賃貸










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戦いの季節が再びやってきたでござる。そしてこのあたしが唯一活躍できる季節でもある。
それは、体育祭!あたしの中の血が勝ちに行けと叫ぶのです。今年もあたしはやったるで!
はい、そういうわけなので体育祭、全身全霊がんばっていきたいと思います。
あたしたちのクラスは緑です。去年は青だったんですけどね。緑か。ぐりーんだよ!
そしてあたしが出るのは去年と同じく借りもの競争とリレーです。去年のリベンジ!どちらも。
借りもの競争はレイヴン先生を借りるため、リレーは肘鉄事件のリベンジですよ。
まあ前者の方ちょっとおかしくね?と思う方もいらっしゃるかもわかりませんが、気のせい。
それは完全に気のせいですのでお気になさらず!さあ、今年もがんばっていきましょー!




「いやー今年もめざせ優勝だね、エステル!」
「そうですね!がんばりましょう!」
「お前ら緑か?」
「あ、ユーリ先輩!フレン先輩!」
「今年は僕たちと違うみたいだね」
「あれ、先輩たち何色なんですか?」
「今年も青だよ」
「あらーそうなんですか。言っておきますけど、負けませんからね!」
「望むところだな」
「でもポニテはありがとうございます」
「意味がわからん」




先輩たちとはどうやら組が違うみたいですね。あたし残念だよ。とっても残念。
だからといって優勝をゆずるとかは無しですけどね!あたしは全力で優勝をもぎとるよ!
そういえば、先輩たちがハワイから帰ってきてお土産もらったんですけど、なんかあれだった。
フレン先輩はマカダミアナッツのチョコレートをくれたんですけど、ユーリ先輩がくれた
お土産が、あれだった。黒い石のネックレス。いやあれはネックレスと言えるのだろうか。
ほんとに黒い石でできてる首飾り?あれをどうしろっていうんだよって感じだった。
正直、あれほどうれしくないお土産ははじめてだぜ…ていうか意味がわからないが9割。
まあとりあえずお家にぶらさげてみてるけどね。使い道がわかりません。
あ、もしかして魔除けとかだったのかな。あーもう知らん!なかったことにする。
と、そんな小話でした。
よーし!お土産話はここまでにしてここからは体育祭に全力で挑むよ!いえい!





























応援席に移動したあたしたちです。最初の競技がすでにはじまっているので応援中。




「エステルはなに出るんだっけ?」
「わたしは棒引きです」
「棒引き!だいじょぶ?あれ危ないよ?あたし小学生の時あれやって見事に満身創痍に
 なったよ!ほんと危険よ!」
「だいじょうぶですよ!意外とも心配症ですね」
「いやいやあれまじで危険だからね!あたしほんとに満身創痍だったかね!気をつけて!」
「わかってます」
「もしエステル1人に対して相手が何人もいたら無理せず離すんだよ!」
「はい」
「ほんとにわかってる!?」
「わかってます!だいじょうぶですよ」
「もうおばちゃん心配で胸が張り裂けんばかりだよエステルちゃん!」
「だいじょうぶですから、見守ってて下さい」
「そこまで言うなら見守る!ガン見する!」
「はい、おねがいします!」
「おk!」




見守るけど心配だよう。あれはなかなか危険だからね。これ実体験ヨ!
小学生の時棒引きで、あたしは見事に引っ張られました。そして両膝両肘両掌とどめに右腿
を負傷しました。お風呂が地獄タイムだた。痛くてもう大変よ。もしエステルがああなったらと
考えるだけでわしぶっ倒れる。でもそうなったらフレン先輩がぶっ倒れる。
とりあえずあたしは怪我しないように目をかっぴらいているしかないね。がんばれエステル!










とか言ってたらエステルはさっさと入場ゲートに向かっていた。のであたしは応援席で待機。
そしてエステルの位置を確認!ああー心配だよう!どうか怪我しませんようにいいいいい!




