06
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揺蕩ふ
金魚
を、掬へ
楽しかった沖縄旅行。間違えた、臨海学校。
先生と見た、あの夕日で感じたざわめきはなんだったのだろうか。
あの後、先生と一緒にホテルへ戻り、自然と別れてあたしは部屋に戻った。そして元気に
なったエステルと一緒にご飯を食べて、1日目と同じように友達の部屋でガールズトーク
して気がつけば就寝時間。部屋に戻って次の日の支度をして、おしゃべりして、ベッドに
入ってまたおしゃべりして眠りにつく。
沖縄旅行最終日。間違えた、臨海学校最終日。めんどくさいので箇条書きのようにしてお
話します。
・朝ご飯たくさん食べる
・バスに乗って市内の方へ
・市内でお土産をたくさん買う
・お昼ご飯食べる
・さとうきびアイスを食べる
・空港に向かう
・飛行機乗る
・さらば沖縄
・羽田到着
・エステルを迎えに来た車にちゃっかり乗ってお家まで送ってもらう
・ただいま、あたしのお家
という具合になっております。
まあ付け加えるならば、なかなかあたしはおかしな子だったと思う。別に変な行動をし
てたとかじゃなくて、自分で変だと思ったと言いますか。
先生を、ついレイヴン先生を目で探してしまった。かなり自由な旅行だったし、いや臨
海学校だったし、先生の行動なんて把握できるわけはないんだけど。なんか、気になっ
てしまった。だってさ、先輩たちに会った時も、もしかしたら先生がひょっこり出てき
そうな気がして落ち着かなかったし。なんなの、あたし。
◆
夏休みもなあなあに満喫してるけど、どこかでやっぱり夕日事件が引っかかる。
説明しよう。夕日事件とは、おっさん教師レイヴンになぜだか夕日マジックでどきどき
してしまった事件のことである。あたしはどうしたらいいんですか!
どうしようもないけどさ、まあそのうちどうにかなるよ。どうにかってなんだ。どうに
かってなんなの。あたしはどうなるの!わけわかんないよう。
こんなくだらないことやっている間にもう夏休みも終わりそうだよ、ばかじゃん。
ちなみに宿題という名のボスは、エステルという最強武器によってすでに倒している。
ありがとう。さすが最強武器だぜ。そうだね、あたしはまあ、武器の切れ味を良くする
砥石といった消耗品だろうか。あはは、うるせーばかやろー!余計なお世話ですうううう!
で、話を夏休みに戻しますが、一体こいつは夏休み何をやっていたんだろうか?という
疑問も出ると思うんだよ。お答えしよう!別に何もしてない!
エステルと宿題やったり(宿題写したり)、プールに行ったり、ショッピング行ったり、
人並みに遊んだけど、外に出る以外はお家ごろごろさ☆すってきー!
あたしは今おばあちゃんのお家におばあちゃんと一緒に住んでるんですよう。両親は海
外でお仕事しています。なので、今はおばあちゃんと2人なんだなー。おばあちゃん家
はいいよ!縁側あるし。縁側はすばらしいよ。日本万歳ですね。
さてさて、そんなわけで、もう夏休みも終わってしまう…!そんなあなたに朗報です!
今日は花火大会!どんどんぱふぱふ。
結構規模が大きい花火大会です。屋台とかもいっぱいだよ!やったね!かき氷食べたい
し、りんご飴食べたいし、あと、やきそばとたこ焼きとチョコバナナとわたあめとベビー
カステラも食べたい!ってデブか!ただのデブか!なんでこう食べることしか考えない
んだろうね、あたしは。がっかりだよ!自分にがっかりだよ!
そんな食い意地のはったあたしは置いといて、今日はエステルと一緒に行くことになっ
てるんだなー。浴衣着ていく約束をしているのです。楽しみです。
あたしは、おばあちゃんが繕ってくれた浴衣を着ていきます。露草色の浴衣に朝顔の模
様で、緋色と橙色のリバーシブルになってる帯を締めて。すてき女子。とか言ってみる。
久しぶりにすべてを忘れて花火大会謳歌してくるとします。
◆
「よし!それじゃあ行ってくるね!」
「はいよ、気をつけて行くんだよ」
「おっけー!行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
浴衣はおばあちゃんに着付けをしてもらった。さすがおばあちゃん。ちなみにおばあちゃ
んの名前は菫です。良い名前じゃないか!何様ですかあたし。ねー。とかなんとかで余
談ですけど一応おばあちゃんを紹介しました。
で、エステルとは駅で待ち合わせしているので、下駄をカランカランと鳴らしながら向
かいたいと思いまっす。
「ぶえい!間に合った…!何が下駄をカランカラン鳴らしてだよ!ばかかあたしは!」
「!」
「エステル!久しぶりー!だっけ?」
「いえ、一昨日会いました」
「だよね!なんかノリで久しぶりって言っちゃったよ」
久しぶりではなく一昨日会ったエステルは、落ち着いた黄色、山吹色?に和柄の向日葵
の浴衣を着ていた。帯は瑠璃色で明るすぎない色合い。いいね!
