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さ
よ
な
ら
パ
ラ
ド
ッ
ク
ス
学年末試験も、結局フレン先輩のお世話になった。
今年は頼らないぞ!なんて神さまにお願いしたはずなのに、さっそく願いはスルーです。
ひどいよ神さま、あたしをあんな鬼コーチのもとへ送るだなんて。満身創痍ですよ。
タスケテケスタ。いやもう終わったからいいのか。間に合ってます。
とかなんとかで、もう高校1年生も終わりの季節を迎えようとしています。そしてさよなら
知らない先輩。はじめまして、後輩。後輩か、いいね。
何と言ってもどきどきイベントはクラス替えですよう。というか担任の先生?どうなるんで
しょうね。あー、今からどきどき。
◆
3月14日。ちょうど1ヶ月前のことを思い出す。あの日はー、バレンタインじゃった…。
おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんはこっそりチョコ作りに励んだってなんでやねーん!
女子はどきどき★男子はうはうは(一部に限る)!な、すぺしゃるでーでしたね。
かくいうあたしもちょこっとどきどきな日でしたよ。うふふあはは。
さてさて、それで男子のみなさんはホワイトデー、なにか返してくれるのでしょうか。
ちなみに気持ちだけとかは受け付けてないです、ええ。
「ユーリせんぱーい!フレンせんぱーい!お返しくださーい!」
「ずうずうしいな、おい」
「そんなこと言わずに!なんかください!」
「ストレートにくるな、お前も」
「ほらほらー早く出しちゃってくださいよー」
「いちいちむかつく言い方すんな。…ほれ」
「うわーい!え!なにこれなにこれ!?ユーリ先輩が作ったんですかこれ!?」
「おう」
「うひょー!すごいすごい!」
ユーリ先輩がお返しでくれたものは、なんと手作りのケーキです!しかもお店で売ってても
おかしくないクオリティー!なにこの人!実はプロのパティシエか!
表の顔はただの高校生、だがすでにプロの腕前を持つパティシエだったのだ!みたいな?
「いや、ほんと感動いたしました。来年もぜひよろしくおねがいいたします」
「来年の今頃、オレ卒業してるけどな」
「だいじょぶです、家までとりに行きますから」
「来るなよ」
「行きます」
「来るな」
「行く」
「来るな」
「行く」
「来るな」
「先輩!」
「なんだよ」
「卒業したらあたしとはもう会わないってことですか!?そういうことなんですか!?
あたしはその程度の女だったっていうことですか!?」
「誤解を招くような言い方すんなよ。別にいつものノリで言っただけだろ」
「じゃあ来年も再来年もその次もその次もずっとずーっとくれますか!」
「お前どんだけたかる気だよ」
「いつまでも?」
「……」
先輩が生きている限り!あたしが生きている限り!いつまでだって先輩に厄介になる予定
ですけどなにか?って言ってみたらさすがにゴツン★といただきました!この痛みさえも
必要不可欠!はっはーん。
「それで、フレン先輩もなにかくれちゃったりします?」
「お前5円チョコ1個でよく催促できんな」
「あげたもん勝ちですから」
「そういう問題か」
「もらったからにはちゃんとお返しするよ。もちろん、のは特別」
「まじすか!さすが先輩!だてにエステルのスタンドやってないですね!」
「それ関係ねえだろ」
「はい、」
「うわー…い?いいいいいいいいーらない★」
「そんなこと言わずに。のは特別なんだよ?」
「いやいやいや!なんかあたしが悪者のようになっているけどなにこれいらない!こんなの
いらない!フレン先輩勉強召喚券なんていらない!しかも50枚もある!」
「昨日徹夜で作ったんだ。ちなみに無期限だからいつまでも平気だからね」
「徹夜するとこ間違ってるよ!いらないです!こんなのいらない!ユーリ先輩にあげるううう!」
「ふざけんな!こんなのあっても迷惑なだけだっつーの!」
「大丈夫だよ、ユーリのも作ってあるから」
「え」
「わお」
「はい、ユーリ」
「……」
「フレン先輩になんかしたんですか」
「してない、と思う」
「…どんまい」
「…お前もな」
結局こういうことになるんですね。まさかの悪夢だよ。
フレン先輩に返そうと試みても手に握らされてもうぐしゃぐしゃだし、でも笑顔で押しつけて
くるし、ユーリ先輩はへこみまくって無言だし。なにこれ。
いつか見た阿鼻叫喚の地獄絵図パート3か4くらい?もう地獄なんて何回も見たからわかりません。
こわい。5円チョコがこんな重いものとして返ってくるなんて思ってもみなかった…。
さすがというべきなんですかね。フレン先輩、おそろしい子!