「あれエステリーゼ先輩ですか?」
「そうだよそうだよ!だから心配なんだよう!って、ん?」
「棒引きって危ないですもんね。俺も一緒に応援します!」
「いやいや、えっちゃんよ。なに紛れ込んでるの」
「え?何がですか?」
「なにがって全部だよ!ここ2年生の応援席だし、そもそもきみ青組でしょ」
「でも応援する気持ちは変わりません!」
「自分の席で応援しろっちゅーてんだよ!」
「え?一緒の方がいいですって!さ、先輩も応援しましょう!」
「おま、話を聞けこらああああ!」




こんなに横でぷんすかしているというのに、えっちゃんはエステリーゼせんぱーい!とか
叫んじゃってる。おいおい、エステルにアタックしたいなら本人がいる時にもなんかしろよ。
地味にアピールしてんじゃないよ!ていうか自分の席で応援しろっての!色も違えば学年も
違うきみが横にいたらいろいろおかしいんだっつの!
でも彼には全然聞こえてないみたいDEATH★もういいや。すきにしてくれ。
では気を取り直してエステルの応援をしたいと思います。




「エステルがんばれー!そして気をつけてー!」
「エステリーゼせんぱーい!がんばってくださーい!」
「ああ!気をつけてよほんとにいいいい!」
「1本取りましたよ!さすがですエステリーゼ先輩!」
「あわわわわ!おいいいい!誰かエステルの援護にまわってええええ!」
「危なかったですね先輩!」
「ほんとだよう。もう心臓がばっくんばっくんですわ」




こんなやりとりを繰り返し無事エステルは帰還した。まじよかった怪我とかしなくて。
そして見事勝利を収めて帰ってきたよ。もうえらい!この子えらい!
エステルよかったねーかっこよかったよー!って話していると、気がつけばえっちゃんの姿は
消えていた。あの子一体なんなの。ちょっとしたストーカーみたいになってるぞ。
いい加減直接しなさいよね。なんかあたしがつかれるからやめてほしいわ!


















「さーてさてさて!今度はちゃんの番だぜい!」
「がんばってください!あ、今年はお姫様だっこしないでくださいね?」
「いやだなーエステルってば!あんなこともうないって!そんな連続でお嬢様を引き当てる
 わけがなかろうて」
「そうですよね。でももし書いてあってもなしですよ!」
「わかってるよう!じゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃい!」




去年のリベンジ第一弾。「先生」カードを引き当てよう!をスローガンに掲げて、借りもの
競争へと向かいたいと思います。今年こそはレイヴン先生と手をつないでるんるんするんだ!
るんるんしつつ1位でゴールします。ええ、してやりますとも!








自分の順番を待ちながら今回も右と左を確認。右をちらっ。左をちらっ。負けへんで。
あんたたちに先生は渡さないんだからね!
無駄に血走った眼でキョロキョロするあたしは相当怪しい。というか危ない子。あはん。
絶対今年こそは先生カードをゲットするんだからね!深呼吸しとこ。すーはーすーはー。
よっし。気合い入った!あたいならやれる!絶対にやれるううううう!
とここで、パーンとうるさい音が鳴りました。そして軽快なスタートをきるあたし。
去年のあたしとは一味違うんだからね。気合いの入りようが違うんだからね。
お、カードあったど!さあ、どれを選ぼうか。どうする俺!?じゃ、これで。
時間もないので直感でとらせていただきました。でもそれなりに心臓どきどきしてるのよ。
見るよ。カード見るよ。見ちゃうよ!?いいよ!




「先生こい…!んん?」




スローモーションのようにカードの文字がちらりと見える。これは、これはああああ!!
先生と書いてあるよ!あたしうれしい!うれしいけど、違う。これは違うよ!あたしが求めて
いたカードとはちょこっとだけ違うよ…!
そこには、「先生(謎の化学教諭)」ですって。それってレイヴン先生じゃないじゃん。
先生は先生でも猫と戯れてた方の先生やん。どういうことですか。これってどんな罠?
あげて落とした感じがすごいんですけど。ねえねえどういうことです!?神さまああああ!
ショックに打ちひしがれるあたしの目に入ったのはもっとショックなものでした。
違う女の子がレイヴン先生のとこに行って一緒に来て的な感じの雰囲気になってるううう!
もういやだああああ!悔しいよう!あたし最高に悔しいよう!今までの人生で1番悔しい!
ちくしょう!もういやだ!でもあの女子に負けるのはもっといやだあああああ!!
ここは悔しい気持ちをエネルギーに変換したいと思います。
まずはデュークの元へ急げ!おらおらどけどけえええええええい!




「デューク先生!」
「どうした」
「あたしと一緒に来てくださいいい!」
「わかった」
「絶対1番獲りますよ1番んんん…!むきー!」
「わかった」
「わかったって、え、あ、おいいいいい!」




ちがああああああう!普通に走れよ!なんでこうなるの!どうしてこうなった!
わかってねえよ!あんたなにもわかってねえよ!普通に走るの希望なのにどうしてあたしは!
デューク先生にお姫様だっこされてるんですかー!なんでだー!どうしてだー!たすけてー!
誰かこの人に違うって言ってください!通訳を!猫さん来て!こいつに違うにゃーって言って
くださいおねがいします!




