質屋










17











2年生ってすばらしい。今あたしはしあわせだ!と大声で商店街を走り回りたい。
でもそうしたらきっと大変なことになるね。商店街パニックですよ。
そして携帯にはいろんな人から電話がかかってくる。あんたなにしてんの!ばかなことは
やめなさ…もうやってた!とかね。いややらないけどね!そんなことやったら、
海外から両親がぶっ飛んできてメリケンサックでボコボコですよ。たぶん。
ってこんな妄想がここまで広がるとは自分でも思わなかったぜ。とにかく、しあわせって
ことを伝えたかった。
毎朝レイヴン先生で始まり、レイヴン先生終わる一日。なんてすばらしい日々なんでしょう。
あたしってばこんなにしあわせでよかですか。こんなしあわせでいいの?いいのかい!?
いやーほんとわけてあげたいね、このしあわせを。世界中の人に!うふふ!




「おはようエステルー!」
「おはようございます、。今日も朝から元気ですね」
「そうなのよう、もう元気が有り余ってるよ!あはははん」
「相変わらずだなお前は」
「あれ、ユーリ先輩!とフレン先輩」
「僕をついでみたいに言わないでくれよ…」
「その有り余った元気を違うことに使えれば、お前ももっとしあわせだろうに」
「どういう意味ですかー!」
「まあまあ。それより君たち同じクラスになれたんだってね」
「そうなんですよ!エステルとは運命で結ばれた親友なんです!ねー」
「ねー」
「迷惑な運命だな」
「なにを!」
「まあまあ!」




ユーリ先輩ってばツンデレで、きっとあたしがエステルと仲良しこよしだから、
うらやましいんだな。そうだそうだ!だからこんなに突っかかって来るんだ!
は!?まさかそれは、恋ですか!あたしに恋しちゃってるんですかユーリ先輩!




「してねーよ!」
「なぜ考えてることがわかったんです!?」
「口からだだ漏れだぞ」
「なんと!」
「ったく、ほんとのんきなやつだなお前は」
「そんなことないですよ!今日も朝から世界平和について考えて」
「そういえばお前らの担任おっさんなんだってな」
「スルーされた!!で、まあそうですね。レイヴン先生でっすうふふ」
「なににやにやしてんだよ。気色悪い」
「気色悪いて失礼な!ぷんすか!というか先輩たちは担任誰になったんですか?
 そもそも同じクラス?」
「結局3年間こいつと同じクラスだよ。で、担任はデューク」
「デューク先生ってまた謎なとこ行きましたね」
「本当にね。不思議な人だよ」
「どんな感じなんです?」
「どんなって言われてもな、無心で仕事こなしてるって感じだな。何考えてるかわからん」




確かにデューク先生って不思議というか謎というか。まあ悪い先生には見えないけど。
でもアレクセイ先生より100万倍マシだと思う。なんかアレクセイ先生って変態くさい。
前にも言ったような気がするけど。
ってまあ、これは主観的な感想なんですけどね!でもなかなか的を射てる気がする。
あたしも気をつけようっと!って誰が平平凡凡な少女をどうにかしようと思うんだよ!
むしろあたしがエステルを守らねば!あれ、でもその役目はフレン先輩だし。
というかそもそもなんの話してたんだっけ?




「あ、でもあたしデューク先生がねこと戯れてたとこ見ましたよ」
「猫?」
「そうですよ、ねこねこにゃーん」
「デュークが猫と…」
「でも違和感ない気もするね…」
「深まる謎ですなーあはは」




ねこと戯れてたデューク先生はなんだかいつもよりやさしい顔をしていたような気がする。
ねこもすごい懐いてたし。
デューク先生って人間より動物の方が得意そうだよね。じゃあなんで先生になったんだろ。
あらやだ、謎は深まる一方じゃない!さっきよりも深まった。
別になんでもいいけどね。先生になろうがペットショップの店員やっていようが、
デューク先生はデューク先生だ!ってなんでフォローしてんだ。




「そういえば、もうすぐ試験だね」
「……」
「急におとなしくなったな、
「今回も僕が教えてあげるからね」
「いえいえいえ、間に合ってます」
「いやいやいや、遠慮しないで」
「するよ全力で!ユーリ先輩、いい加減フレン先輩をどうにかしてくださいよ!」
「無理言うな。むしろオレがどうにかしてほしいと願ってる」
「一緒に頑張ろうね、2人共!」
「あ、そうだそうだ!フレン先輩忙しいんじゃないですか?ほら、生徒会で!
 だから悪いですよーほんと悪いわー無理させられないわ―。ね!ユーリ先輩!」
「そういうことだから、無理すんなフレン。オレらは自分でやるから」
「そうですそうです」




よし、ナイスだ!良いチームプレーだ!
ユーリ先輩とこれならうまくいきそうですね、ぐへぐへと小声で会話中。
われわれは、今度こそ地獄を回避するのだ!生徒会とかもっと仕事しろ!忙しくなれ!