◆
思ったんだけど、レイヴン先生くれるのかな。お返しとか。さすがに生徒にはお返しはしな
いのかな。どうなんだろう。んー、期待はしない方がいいよねえ。
まあいいやとりあえず秘密の花園へレッツゴーゴーゴー!
「あら、いなーい。じゃあ待ってようっと」
先生はまだ来ていなかったので、のんびり待つことにした。
3月に入り、大分暖かくなってきて日向はぽかぽかする。春が近いんですね春がー。
こう暖かいと眠くなってきますよねえ。とかなんとか言ってるとほんとに眠くなるんだから
不思議よね。
ううむ、まぶたが重ひ。先生もまだみたいだしちょいと寝る?寝ちゃう?寝ちゃーう…ぐー。
「んー…」
「やほー、ちゃん」
「……」
「ん?あれま、寝ちゃってるよこの子」
「……」
「ぽかぽかだし、そりゃ眠くなるわよねえ」
「むー…」
「むーだって。あはは。よしよし」
まどろみの午後とはこのことよー…。
なんか先生の声が聞こえるような聞こえないような?暖かい光と、頭に感じる温かい何か。
なんだろ。すごいやさしくて、あったかいや。むふふ。
頭がぼんやりすぎてよくわかんないけど、とってもしあわせな気分。ずっとこのままいられたら
いいのにって感じ。
んー。ん?なんか良い匂いがする。花の香りかな?なんの匂いだろ。
重いまぶたを一生懸命上に押し上げると、眩しい太陽の光が見え、その中に先生がいた。
あら、これ夢?
「んー?夢…か」
「夢じゃないわよ」
「夢ー…」
「こらこら寝ないの!」
「はひ?うー…?あり、先生?」
「うん、先生」
「こんな朝からお疲れさまです?」
「んー、残念。もうすっかりおやつの時間よ」
「おやつ!くれるんですかおはようございます!」
「いやおやつはちょっとないんだけど、」
「ないのか、そうなのか…」
「そんながっかりしないで!なんかおっさんが悪いことしたみたい!」
「え、違うんですか?」
「なにが!?」
「でも、なんか先生から良い匂いするー」
「ん?ああ、これね。はい、あげる」
「え?なんですか?うわあ、かわいい!しかも良い匂いする!」
先生がくれたそれは、花の形をしていて、生地が和柄でかわいい。それから花の香りがする。
「これ、香り袋っていうのよ」
「香り袋?」
「そ。ちなみにそれは金木犀の香り」
「へえ!ってこれほんとにくれるんですか?」
「うん、あげる」
「どうしてですか?」
「どーしてって今日ホワイトデーでしょ!それは、ちゃんへのお返しよ。おいしく
いただいたマフィンのお礼です!まあ、大したものじゃなくて悪いんだけどね」
「そんなことないです!…うれしい、です」
「ならよかった!」
「ありがとうございます!大事にしますね!」
「ん!」
先生からもらえた!お返しもらえた!すっごいすっごいうれしい!ほんとにうれしい!
涙ちょちょぎれそうなくらい、うれしい。ユーリ先輩のケーキよりうれしい!ごめんなさい。
いや先輩のもうれしいんですけどね、これはもはや別格というか。うん。別の次元の喜び
具合?とにかくこれはもう大事にしまくる!肌身離さずずーっと持ってる!そしてお墓に
一緒にいれてもらいます。これまじですから!
ちなみに、これは家に帰ってから調べたんだけど、金木犀の花言葉は「初恋」とか「真実」
とか、「陶酔」、「謙遜」なんだって!初恋とか陶酔とかぴったりじゃね!あたしはまさに
レイヴン先生に陶酔中ってな!まあ、初恋とかそこらへんは企業秘密でおねがいします。
ていうか、謙遜ってあたしにもうちょっと自重しろってことかい?そうなのかい?無理だね!
真実ってなんでしょうね。いや別に無理に考えなくてもいいんだけどね。なんとなく考えて
みたいお年頃なんです!つってな!
◆
とかなんとか言っているうちに春休みだいえーい!でもさ、春休みって短いよね。めっちゃ
短いよね。生徒の気持ちを踏みにじるくらい短いよね。冬休みもだけどさ。
そういえば話が前後するけど、ホワイトデーの前に卒業式終わってたんですよう。
見事に知らない先輩ばかりでした!あははーん。
まあそりゃそうだろって話だけどさ。だってあたし部活とか入ってないし。いや、帰宅部の
エースではあるけどね。あ、でも秘密の花園に通ってるから帰宅部のエースとも呼べない
わね。切ないぜ。中学の頃は帰宅部のエースだったのに。ねー。残念!