「おおおろしてくださいデュークせんせいいいいい!」
「このまま走った方がはやいだろう?」
「いや確かにはやいけど…ってあたしも足速いですからだいじょぶです走れます走らせてえ!」
「このまま行くぞ」
「ひいいいいいい」




ものすごい注目浴びてることはわかってます。わかってますけどどうにもできないのよ!
あたしにはどうしようもないのよ!しかもはやい!思った以上にはやい!ので、あたしは
必死にデューク先生の首にしがみつくことしかできないんだな…。なんという現実。
ていうかまじではやいこわい!と、ここで前方にレイヴン先生と手をつないだ女子を発見。
悔しいよおおおおおお!やっぱり悔しいよおおおおおお!
あたしもレイヴン先生と手をつなぎたかったよ!めちゃくちゃつなぎたかった!公式の場で!
なのになんであたしはデューク先生の首にしがみついてるんだろうね…。
こうなったら1位を獲るしかない!それしかあたしのこの不完全燃焼をどうにかすることは
できない!いけ!デューク号!




「デュークせんせいがんばって1位獲ってくださいいいいい!」
「わかった」
「ひい!はややー!」




こいつすげえ!そしてなんかあたし今ラピュタの巨人兵にしがみつくシータみたいになってる。
すごい細かくてごめん。このまま思わずパズー!って叫びたくなっちゃう。なんてな。
そんでもってレイヴン先生たちを抜かす時、レイヴン先生はすごいびっくりした顔をしてた。
ま、1番びっくりしてるのあたしなんですけどね、あははー。スゴイオモシロイヨ。
そんなわけで無事1位でゴール!いえい!なんか複雑な気持ちだけどね!もういいんだ!




「あ、デューク先生ありがとうございました。1位獲れました」
「ああ」
「ほんとおつかれさまです」
「ああ」
「……」
「……」
「あの、おろしてください」
「ああ」




この人壊れてないよね?ああ、しか言ってないけど壊れてないよね。でも無事デューク
巨人兵におろしてもらいました。そしてこの巨人兵のおかげで1位獲れたしやったね!
結果的にやったね!まあ、レイヴン先生と手をつなげなかったことが想像以上にショック
なんですけどね…ははん。




「おつかれさまです、!」
「おおー…エステルひさしぶり」
「なんか老けたなお前」
「ユーリ先輩もなんかひさしぶりですね…」
「相当目立ってたぞ」
「ええ、そうでしょうね!それはあたしが1番感じましたよ」
「お疲れさん」
「はい…。エステル、あたしちょっと顔洗ってくるわーさっぱりしなきゃやってられん」
「わかりました。席に戻ってますね」
「うい」





















精神的に疲れた。無駄に疲れた。ほんと疲れた。
そしてあたしとってもショックです。今年もレイヴン先生と手をつなげなかった…!公式で。
そりゃあね、夏休みの花火大会で奇跡的にも手をつなげましたけど?でもね、可能性がある
ならどんな時もつなげるチャンスがほすいよ!あたし必死すぎる!
公式の場で手をつなげたらもういつもより8割増しではやく走れたのに。らぶぱわーで。
なのにあたしはデューク先生の首にしがみつくことしかできなかっただなんて…!ひどい!
ひどいよ神さま!そんなのってないよう!しょぼん。
とりあえず顔をばしゃばしゃ洗ってすっきりしたいと思うんだぜ。
人気のない水道で1人ばしゃばしゃしてみています。冷たくて気持ちいいですやんす。
さっぱりすっきりするね。はうあー。




「あーすっきりした!やべ、タオル持ってないや。まあいっか、体操服で」




誰もいないことをいいことに体操服で顔拭いちゃうあたし。女子がそんなことしちゃいかん!
男子の前ではちゃんとハンドタオルで拭きましょうね。女子力が問われます。
そんな女子力が圧倒的に低いあたしはゴシゴシ体操服で拭いてます★ゴシゴーシ!
いやでもすっきりしたから良いと思うんだぜ。あははーとかなんとかでふと顔をあげると
あれ、あれれのれ?せせせせせんせい!?




