09
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零
距離
U
≠
I
体育祭いらっしゃーい。どんどんぱふぱふ。
あの地獄の日々を乗り越え、無事体育祭を迎えることができました。よかったー。
で、体育祭は知っての通り運動会です。走ったり、投げたり、引っ張ったり、力を合わせ
たり、奪ったり、力ある限り正々堂々戦う会です。よっし、気合いを入れていきましょ!
あ、ちなみに色は、赤、白、黄、青、緑となっております。うちのクラスは青だよ!
「目指せ優勝!がんばろうエステル!」
「おーっ!」
「なんだ、お前らも青組か」
「2人には縁があるみたいだね」
「ユーリ先輩!フレン先輩!」
「よう」
「ユーリ先輩、想像通りの萌えをありがとうございます」
「は?」
「あたしはユーリ先輩のポニテがすきなんですううううう!」
「うおっ!こっちくんな!」
「ユーリせんぱあああああい!」
「相変わらず仲が良いですね、あの2人は」
「ですね!なんだか微笑ましいです」
「え、そうですかね…」
予想通りのユーリ先輩のポニテにあたしは勝利を確信しました。青組優勝!
むしろ先輩のポニテが優勝。とかいい加減変態ぶりを抑えなければ。そろそろ誰かに引か
れそうだよ。とか言ってる間にクラスの人から冷たい視線をいただきましたー!ごめえん!
「エステルはなに競技出るんだっけ?」
「わたしは、無難に100M走です」
「そかそか、って次じゃん!がんばれ!転ばないようにね!」
「はい!あ、放送入ったのでいってきます!」
「がんばれー!転ぶなよー!」
体育祭の幕が開け、エステルは100M走に旅立ちました。あたしは応援席の一番前でエ
ステルの応援をするためスタンバってます。さあこい!こっちの準備はおーけーだ!
とか言ってる間に始まった。エステルはーっと。どこだどこだ。うーん?あ、いたいた!
えーと、5番目くらいか。早く前のやつ終われ!エステルちゃんがんばれい!
ちくたくちくたく。とりあえずエステルの番が来るまでは適当に応援してようかな。同じ
クラスの子もいるわけだし。
「がんばれークラスの人ー」
「お前適当すぎだろ」
「おおう、ユーリ先輩」
「もうちょっと気合いを入れて応援しないと」
「フレン先輩までー。ていうかユーリ先輩応援団とかやらないんですか?」
「ん?ああ、一応入ってる」
「まじですかい!お昼休みの応援合戦楽しみですね!あたしデジカメで連写します連写!
そして念写もしちゃう!」
「こわいわ!まあそれなりにやるわ」
「とか言って全力でやっちゃうくせに★」
「……」
「あたたたたたたたた!!」
「ちょ、ユーリ!女の子の顔はつねったらだめだろ!いくらだからって!」
「それもどうなんだーい!いくらだからってどういうこと!別にいいですけどね!
というかユーリ先輩結構本気でつねったでしょ!頬の肉持ってかれたかと思いましたよ!」
「お、エステルの番だぞ」
「まじか!さりげなくスルーされたけどまあいい!今はエステルを応援んんんん!がんば
れエステルー!」
「転ぶなよーエステルー」
「エステリーゼ様がんばってください!」
「あ、今フレン先輩のこと睨んだ」
「え!?す、すみません」
とかなんとかで、エステルは2位だった。おしかったね!でもなんか走る姿もかわいかった。
微笑ましかったです。癒しです癒し。ありがとう!癒しをありがとう!
「おつかれエステル!かわいかった!おしかったけど2位おめでとう!」
「ありがとうございます!ちょっと悔しいですけど、楽しかったです!」
「おつかれ、エステル」
「はい!」
「おつかれさまです、エステルさん」
「フレン!さっきエステリーゼと呼びましたよね?」
「え、ええ!あ、あの、すみません…」
「やっぱり聞こえてたんだね、どんまいフレン先輩」
「お前もいい加減慣れろよ」
「そうは言っても、簡単には…」
「できないんです?」
「できます!」
「これだからフレン先輩をいじるのはやめられねえぜ」
「同感だな」
「……」
「次は俺様の出番だぜ」
「がんばってください!」
「任せろベイベー!体育しか取り柄のないあたしが突っ走るぜコノヤロー!」
「応援してます!」
「よっしゃー!いってくる!」
体育祭での出番がやってまいりました!次は借りもの競争だよ!
