不動産










11Garnet Star







「1日目は生徒が全部やるみたいだから、2日目にやきそばとっておいてあげるわね」
「うわあい!絶対約束ですからね!休憩時間に取りに行きますから!」
「あいよ。て、ここに持ってきてあげるわよ」
「え?ここに?」
「そ。そっちの方がゆっくり食べれるでしょ?」
「じゃあ、ここで待ってます!」
「ほいほい。ま、がんばりましょーね」
「はあい!」




先生と約束をしました。学園祭2日目にここで!うれしいなったらうれしいな!
と、ここで先日の話をしたいと思います。キャナリ先生のあれですね、あれ。もやもやは
どうしたんですか!という話です。
未だにもやもやくんは背後霊のようにくっついています。残念なことに成仏はしてくれま
せんでした。おねがいだから安らかに眠ってください。
でもさ、気にしたってしょうがないじゃん?だって本人に聞けないもん。
先生、キャナリ先生のことすきでした?あ、ですよねー!知ってた知ってた!っていうノリ
でいけたら万々歳なんですけどね。人生そう、うまくはいきません。
なので、今あるしあわせを味わうことにする!うん。





















学園祭1日目、あたしたちのクラスのプラネタリウム大反響です。
やったね!というと思ったら大間違いなんだぞ☆だってさ、カップルばっかりなんだもん!
お前らいつの間に青春してたんだコノヤロー!全員が裏切り者だ!うわあああ!




「こやつら全員爆発させてやる!この教室ごと!」
「しょうがないだろ。プラネタリウムって言ったらやっぱりカップルが目をつけるだろ」
「えーえーえーえー」
「悔しかったらお前も彼氏の1人や2人つくるんだな」
「余計なお世話なんですけど!学園祭委員め!あんただって彼女の1人や2人つくってみ
 ろってんだよ!ははん」
「俺、彼女いるし」
「なん…だと…?」
とは違ってな」
「なにこいつ、殺していいんですか?わかりました、殺ります」
「ストーップ!落ち着いてください!」
「止めないでエステル!あたしはこいつを殺らなきゃ!神さまもいいよって言ってた!」
「そんなことよりいろいろ見て回りましょう?」
「そ、そんなことって…なんかエステルにスルーされると切なくなるっていうか虚しくな
 るっていうか、」
「さ、行きましょう!」
「どうしてだろうか、この虚無感は一体なんなの!?」
「どれからまわります?」
「あいつら良いコンビだなー」




そんなこんなで、1日目はなかなかの好スタートではじまりました!
とにもかくにも明日が楽しみなんですねーうふふ。
学園祭委員の小野はまた別の機会にぶっ殺すことにいたします。かしこみかしこみ。





















今日もがんばっていきまっしょい!カップルをどう懲らしめてやろうか模索中。
なんてね、うそだようそ!っていうのがうそ!




「お前一人で楽しそうだよな」
「うるさいわ!今いそいそと働いてるんだから邪魔しないでくださーい」
「ちょ、押すなよ」
「邪魔なんだよこのリア充!プラネタリウムの星の一部となれ!」
「無理言うなよ」
「2人共ちゃんと働いてください!」
「「ごめんなさい」」




またまたエステルに怒られちった。絶対小野のせいだ!ばか!っと、今日はこのくらいじゃ
ぷんぷんしないんだから。先生と約束してるんだもんねーうふふ。
そういえば、学園祭って準備期間は長いのに終わるのはあっという間だよね。昨日今日で
学園祭終わっちゃうんだよ。もったいない。なんかもったいない。
こういうイベントって楽しいよね。今日は後夜祭もあるし。うはうは。でも、後夜祭でま
たカップル増えそう。それってとっても、うざいよね(#′∀`)σ)Д`;;)AHAHAHA←こんなん
思わず心境を顔文字で表しちゃったよ。自重しろ自分。
さてさて、休憩時間まで目一杯働くとします。次は無言で怒りを伝えてきそうだから、エステルが。