なんかこうエステルってやっぱりお嬢だからか、気品があるっていうか、うん。
「相変わらずかわいいですなーうふうふ」
「こそかわいいです!いつもより大人っぽく見えますね」
「そうかしら?あはーん」
「ふふっ!はい!髪もアップにしててうなじがセクシーですよ!」
「あらやだうまいこと言うわねお嬢さん!でも髪の長さそんなないからギリギリだよこ
れ!ミディアムボブにはきついよう」
「送れ毛が色っぽいです」
「そ、そうかな。なんかエステルに微笑みながら言われると無性に照れるんだが!」
「ふふふ」
「えへへー。じゃ、行きますか!」
「そうですね」
花火が上がるまではまだ時間があるので、屋台をぶらぶら見ることにしたけど、あの。
気のせいじゃないよね、なんか、横に。
「……」
「……」
「…フレン先輩、ですよね?」
「うん?そうだよ」
「そうだよ、じゃないんですけどおかしくない!?それともあたしが間違ってますか!?
あたしですか間違っているのは!?」
「いや、お前が正解だ」
「うおい!ユーリ先輩までいたのかーい!」
「正確にはフレンに、別に花火大会くらいと2人で花火大会行かせてやれよ、
っていうのを伝えに来たんだが間に合わなかった。が、正解」
「あ、そうなんですか」
「おう」
「……」
「……」
「あの、まあほんとは最初エステルに会った時からナチュラルに横にいたフレン先輩が
とても気になっていたんですが、エステルが普通だからスタンドか何かかと思ったん
ですよね。フレン先輩似の」
「残念ながら本物だ」
「ですか」
「ごめんなさい、」
「いや、全然だいじょうぶだよ!お家の事情?っていうのだろうし」
「花火大会は人が多いし何かあったら困るからね。こういう時は僕がついていくことに
なってるんだよ」
「へえ」
「ま、オレも行くから4人で遊ぶって思えばいいんじゃねえか?」
「そうですね!ダブルデートみたいですねーへへへ!」
「オレとお前?」
「うーん、そうだと言いたいんですけど、ユーリ先輩だとお兄ちゃんって感じしちゃう
んですよねえ」
「奇遇だな。オレもお前がくせのある妹にしか思えない」
「くせは余計でしょ!」
「でもフレン先輩が相手っていうのはなんかこう、ピンとこない」
「すごく複雑な気分だな…」
「まあまあ!ここは普通に4人でいえーいという感じで行きましょう!」
「お前がややこしくしたんだろうが。あ、そうだ、もエステルも浴衣似合ってる
な。いつもより色気あるんじゃないか?」
「うん、2人共とてもかわいいよ」
「「……」」
「えへへ!」
「ふふっ!」
こんな風に褒められるとすごい照れるけど、ユーリ先輩もフレン先輩もすごいやさしい
顔をしてて、すごい嬉しい。
だから最初はびっくりしてエステルと顔を見合わせたけど、嬉しくて笑顔になった。
ほんとに、良い人ばっかりだなあ、あたしの周りは。しあわせだなあ。うふふ!
◆
「りんご飴!りんご飴!」
「お前まだ食う気か」
「りんご飴は食べたい!あたし食べたことないんです!」
「だったら最初にりんご飴選べよ」
「だって他にも食べたいんですもーん!いいじゃんいいじゃんいいじゃんじょー!」
「子供か!」
「子どもですう!」
「2人共落ち着いて!、僕が買ってあげるよ」
「お兄ちゃーん!」
「お兄ちゃんはオレじゃなかったのか」
「やさしいお兄ちゃんにチェンジ!」
「こいつ…」
「ユーリ、にやさしくしてあげてください!」
「十分やさしくしてるだろうが!お前らとんだ贔屓だな」
「妹みたいなものですから」
「皆の妹って感じだね。ほら、りんご飴」
「うわあい!ありがとうございます!ユーリお兄ちゃんも妹にやさしくしておいた方が
いいんじゃないですかね?」
「決めた。こいつをシメる」
「うそうそうそうそうそですよおおおおおお!冗談ですよ!軽い冗談ですよ!羽毛のよ
うに軽いうそです!」
ドーンッ
「あり?」
「とかなんとか言ってる間に花火始まったな」
「うわあ!きれいですね!」
「土手の方まで行ってみようか」
「そうだな」
「2人共はぐれないように気をつけてね」
「了解です!」
「はい!」
そんなわけで、人混みに負けないようになんとか土手までよいしょよいしょで移動した。
やっぱり土手のが見やすくていいね。ていうか土手も人がいぱーい。カップルもいぱー
い。爆発を希望する!うそだようそ!今日くらい許してやるぜい。
花火ってたまに変な形とかあってすごい気になるよね。いろんな形に挑戦しているその
心意気は粋だが、伝わらないとこう、もどかしいですね。あれって、あれなのか!?と
いうそのもやもや感。答えを教えてくれたらいいんだけどねえ。うむむ。
「あれって、ハンバーガー?」
「んなわけないだろ。UFOだろ」
「土星じゃないんですか?」
「土鍋じゃないかな」
「「「それはない(です)」」」
こんな感じに意見食い違っちゃうんだよねえ。でも答えがわからない…!なんてもどかし
んでしょうか!