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!どっからでもかかってこいやー!ってあたしが
行かなきゃだめなんだよね。今行きます行きます。
一緒に走る人を確認。右をちらっ。左をちらっ。うん、なるほど。わからん。見ただけじゃ
わからん!とりあえず全力を出すぜコノヤロー。わっしょい!
スタートに合図を待つ。あれうるさいんだよね、パーンってさ。パーンじゃねえってんだ
よパー「パーンっ!」鳴った!!!
今、こいつ出遅れたんだろうなあとか思ったでしょ?思ったでしょ?残念!あたしの体は
ちゃんとすばらしいスタートダッシュを見せましたよ。いえい!
でもさ、借りもの競争って結構運頼みなとこあるよね。選んだカードによってはどうなる
かわからんし。いや、あたしは1位獲るけどね。
あ、カード発見!もしかして、カードに「先生」とか書いてあったりしてね!そしたらレ
イヴン先生のところ行こうかな!えへへ!そんであわよくば手とか繋いじゃったりして!
まじすか!うわあ、それってどきどき!今から手汗がやヴぁい★
「カードゲット!どれどれ!うふふ!…ちょ、おい、空気読めよカード!というか体育
委員?」
なんと空気を読めないカードは、先生を召喚させてくれませんでした。別にベタな展開望
んだっていいじゃん!うわあん!こんな紙食ってやろうか!ちくしょう!
ちなみにそのカードには「お嬢様」と書いてありました。
「エステルーーーーーーー!!!」
「え!?どうしたんですか!」
「今こそきみの力を借りる時いいいいい!一緒に来て!」
「は、はい!」
「おうりゃ!」
「え!?ちょっ、!?」
もうやけくそだよ、こうなったら。というわけで、エステルをお姫様だっこで激走だよ!
体力が自慢のちゃんは力もむきむきなんですよ!ざまあみろ!なにが!なにがだろ
うね!もうなにかを失った気がするよ!
「ゴーーーール!!1位ゲット!ざまあみろ!体育委員!げほっげほっ」
「!大丈夫ですか!?というかおろしてください!」
「げほっ!あ、ごめんごめん。ほいっと」
「もう!恥ずかしいです!」
「ごめんごめん!なんかこう、すべてを無に返してやろうかなあとか思っちゃって…」
「お前すげえな」
「あ、ユーリ先輩とフレン先輩」
「まさか女の子が女の子をお姫様だっこするとは…。しかも1位って、、君何者?」
「普通の女子です、普通の!」
でもおかげさまでしばらく王子と呼ばれることになるあたしでした。さすがにいろいろや
りすぎたって感じですかね。
カッとなってやった、後悔はしてなああい!
「ユーリ先輩、ちょっとしゃがんでくださひ。だっこする」
「いやいやいや、さすがに無理だろ」
「いいからいいから」
「……」
「よっしゃー!行くぜ!どうりゃっ!」
「……」
「……」
「……」
「……無理ですね」
「そりゃそうだ」
◆
「ごっはん!ごっはん!ごっはん!」
「お腹空きましたね」
「うん、早く食べよううううう!」
「ですね!」
「おおお!エステルのお弁当すごい!なにそれ!豪華すぎて意味分からない!」
「よかったらも食べてください」
「やったー!遠慮なくいただきます!」
「はい!どうぞ!」
「うわあい!もぐもぐ。うまひ!」
さすがエステルのお弁当!お家が城ってだけあるね!まあお泊りした時もおいしくご飯
いただきました!そして太りました!ガッデム。
ていうか、そろそろユーリ先輩の応援合戦が始まるのではなかろうか!
「あ、始まった」
「ですね」
学ランだ、学ラン!ポニテで学ランとか何それ。何それ。狙ってんの?そうなの?あたし
をこんなに喜ばせて楽しいの?そうなの?もう罠だな、これ罠!でも喜んでその罠に飛び
こみまーす★
いや、でもほんとかっこいいわ。真面目に応援しているユーリ先輩。なんて男らしいの!
いつものフェロモンだだ漏れ状態も捨てがたいけど、この男らしさを全面に出してくる感
じもたまらない!神様!ユーリ先輩を創ってくれてありがとう!
◆
やっぱり体育祭のトリと言ったら各学年ごとにあるリレーです。
現在順位は、白、黄、青、赤、緑となっております。ということは!リレーでがんばれば
優勝の可能性もあるっていうことですよね!だったらがんばるしかないですよね!
