうのがうれしいんです。 学校以外で会えることが、とってもとってもうれしいんですう!なんか新鮮だあい。 こういう小さなしあわせがたまらないですね。 「あ、そろそろ俺、帰りますね」 「そっか、じゃあまたねー」 「はい。先輩、また。先生も、失礼します」 「ほいほいー」 爽やかなアラシくんは去って行きました。なので、今までアラシくんが座っていたところに 今度は先生が座りました。あらやだ、正直隣が先生のがうれしいとかごめんねアラシくん! 恋する乙女はとっても正直なのです。 「なーんかちゃんて、部活はいってないのに後輩と知り合うわよね」 「そうなんですよねえ。なんででしょ」 「年下キラーなのかしらね」 「えー年上キラーの方がうれしい」 「なんでー?」 「甘えたいお年頃だからです★」 「ふうん」 「興味ない感じですかそうですか」 「笑顔なのに目が全然笑ってない…!ちゃんこわい!」 「ぷん!」 「怒らないでえ!ってでもほんとにどうやって知り合ってるの?ナンパ?」 「してねえから!なんで後輩をナンパしなきゃいけなんですか!先生じゃないんだから」 「おっさんはそんなことしないわよ!失礼しちゃう!」 「でもほんと偶然の産物みたいなもんですよ」 「ほー」 「えっちゃんはエステルに憧れてるからなんちゃらで成り行きで仲良くなったんです。 まああいつちゃっかり彼女作りやがってそろそろ爆発するらしいんですけどね」 「いやいやそんな予定は入ってないでしょ!」 「アラシくんは、まさに偶然ばったりどうもこんにちは私ですって感じ」 「どんな感じ!?」 「んー…校内で迷ってたところ、道を教えてあげた、というところですかね」 「なるほどー」 ほんとは秘密の花園に迷い込んだ子羊なんですけどね。前にも思ったけど、別に言わなくても いいだろうという結果が出ましたのでそういう方向でおねがしいます。 それにあれはえっちゃんの時よりも偶然度高いもんね。えっちゃんはあたしがエステルと仲良く なかったらあんな風に来なかったはずだし。あれ、それはそれでなんかすごくむかつくね! えっちゃんとか彼女をちゃっかり作ってさ…裏切り者!!! 「そういえば今さらだけど、なんでここにいるの?」 「ほんと今さらですね。あのー夏休みにそこの予備校に夏期講習行こうかと思いまして、 今日はその申し込みをしに来たわけです」 「そっかそっか。受験生だものねえ」 「そうなんですよー。ま、夏くらいは勉強ちゃんとしようと思って」 「先生からしたらいつもしてほしいんだけどね」 「まあまあそう言わずに」 「いやでもですね…って勉強ばっかりしてもあれだしね!」 「そこはもう少し止めた方がよかったかもしれないです」 「まじ?」 「まじ」 あ、もしかして、夏期講習の間はここに通うわけだし、偶然先生に会う確率もいつもよりは 数倍あーっぷするわけですか!なにそれとってもおいしい。夏期講習さまさまですね。 別に勉強はすきでもきらいでもないですが、今回ばかりはほめてやってもいい功績ですよ。 さすが夏期講習、わかってるね!よっ!日本一!もはや意味がわかりませんね。 今年は臨海学校ないし、夏休み先生に確実に会える日っていうのがないからありがたいわ。 ま、ほんとに会えるかなんてわからないけど。でも少しの可能性にかけたっていいじゃない! そんなお年頃なのよあたしは。若いから、ちょっと冒険しちゃうわよ!みたいな。違うか。 「夏休みここに通うならばったり会うかもしれないわねえ」 「ですね。その時はぜひガツンとみかんを奢ってください」 「ええー」 「夏休みに勉強がんばってんですからそれくらいしてくださいよ」 「気が向いたらね!」 「いつでもこっちに向けといてくださいよ、気を!」 「無茶を言いよる!」 「夏休み会えることをたのしみにしていますうふふ」 「ひい!」 ガツンとみかんなんておまけですよ、おまけ。 そりゃ奢ってもらえるというなら奢ってもらいますけどね。だけど、1番の目的は先生です。 だから夏休み会えることをたのしみにしているのは本音です。 あたしはいつだって本音と素直さでぶつかっているのですから! こうして、あたしはこれから来る夏に期待を寄せるのでした。たのしみだわーい! ◆◆◆ 「期末終わってしまったね」 「ですね」 「エステルちゃん、今年は夏遊べそうにないね」 「ですね」 「あ、でも花火大会くらいは行けるかな?」 「行けるかも、です。去年、ユーリ達も花火大会には来てくれましたし」 「そうだよね!ていうかお泊り会したよね」 「しましたねえ」 「だけど日程合わないね…」 「残念です…」 「しょうがないから、ちょいちょいメールとか電話してがんばろうぜ!」 「はい!」 期末が終わればもう夏休みですよ。夏期講習の夏ですよ。今年は遊びに行けないですね。 でも花火大会くらいは行けたらいいなあと思っております、はい。 そういえば、夏休みが終わったら修学旅行ですよ。9月。もう9月の話かい!ってなるかも しれませんけど、ほら、9月だから、夏休み前には修学旅行のこといろいろ決めなくちゃ いけなくてですね、場所も決まったわけです。 去年ユーリ先輩たちはハワイでしたけど、今年は違うんですねー。さあ、どこに行くのでしょう! 続きはwebで!うそです、今言います言います。ななななんと!イギリスです。 おしゃれ!英国紳士がきっとたくさんいるはずですね!まゆげとか。あ、これ違いますね! ツンデレ英国紳士がいることをあたしは強く望んでいるよ。だから違うって!落ち着いて! あれ?今思い出したけど、あたしの父と母、イギリスとかそこらへんで仕事してたような気が する。ヨーロッパだったような記憶はなんとなくあるので、たぶんそうだろう!わからんが。 なんせ時差がありますゆえ、あんまり電話とかしないんだよね。お金かかるし。手紙とかは 来るけど、英語で書かれてるからめんどくさいので読みません!というか読めないんだよ! あんたらの娘は英語読めないし、しゃべれないの!そこらへん把握しておいてもらいたい。 そして英語で手紙を書くのをやめなさい。今すぐに!というか頭を日本に切り替えて手紙を 書いてもらいたいものですね。じゃなきゃ返事する気にならんわ。 でも前に、英語の辞書を引きながらがんばって解読して手紙を出そうとしたこともあったの ですが、辞書引いてがんばってるうちに次の手紙が英語でまた来てやる気というやる気が 消えました。消滅しました。絶滅しました。だからもうやらない!2度とするものか! そういうわけで、修学旅行はイギリスですよっていう話でした。ちゃんちゃん。 「夏期講習がんばろうね!」 「はい!」 「そんで、9月の修学旅行思いっきりたのしもうね!」 「はい!」 そしてあたしは修学旅行で先生とあはんどきん★な、らぶいべんとが起こることを祈るんだ! 海外でのらぶいべんと!きっと起こるはずだ!というか起こす!意地と根性で起こす! だからあたしを応援しててくれい!ぐっばい! 雨を越えて青嵐を待つ。 |