ちなみに、土鍋とかボケをかました人はもちろんフレン先輩です。本人はいたって真面目
に答えていたけど。土鍋って!そんなわけあるかい!ねー。
「うひょー連発だー」
「すごい明るいですね」
「さっきのってやっぱり土鍋じゃ、」
「断じて違う」
花火は次々と空に花を咲かせた。あー、あたし昔花火職人と結婚したいと思っていたこと
あったなあ。なんか職人って響きがかっこいいよね。なんで花火職人なのかは、わかりま
しぇん!
というか上見てたら首疲れた、首。ういー。首をひねってういーっておっさんか。おう、
ごきって鳴った。凝ってますね、お客さんてか。
とかにやにやしながら首を回していたら、人混みに見たことある姿を見つけた。
え、あれって、
「…先生?」
「ん?…おい!!どこ行くんだよ!」
「!?」
「!」
後ろでみんながいろいろ叫んでたのはわかっていたけど、どうしても気になって走った。
先生なの?レイヴン先生なの?どうしてあたしは走ってるの。なんでこんなに必死に追
いかけようとしてるの。
人混みで遠くなっていく先生を必死に追いかけた。いろんな人にぶつかって、何度も謝
りながらも追いかけた。見えなくなっても追いかけた。
先生。先生。先生。せんせい。せんせ、い。待って、待って。
「せんせいっ…!」
すでに見失ったのに叫んだ。そもそも、あれが先生だっていう確証もない。ただ、先生
に似ていたから。それがもし先生だったら、その可能性にすがった。
どうして、こんなに追いかけたんだろうか。どうして、そんなに先生に会いたかったの
だろうか。どうして、
「…いたい、」
夢中で走っていたため気がつかなかったが、鼻緒がこすれて指の間から血が出ていた。
なんでこんなになるまで、走ってるんだろう。髪だって乱れて、ぐしゃぐしゃ。
下を向けば、地面が上からの花火でちかちかしてる。ばっかだな。
仮に会ったとして、先生だったとしてどうするつもりだったんだ、あたし。
偶然を装う?こんな乱れた髪で?痛む足で?そんなこと、無理でしょ。ばかばか。
ぐいっ
「え…?」
急に腕を引かれた。その瞬間弾かれたように顔をあげた。
「せん…」
「!お前、急に走り出すな!心配するだろ!」
「え、あ、ごめんなさい…ユーリ先輩」
「…どうした。何か、あったのか?」
「なにも。なにも、ない、です」
「嘘つけ。ったく、めちゃくちゃ探したんだからな。ちょっと待ってろ、今フレンに電
話するから」
「は、い」
ユーリ先輩がフレン先輩と話して、これから合流するのは難しいから今日はもう解散に
なった。ユーリ先輩が電話を代わってくれて、フレン先輩とエステルに怒られた。
エステルなんかぐずぐず泣きながら「心配したんですからね!のばか!」だって。
かわいいんだから。すいません。
◆
それから、ユーリ先輩はお家まで送ってくれた。しかもおんぶで。先輩は、血が出てい
る足を見て、このばかと一喝して、でもやさしいばかだった。ごめんなさい。
家までの間、先輩は何も聞かなかった。あたしがアホみたいに黙ってたから。
お家についてから、ありがとうございましたと消え入りそうな声でお礼を言うと、何も
言わず頭をぽんっとして先輩は帰っていった。
部屋着に着替えてから、縁側に出てぼーっと月を見ていた。
ループする今日。あたしはどうしてあんなことを、みんなに迷惑かけて。なんであんな。
…うそ。ほんとはなんとなく気がついてた。
思い出すのは、先生の顔、先生の目、先生の手、先生の声、先生の背中。どうしてこん
なにあたしに訴えるのか。どうしてこんなに鮮明に浮かぶのか。どうしてこんなに、探
してしまうのか。
だって、だってあたしは、せんせいが、
(すき、なんだ。)