「いらっしゃーいプラネタリウムだよーいらっしゃーい」
「いやいやいや、逆に客が引いてくだろそれは」
「あれ、ユーリ先輩じゃああーりませんか」
「お前客引きする気ないだろ」
「ありありですよ。むしろやる気で満ち溢れて逆に漏れちゃって大変です」
「ほー」
「で、ユーリ先輩は男1人で虚しくプラネタリウムにいらしゃいませですか?」
「お前いちいちむかつくな。残念だけど1人じゃない」
「え!?まままままさかおなご連れ!?」
「いや、フレン連れ」
「悲しい時ー!1人じゃないと自慢気に言った先輩が連れてきたのがいつもの友だちだった時ー!」
「悪かったな」
「なんかごめんね、僕で」
「いえ、良い客引きになるのでだいじょうぶです」
「とんだ悪徳業者だな」




いつもの先輩たちが来てくれたよ!これできっと、女子たちがこの人ら目当てで入ってく
れるはずだ。うへへ。
いや、別に先輩とかいなくてもお客はわんさか入るんですけどね。でもほら、より多く客
を引きこむにはアイドル的な存在も必要なわけですよ。せっかくお客として来てくれたん
ですからついでに働いてもらいましょう。





















「なんでオレたち他のクラスで働いてるんだよ」
「さあ…にしてやられた気分だね」
「ていうかうまく利用されてるだけだろ」
「いらっしゃーい!見目麗しき男性が2人もプラネタリウムにいますよ!目の保養にはバッチ
 コイ!じゃなかった、もってこいですよ!」




いやー先輩たちのおかげで客が入る入るうううふふふふ。なにこれすてき!でもちょっと
複雑。やっぱり世の中の女性はイケメンがすきなんだね。イケてるメンズがだいすきなん
だね!まあ、あたしの場合ユーリ先輩に限りありで!




「そういえば2人はやきそば作らないんですか?」
「今日はこの後またやきそば三昧だよ」
「お前のせいで貴重な休憩時間が台無しだ」
「なるほどーおつかれさまです☆」
「…殴っていいか、フレン」
「…うん、今日はいいんじゃないかな」
「まさかの許可下りちゃったよ!ストップ!手を振り上げないで!なんという迫力!」




あぶないあぶない!本気だったよ!ユーリ先輩の目が9割本気で1割マジ!あれ、どっち
も本気じゃん。10割本気だったよ!こわい!
ので、2人を解放しました。どこへでもすきなところに行くがいいさ。と言ったら結局殴
られた。いたい。





















やっと休憩時間だーい!まだかなまだかなーって思ってたから時間が経つのが遅く感じたぜ。
でもこれでやっと先生のやきそば食べれる!ひゃっほい!
さ、休憩行ってきまーす。




「じゃ、あたし休憩なんでこれにて失礼」
「おつかれさまです!」
「エステルがんばってね!」
「はい!」
「じゃあね、学園祭委員!せいぜい働くがいい!」
「うぜえ」
「何とでも言うがいいさ!痛くもかゆくもありません!ぶはは!さらば!」
「何なんだあいつは」
「休憩時間がよっぽど嬉しいみたいですね」
「よくわかるな」
「ずっと一緒にいますから!」




意気揚々と教室を飛び出したあたしです。今ならカップル共もそんな気にならないぜ。
でもいちゃいちゃするのはお家でしてくださあい。
よし、秘密の花園へレッツらゴー!





















「まだいない、みたいだね」





先生はまだいないみたいだった。
学園祭で賑わっている声が少し遠くに聞こえる。やっぱり、ここは特別な場所なんだなあ
としみじみ思った。
先生まだかなー。待ってる時間もわくわくしちゃうよね。先生って料理うまいのかな?
一人暮らしなら自炊はするか。じゃあ料理はできるよね、たぶん。意外と料理だいすきです!
とかだったりして。あは、それってかわいいな。先生が料理上手っておもしろい!
あーあ、早く来ないかなあ。