正々堂々優勝をもぎ取ってやりましょう!燃えますね!
「ふいー。ちょっと緊張するぜえ」
「リラックスですよ、!練習だと思って落ち着いてがんばってください!」
「おうよ!がんばる!すーはーすーはー。よっしゃ、行ってくる!」
「はい!一番前で応援してますから!」
「ありがとう!いってきます!」
さすがのあたしもちょいと緊張するよね。まあやるからには優勝したいし。うん。
だったらがんばるしかないじゃーん!やるっきゃないない!
右をちらっ。左をちらっ。ついでに後ろをちらっ。キョロキョロすんな自分!すーはー。
あたしの前を走っている人は、4位だ。4位って!もうちょっとがんばれよ!いやごめん
うそです。ここであたしが1位になって次の人へとタッチ!すればすてきだと思う。それっ
てすごくすてきだと思う。
もう一度横の人を確認。右ちら、左ちら。あんたらには負けへんで!でもあたしよりも先
にバトン持っていっちゃうのね…。ひどい!
あ、バトンさんいらっしゃーい!
「ごめん!任せた」
「おっけーです!任されましたー!」
モブと会話もたまにはいいね。うそだよ!むしろあたしがモブみたいなもんだよ!
とかなんとかで、バトンをゲッツ。次の運び屋さんまで無事お届けいたしますのでご安心
を。安全第一がモットーです!おらーどけどけ!ぶるるんぶるるん!あ、これエンジン音。
ちゃんハイペースでたったったったっ!走ってるよ!たったったったっ!
良い調子!まずは一人目抜きます!むんむん!ごめんねーお嬢さん。こっちもいろいろ事
情があるんですー。はい、抜いたー。次!
あらあらあら、あたしって意外とやれる子なんだね!足速いんですけど!びっくり!2位
のやつどこだーおらー。どいたどいたー。さんがまかり通る!むん!やった!
あと一人抜けば1位だぜい。ここまできたら抜かさないとね。うむむ。むむむむ。むん!
もう少しで抜ける。もう少し。もう、少し。って早くどかんかい!並んじゃったよ!なか
なかこやつやりよるな。どいてくださーい。あっと、抜かせる、か、なってちょ、
「…え?」
これがスローモーションっていうやつ?これが走馬灯ってやつ?それは違うね、死ぬとか
じゃないからっていうかまじで、こける…!
「いっ…!」
ずっしゃー!という効果音と共にあたしこけました。いやん。ばかやろー!あの女コラ!
あいつちょうど並んだ時肘鉄いれてきやがった!それ反則やねん!そして膝めっちゃ痛い
んですけど!両膝えくすとりーむ!どちくしょい!
だが、あたしはすぐさますたんだっぷ!そしてとっても激走のターン!うええい!
「ごめんなさい!…おねがいしますっ!」
「だいじょうぶか!?任せろ!」
次のモブになんとかバトンタッチ。なんとか2位をキープでゴールだじぇ。
ていうかまじで膝痛いから。ほんとあいたたたよ。あの女あろうことか、あたしがこける
瞬間笑っていやがった!なんだよなんだよ、ばか!
あーあ、悔しい。と、エステルとクラスの子が遠くから走ってきた。
「!!だいじょうぶですか!?って血が出てるじゃないですか!!早く保健室に!!」
「あはは、派手に転んじゃったよ!いやーいったいよ、もう」
「ああ!早く保健室行きましょう!」
「うん、ごめん、転んじゃって。みんなも、ごめんね」
「全然気にしてないですよ!そんなことよりの足のが心配です!」
「そうだよ!お前はよくやったよ!」
「ほんとだよ!転んでも2位キープとかのおかげだよ!」
「あは、みんなありがと!いや、でもほんと申し訳ないわあ」
「、とりあえず早く保健室行きましょう?」
「うん、でも、その前に傷口洗ってくるわ」
「あ、わたしも行きます!」
「いいっていいって!これくらい一人でだいじょうぶ!じゃ、洗ってくるわ!」
「…」
とりあえずみんながあんまり人がいない水道の場所へ向かった。
といっても今はみんなリレーに夢中だろうけどさ。ふぁっく!