「ユーリ、…」
「なんですか?」
「どうしたフレン」
「2人共、そんなに僕のことを考えていてくれただなんて…!」
「え?」
「は?」
「いいんだよ、そんなこと!それに試験期間中は生徒会もさすがに仕事はないから、
 みっちり教えてあげられるよ!」
「あれ、おかしくないですかユーリ先輩」
「おかしいな、何かが」
「さ、そうと決まったら今日から勉強しよう!エステルさんも付き合っていただけますか?」
「はい、もちろんです!」
「あれえええええ!逆効果だったああああああああ!」
「おいおい!いつもよりやる気になってんじゃねーか!」
「死ぬ死ぬ!無理だよ死んじゃうよおおお!」
「もう、諦めるしかねえだろ…」
「いやー!ユーリ先輩の目が濁ってるうううう!いつものように輝いてえええ!」




きっと今回はもっとひどい地獄になるんでしょうね。ええ、そうでしょうね。
レッツ地獄巡り★あひー!





























「というわけで、またフレン先輩のスパルタにお世話になりそうですの。と言っても、
 ここまできたらお世話してるようなもんですよね!そうですよね!」
「こわい!ちゃんこわい!」
「こわいのはこっちですよこっち!今回は絶対パワーアップしてくるよフレン先輩。
 どうしよう、死ぬかもしれない…今度こそ死ぬかもしれない」
「またまたー、大げさなー!」
「いっぺん、死んでみる?」
「…なんか、ごめんなさい」
「そういうわけで、あたしはとっても大変なんですよ」
「そうみたいね」




もうフレン先輩をどうにかできる人はこの世にいないというのですか!そうなのですか!
試験の度にこうやられていては、あたしどうにかなってしまうよ!ぐすぐす。
あ、ちなみになんで放課後いつものようにあたしがここにいるか気になりますよね!
それは、逃げ出してきたからです。逃げる瞬間のユーリ先輩の顔ったらもうすごいよ。
あれだけで誰か殺せるんじゃねーかってくらいものすごい形相だった。
たぶん、あたし明日殺されます。ユーリ先輩に。それでもあたしはレイヴン先生との
時間をとるんだ!なんて健気な女の子!なんておばかな恋する乙女!
でもここで深く考えたら負けなんだよ!ここで明日のことを考えたらだめなんだよ!
とりあえず、今日お家に帰ってから後悔することにするよ…。




「なんかさ、ユーリたちと仲良いよねえ。ちゃん」
「ユーリ先輩とはまあ悪友的仲ですね。フレン先輩はいじるのがたのしーんですうふふ」
「わるや!あんたわるや!」
「だれだ。まあ試験の時だけ、ものすごい反逆にあいますけどね…死を垣間見るほどに」
「…どんまい」
「ぐすぐす」
「で、つきあってるの?」
「誰が誰と?」
ちゃんとユーリorフレンちゃん」
「まっさかー!今までの話聞いてどこらへんに色気ありましたよ!まあ、ユーリ先輩は
 いつでも色気ありますけどって意味違う★」
「すんごい仲良いみたいだからどうなのかなあって思って」
「お兄ちゃんみたいなもんですよう」
「ふうん」
「先生こそ良い人いないんですかー?」
「いないわよ、しょぼん」
「すきなひと的な?」
「いないわよう」
「ふうん」
「……」
「……」




この空気を是非誰かに体感していただきたいね。この微妙な空気。
今までに体験したことのないこの空気。キングオブ微妙。ふうんって!お互いふうんって!
どうしたもんか。まあ、先生にすきなひととかいなくてよかったけどさあ。うん。
ここでいるけど?ってなったら死ぬうううう。死ねる。あたし死ねます。生きる!
そしてこの無言。ふぁっく!