「…遅くない?」




さっきからずっと待ってるんですけど一向にくる気配がないんですけど。どしたどした。
一体どうしたっていうんですか先生コノヤロー!
はっ!まさか、なんかあったとか!?いや、それはないな。だいたいなんかってなんだ。
もしかして繁盛しすぎて抜け出せないとか?ありそう。
あうあー。あたしの休憩時間が終わってしまうよ。待ちぼうけで終わってしまうよ!
ううむ。仕方ない。休憩時間っていうのは限られたものでありますので、あたしは行かねば。
すんごく残念だけど忙しいなら仕方ないもん。
でも一応教室帰る前に、先生のとこを覗いてこよう。そうしよーっと。





















うーんと、あ、ここか。



「ユーリ先輩!やきそばつくってますねー!」
「またお前か…」
「またってここには初めてきましたよ!迷惑な客のように言わないでください!」
「似たようなもんだろ」
「全然違いますう!て、先輩たちはさっきからずっと作ってるんですか?」
「いや、さっきまではおっさんが作ってた。なんか妙に繁盛しちまってなー」
「へえ」
「で、おっさんとさっき交代したんだが、おっさんは自分の分のやきそば持ってさっさと
 抜け出してった」
「ほーう」
「ったく、せっかくだからそのまま手伝えってのに。で、お前食うのか?」
「あ、もう休憩時間終わっちゃうのでまたあとで食べに来ます!がんばってくださいねー!」
「おう」




やっぱり忙しかったんだ。まだ近くいるのかも。っていうかあの場所に向かってるかもし
れないよね。ちょっと探してみよっかな。もう少しだけ時間はあるし。







にしても人多いな。
休日だし、生徒の家族とかたくさん来てるんだろうなあ。そしてカップルも!憎いぜえ。
うそだよ!でも正直邪魔だよう。もうどいてどいてー。こっちは人探ししてるんだから。
もうー。ぷんすか。
っと、ここから先は使われてないエリアだからいないよね。うーん。戻ろうか。
…あり?あれって、先生じゃね?あの後姿は!って、やっぱり先生は白衣なんだね。
あは、先生らしいわ。





「せーんせ…」
「レイヴン」




あうち!どうして邪魔入るんですううう!?人の恋路を邪魔しやがってってキャナリ先生
じゃないか。
キャナリ先生はレイヴン先生の横から声をかけていた。ちなみに2人は階段の踊り場で立
ち止まっている。しかもちょうどこの辺は人通りがない。つまり使われていないとこに来
てるというわけですね。うむ。
というか、あたしってばどうしましょ。とりあえず近くまで接近してみようかな。こっそ
りこそこそ。階段から見えない壁に立ってみた。盗み聞きごめん!




「あれ、キャナリ」
「レイヴン、ちゃんと手伝ってるの?」
「当たり前でしょー。むしろ今まで手伝っておっさんへとへとよ」
「レイヴンのクラスは何やってるの?」
「んー、やきそば」
「やきそばかあ。私も買いに行こうかしら。ちょうどお腹空いたところだし」
「あ、じゃあこれ食べる?」
「え?あら、これレイヴンが作ったの?」
「ん、あいつと一緒に食べたら?」
「悪いわね!じゃあ、お金…」
「いいって。ほらほら、さっさと行かないとあいつ待ってるんじゃないの?」
「うん、そうね!じゃ、今度何か奢るから!」
「あいよー」




そう言ってキャナリ先生はレイヴン先生からやきそばを持って去って行った。
あたしも早く行かなきゃ。休憩時間終わっちゃう。
キャナリ先生とレイヴン先生のやりとりを見て、いろいろ思った。でも、なんかあんまり
考えたくない、かな。
それに今はこれしか思えない。






「…先生の、うそつき」





















学園祭は無事終了。
今は、がんばった生徒たちの時間。教室の窓からグラウンドを見渡すと、キャンプファイヤー
をしていて、その周りでみんなわいわいやっている。
そこから少し離れたところではちょいちょい生徒たちの告白合戦が行われていた。やっぱ
りそうなるよね。あーあ、青春しやがって。
ほんとはあたしもあの輪に入っていたいところだけどどうもそんな気分にはなれない。
というわけで、エステルの誘いを断って、真っ暗な教室でぼーっとしている。
といっても、プラネタリウムの名残か、キャンドルは何個かついている。あらやだとって
も幻想的。今は切なくなるだけだっつーの。