水道で一人傷口を洗う。喧騒は遠く、なんだか別世界にいる気分。むなしすぎる。ってい
うかなんか切なくなるぜ。
「いたた、染みるわー。っていうか派手に転んだなあ」
あー、ほんと悔しい。肘鉄女にやられても1位を獲れよ。ばかじゃん。体育しか取り柄が
ないのに、なんで1位獲れないかなあ。もう、やんなる。ばかばかばーか。
「痛いっつーの…ぐすっ」
悔しさで涙が出てきたわ。どんだけ。でもとっても悔しいです。こんなお笑い芸人いたね。
悔しいです!ほんとに悔しいんだよこっちは。もう、ああ!
「なんで、転ぶんだし…ううっ。ていうか肘鉄とかなんだよ肘鉄…うわあん!」
どうせ誰もいないから泣いてやる!ばかばか!肘鉄ごときに負けるなよ!足痛くても走れ
よ!血出ても走れよ!全力で、勝ちに行けよ!
ぼろぼろとこぼれる涙を手でごしごしする。でも止まらない。涙が堰を切ったように流れ
る。止まれあほ。止まればか。止まれ止まれ止まれ。
「止まれ…!このばか!」
「泣いてもいいんじゃない?」
声がした。びっくりして後ろを向くと、先生が立っていた。レイヴン先生。
どうしてこんなところにいるの。っていうか先生のことちょっと忘れてたし。体育祭で全
然会わなかったから。でも体育祭だから先生も一応ジャージなんだ。とかどうでもいい。
「…あっ」
「今さら隠しても見え見えよ?」
「……」
「泣いてもいーじゃない」
「別に、泣いてない、ですもん」
「いやいや号泣でしょ。目なんかうさぎみたいよ?」
「余計なお世話ですっ!」
こんな時素直になれないあたしはだめな子だと思う。そんでもって子どもだと思う。だけ
ど素直になれないんだなあ、これが。
なんだか気まずくて、下を向いてひたすら涙を耐えてみる。鼻がぐずぐずいってるけど。
後ろに気配。そしてまた、頭をぽんってやられた。みんな頭に手おくのすきだな。きらい
じゃないけど。
先生の手は、あたしをなだめるように、一定のリズムでぽんぽんしている。
「悔しいのよね?」
「……」
「それでもみんなの前では我慢したのよね?」
「……」
「心配させちゃうから、みんなの前では泣けなかったのよね?」
「……」
「ちゃんは強い子ねえ。でももう泣いていーのよ」
「……ふえ」
「秘密にしておいてあげるから、思いっきり泣いちゃいなさいな」
「う、うっ…うわあああん!」
先生がやさしいから、欲しい言葉をくれるから、涙が再びこぼれる。
それでも少しでも隠そうと顔を両手で覆って、泣いた。声をあげて、おもいっきり泣いた。
そんなあたしを見て、先生は黙って胸を貸してくれた。
こんなところ誰かに見られたら誤解されちゃうかもよ?なんていつもだったら言えたかも
しれない。でも今は、先生の胸に体をゆだねた。
「あたし、すごい、悔しいっ…!」
「うん」
「一生懸命、は、走ってただけなのに、なんで…!」
「うん」
「ただ、がんばっただけ、なのに…!」
「うん、ちゃんががんばってたのはちゃんとわかってるよ。先生、ちゃーんと見て
たよ」
「……ううっ」
「いい子いい子」
先生はいつまでもあたしの頭をなでてくれた。
なんだかそれがすごく、心地よくて、すごく、眠く、なるっていう、のはどうかと思う。
けど、安心したら急激に眠気が。…おやすみ?
「おっと!…あらら、安心したら眠くなっちゃったのかね。そういうところはまだまだ子
どもねえ。でも、ほんとよくがんばったね。…おやすみ」
◆
起きたら保健室。足もちゃんと手当がしてあって、目の前にはエステルがいた。
そんで、半泣きで心配したんですからね!ばか!となぜか怒られました。あたしって結構
エステルに怒られるよね。
しかも体育祭も終わっていて、どうやら青組は優勝したらしい。なんだかんだで、その後
の2年、3年のリレーで挽回したらしい。そらあよかった。
…ここにはレイヴン先生が運んできてくれたのかな。あれって夢じゃないよね。なんか夢
だったのかなって気分。まあいいか。
ほんと先生ってなんであんなにすてきなんでしょうか。もう、だいすきだよ!ばあか!
先生はどうしていつもすごいタイミングで来るんだろうね。どうしてこんなにすきを大き
くさせるんだろうね。ほんと、不思議な先生。