とにかく、卒業式はレイヴン先生を見つめて終わりました。恋する乙女はちゃっかりさん
ですよ。だってさ、レイヴン先生ってばいつもよりもかっこよかったんだもの。そりゃあ
見るよ。知らない先輩見るくらいならレイヴン先生見るよ。
あ、でもちょっとユーリ先輩とフレン先輩の様子を見た。ユーリ先輩は、ここだけの話、
寝てた。まあ想像した通りっちゃあその通りなんですけどね。フレン先輩は真面目に聞い
てた。というか在校生代表でなんか読んでた。さすが。
フレン先輩は今度生徒会長になるらしいからねえ。いやーきっと忙しくなるから、勉強も
もう教えてもらえなんだろうなあ。うわあ、ざんねーん!ひゃっふー!
とまあそんあ具合であたしは先輩たちをちら見しつつ、レイヴン先生をガン見していました。
まあ話を戻しちゃうんですけど、レイヴン先生がさー、かっこいいんだこれが。ほんとに。
いつもの白衣は着ていなくて、髪も下ろして整えてて、スーツを着ててちゃんとネクタイ
締めてた。かっこよかった。ほんとどうしようってくらいかっこよかった。
これで先生のことすきなひと増えちゃったらどうしよう。かわいい子とかが先生のことすき
になっちゃったらどうしよう。もう不安が加速するくらい、先生かっこよかった。
あたしは一体どうしたらいいんですかー!もうすきすぎて困っちゃいます。はう。
「クラスどうなるんだろう」
「一緒のクラスになれるといいですね」
「きっとエステルとは同じクラスだよ。なんかそんな気がする」
「わたしもそんな気がします」
「だよねー」
「ですね」
「これからもよろしくおねがいします」
「こちらこそです」
なんか一人で回想してたけど、実はエステルのお家にお邪魔してたんですねーへへへん。
そしてゆっくりまったりお茶してました。
2年生になったらどうなるんだろうねえ、なんて話をしたり担任は誰だろうねえとか。
まああたしとしては一番気になるのはやっぱり担任の先生なんですけどね!
理系だし、レイヴン先生になる可能性はあるじゃん?それにあたしのここ一番の運気を費やし
たいと思っていますよ。だからおねがいしますよ、神さま?これって神さまに頼めばいいの
かしら。それとも、学年主任的な先生?やだこれリアル!生々しい話しちゃったわよー。
もうほんと誰でもいいからおねがいします。あたしの担任の先生はレイヴン先生で!
レイヴン先生だよレイヴン先生!あーほんと頼むむむむむむむむむ。
「担任だれになるのかなあ」
「レイヴン先生だといいですね」
「あらやだ、エステルさんってば」
「ふふふ」
「へへへ」
「きっとレイヴン先生ですよ」
「そうかなあ」
「そうですよ。こんなにがお願いしてるんですから」
「そうなんだよねえ、もう毎晩お月さまにおねがい中ですよ」
「わたしもお願いしますね」
「ご協力感謝です!」
ほんとにレイヴン先生だったらいいのに。でもなあ、ユーリ先輩たちの担任だからそのまま
一緒にあがりそうなんだよなあ。あーあ。
ひたすら祈るしかないってか。ちくしょう。お百度参りでもしてやろうか!そうしてやろうか!
この重い想いをこめてお百度参りしてやろうか!神さまへの嫌がらせだぞ!
レイヴン先生を担任にしてくれたら、お供え物しとく。窓辺に。おまんじゅうを。だから
よろしくおねがいしまーす。
◆
高校1年生のあたしは、これからのことを知らない。でも今のあたしも知らない。
あたしの先生に対する気持ちがどうなるのか。もっとすきになる?それとも冷めてしまう?
この先のことなんてわからない。それでもあたしは、先生のことがすき。誰にも負けない
くらいすき。だから、卒業までにはどうにかしたい。告白するにも、しないにも。
猶予は、残り2年。あたしが先生の気持ちを動かせる時間はあと2年。
これからはじまる。迷うこともあるかもしれない。それでも先生をすきな気持ちは揺るぎ
ないから、だから、一時の感情には流されたくない。負けたくない。
つらくても、悲しくても、苦しくても、どんなにやめたいことがあっても、絶対に先生をすきな
この気持ちだけは揺るぎないもの。
突き放されてたっていい、泣かされたっていい、あたしはあきらめないから。納得する答えを
もらえないならあたしは、あきらめない。
ま、さすがにほんとに迷惑って言われたり、気持ちには応えられませんって言われたら
しょうがないけどね。それが先生のほんとの気持ちなら。先生のほんとの気持ちしかあたしは
受け取らないから。
がんばれあたし。突き進むしかないんだよ。これが若さの力ってやつ?見せつけてやろう
じゃないか。あたしの力を、さ。
革命
の時は来た。
今こそ
反旗
を翻せ!