「ばかみたい」





自分の気分がこんなに沈んでいるのは紛れもなくレイヴン先生のせいだ。そんなこと、誰
が見てもわかる。いや、あたししかわかんないけどね。
約束したのに。どうして、約束破るの。先生は、破るような人じゃないでしょ。
あの時、キャナリ先生にあげたやきそばはきっと、約束のものだったはず。
どうしてあげたの?時間が過ぎてたから?もういないと思ったから?…それでもあたしは
あげてほしくなかった。これって、わがまま?わかんないや。





「こんな真っ暗な部屋でなーにやってるの」
「…せんせい」





どうして先生はいつもいつも絶妙なタイミングで来るのかな。
レイヴン先生は、あたしが座っている机のところまで来た。いつもと変わらない態度でやって
きた。




「行かないの?」
「なんか、疲れちゃったんで」
「そっか」
「……」




先生に話しかけられても目は窓の下を見ていた。だから、今先生がどんな顔をしているの
かわからないし、なんか見たくない。




「あのさ、やきそばのことなんだけど」
「……」
「ごめんね、持って行けなくて」
「……」
「なんか予想以上に忙しくてさ、時間押しちゃって」
「……」
「作れなかったのよ。ほんと、ごめんね」




どうしてうそつくの。先生持ってたじゃん。あの時、ちゃんと持ってたじゃん。
あたしは、先生にうそついてほしくなかった。作ったけど、キャナリ先生にあげちゃったって
言ってくれた方がましだった。あげた理由はわかんないけど、それでも言い訳してほしかった。
なのに、どうしてそんな、うそつくの?そんなの、ひどいよ。




「…ちゃん?」
「そっか」
「え?」
「じゃあ仕方ないですね!もう、あたし待ってたんですからね!貴重な休憩時間を割いてまで!
 ぷんぷん!」
「ごめんごめん!今度なんか奢ってあげるから、それで許して下さい!」
「絶対ですからね!そうだな、中華まん全種類買ってもらおうかなー」
「どんだけ食べる気よ!でもまあ、買ってあげよう!」
「わあい!あはは」




ここで怒って、先生のうそつき!って言えたらいいのにな。でも、そんなこと言えるわけ
ないよ。あたしはただの生徒だもん。大勢の生徒の中の一人に過ぎない。だから、わがまま
なんて言えない。
あたしは、ふざけた調子で笑うことしかできない。それしか、自分を守ることができない。
ほんとは悲しい。すごく悲しい。先生と仲良くなってるつもりでいて、あたしは他の人よ
りは少しだけ特別なんじゃないかなって思ってたから。
でも違うよね。そんなのただの勘違いだった。あたしは、ただの、生徒。
あーあ、滑稽だ。




「さてと、じゃああたしも青春の輪の中に入ってこようかな!」
「おっさんには遠い輪ですこと」
「ほんとですよねえ。まあ先生の分も青春してきてあげますよ!」
「そりゃどうも、ってひどいわね!」
「あははっ!じゃ、先生今度奢ってくださいねー!」
「あいよー」




先生を置いて教室を出た。
歩く。歩く。少し早く歩く。歩く。歩く。早足で歩く。歩く。歩く。走り出す。走る。
教室からは遠く離れた階段の踊り場まで、走った。
踊り場からは、少しだけキャンプファイヤーの光が見えた。ああ、もうだめ。
悲しさがピークに達し、気がつけば涙がぽろり。ねえ、やっぱりあたし弱いなあ。






「ううっ…!ふえっ」






階段の踊り場のガラスに頭を預けた。涙がこぼれる、こぼれる、こぼれる。
両手を覆って声を抑え、泣いた。もし、先生に声が聞こえてしまったら大変だもん。
まあ、ここまでは来ないと思うけど。
先生にはさ、困ってほしくない。先生を困らせたくない。あたしを、明るい元気な子って
思っててほしい。あたしを強い子だって思っててほしい。
あたしを、きらわないでほしい。困らせないから。元気でいるから。強い子でいるから。
だからおねがい。あたしのことを、きらいにならないで。
ただ、すきなだけなんです。あたしは、先生のそばで笑っていたいんです。











大人のうそは、少女のこころに傷をつける。