「先生さ、キャナリ先生と学生時代からの知り合いなんでしょ?」
「ん?そうなのよ、よく知ってるわね」
「うん、キャナリ先生から前に聞いたんだー」
「そかー」
「先生はさー」
「なあにー」
「キャナリ先生のこと、すきなの?」
「えええ!?突然どしたのちゃん!」
「どうなのせんせー」
「いやいやどうなのってそんな!どうなのもこうなのもないわよ!」
「すきなんですかー?」
「ただの友だちよ!ちゃんとユーリくんみたいなもんよ!」
「じゃあ学生時代はすきだった?」
「なんでそうなるの★」
「だってキャナリ先生ってきれいだし、すごい憧れるっていうか、うん。あたしが
 男だったら惚れてますもん」
「あーまあそうかもしれないけどね、先生は別にそんなんじゃないわよ!」
「ふうん」
「信じてないでしょ!ほんとだからね!」
「ぷーん」
「ほんとだもんんん!」
「そうですか、じゃああたし帰りまーす」
「このタイミングで!?」















自分で聞いたくせにとまらなくて、結局最後まで聞いてへこむ。そして察するあたし。
ありゃあ絶対すきだったぜ、キャナリ先生のこと。なんとなくね、わかるのですよ。
これぞ女の勘。まだまだ子どものあたしにも女の勘っていうやつはあるらしいです。
それに、あたしはレイヴン先生のことがすきだから、だからわかるっていうのもある。
ちょっとした変化がわかっちゃうんですね。切ないものです。ほんと、切ない!
だけど、このくらいじゃ負けません。こんなの想定内だからね!
そりゃそうでしょ。あたしよりも長く生きているんですから?そりゃあ恋人の1人や2人、
はたまたすきなひとの1人や2人や3人いたこともあるでしょうよ。
人間ですもん。そのくらい、あって当然ですよ。だけど、へこむっちゃあへこむけどね。
あたしも人間ですから。しかも恋する乙女です。大変さ。





























「失礼しまーす」
「あら、久しぶりね」
「ども」




そのまま帰る気にもなれず、ジュディス先生のもとへやってきたあたしです。
意外と心にダメージ残ってるですヨ。アタシ、キズヲオッタオトメ。
というわけで、心のケアに参った。心をケアしてもらいに参上した次第です。




「ねえ、先生」
「なあに?」
「恋ってさあ、制限とかあるのかな」
「制限?たとえばどんな?」
「恋しちゃいけない相手、とか?」
「父親とか兄弟はあんまりオススメはしないわね」
「いやいやいや!そんなやばいのでなくてさ!」
「教師、とか?」
「…先生わかってて言ったでしょ」
「さあ、どうかしら?」
「ぶーぶー」
「でも私は良いと思うけれど?」
「ほんとに?」
「ええ。恋に法律はないんじゃない?」
「まあそうですけど」
「それに、恋に落ちたらもう止めることはできないんじゃないかしら。本人が終わらせる
 までは、走り続けるしかないのよ」
「先生も走り続けた恋、あるの?」
「…どうかしらね?」
「ふうん」
「人より少し大変かもしれないけど、がんばって良いと思うわよ。すべてはあなた次第」
「うん、そうだよねってなんかこれもう恋の相手が教師ってばれてるじゃん!」
「私は咎めるつもりはないわ」
「ふう、よかったー!」
「がんばって」
「はい!じゃ、元気になったところで帰ります!先生ありがと!」
「気をつけて帰りなさいね」
「はあい!失礼しましたー!」








「恋を実らせるも枯れさせるも、すべては自分次第。…負けないでほしいわね」























心がケアされました!ケアどころかケアルガされました!これであたしはまたがんばれる!
先生にがんばってって言われると、恋していいんだって気になるよね。うん。
やっぱり先生に恋って世間体からしたらよくないし、反対されることだと思う。
だけど、少しでも応援してくれる人がいるなら、あたしも自分がやれる精一杯のことを
したいって思う。
最初っからあきらめて後から後悔なんていやだ。あたしは当たって砕けるまでやるよ。
砕けて粉々になっても、それでも力が残ってたらまだあきらめない。
ターミネーターみたいに溶けたらI'll be backつって戻ってくることを宣言するよ。
そんで、たまには思いっきり泣いて、また強くなる。恋してる女の子ってみんな強い。
強くさせるのは、きっと恋の力なんだね。タフだぜ、ほんと。

















へこんだって反対から押せば形は戻る!ジュースの缶なんてそんなもん。




















幸福論