「せせせんせい?」
「……」




なんとレイヴン先生がいるよ!と、ここでただ今の状況を説明したいと思います。
あたしは顔を体操服で拭いていました。ゆえに腹丸出し!恥ずかしい!猛烈に恥ずかしい!
でもなんか向こうも固まってるからあたしまだ腹出し状態継続中。いやんばかん!
とりあえずはっ!と気を取り直して腹を隠してみた。なにもかも遅いような気がするけど。
それはささーっと流していただけると幸いです。




「あー…と、あたし席にもどります、ね」




どうにもこうにもできない空気にあたしはこの場から撤退することにした。
なんで先生がここにいるかとか、そんなことは今はどうでもいいんですよ。とにかくここから
脱出するのが正解なのだYO!
相変わらず一言も発していない先生の横はすすすーっと通り過ぎた、なう。
だかしかし!ここでまさかの展開が起こるのでございます!なぜだかわかりませんが、先生が
あたしの腕をガッ!と掴みました、なう。最近腕掴まれること多くないですか、あたし。




「先生?どうしたんですか?」
「……」
「…先生?」
ちゃん」
「え?あ、はい、なんでしょう」
「1位、おめでと」
「は?あ、ありがとうございます…?」




おめでととか言いながら全然そんな感じしないんですけど。もしかしてあれですか。
実はあたしに負けたの悔しかったりする?そうなの?そうだったりするの?
いやでもあれはあたしだって悔しさをバネに1位をもぎとったようなものですからね。
あたしだってレイヴン先生と手をつなぎたかったんだからね!これ怒るとこ違うね。
ていうか、ほんとにおめでとうっていう空気じゃないんですけど!あたしなんかした?
あたしはなにかしましたかー!




「あの、先生、なんかあったんですか?」
「どして?」
「いや、ちょっと和やかな空気が一切流れてないこの感じが、ね。というか先生の顔が
 こわい、です」
「…そう?」
「ええ、まあ、はい」
「そっか」
「え?うん、そうです?」




え?なにこれなにこれ?どういう状況?どういうことなの?あたしはなにをすればいいの?
どうしたらいいの?ほんとに!誰 か 教 え て !
ぷりーず!とってもぷりーず!あたしにはもうどうにもこうにもできましぇん!
ていうかいい加減腕離してーな!




「先生ほんとにどしたの?だいじょぶ?具合悪かったりするの?」
「え?いやいや、元気よー」
「いやいやどうみても元気には見えませんけど」
「あー…あれかも」
「どれ?」
「うらやましかったのかも」
「なにがですか?」
「デューク先生が」
「はい?」
ちゃんだっこしてずるーい!おっさんもだっこしたかったー!」
「え?な、なに言っちゃってんですか…」




あたし今ものすごい変な顔してるかもしれない。そして理解が追いついてない。
脳みそがんばって今のを理解してください。頭の中をぐるぐるループするだけで意味不明。
今なんて言ってた?この目の前で若干拗ねた顔しているおじさまは。
これ冗談?すんごい笑えない冗談?そういうことなの?だっふんだ!




「どしておっさんのカード引いてくれなかったのー!」
「ええ!んな無茶言わないでくださいよ!」
「くじ運全然ないわねちゃん!」
「そんなことないですよ!ていうかあたしだって先生引きたかったし!」
「でもデューク先生引いちゃってんじゃない!」
「あたしのせいじゃないでしょ!先生だってなにあの女子と仲良く手つないじゃってんですか!」
「だって一緒に走るんだもの、しょうがないでしょ!」
「いやむしろこっちのがしょうがない状況でしたよ!」
「お姫様だっこする必要なくない!?」
「不可抗力です!」
「おろしてって言えばいいじゃん!」
「言いましたー!でもスルーされたんですう!」




これ一体なんなんでしょう。そしていつ終わるの?もうすべてがわっかりっませーん!




「来年は先生を引きますから!」
「うそだうそだー!」
「うそじゃないです!あたしを信じてくださいな!」
「えー」
「先生、あたしを信じて」
「…うん」
「はい、約束です」
「指きり?」
「指きりです」




先生と指きりをした。子どもの頃に戻ったような気分です。
むしろ先生と指きりをしているこの瞬間が不思議で仕方ない。なぜこうなった。
あーもう!先生って性質悪いわあ。こんなことするなんてさあ。あたしにこんな期待させて
どうするつもりなんでしょうか。あたしはもう先生に想いを募らせることしかできないよ。




「それじゃあたし戻りますね」
「ん。おっさんはもう少ししたら行くわ」
「わかりましたー」




すっかり慣れた高鳴る鼓動を胸に応援席へと戻る。
どうして先生との時間はこんなに愛おしいんだろうね。それにしても先生ってば謎すぎるう。















「あの眼に弱いのよねえ…。あー最近どうかしてるわ」

















高鳴る鼓動とデュエットを。




















として 少女