賃貸










03ブルーブルーブルー







「あつい」
「あついですね」
「もうだめだ、溶ける」
「溶けちゃいそうですね」
「エアコン故障とか殺す気か。そうなのか。学校がグルか」
「あついですね…」
「早く5限にならないかな」
「あ、そういえば今日体育プールでしたね」
「うん、早くこの暑さから逃れたいぜ」




夏が来た。太陽が自身の存在を強める季節。暑さはいつも何かを残していく。
とりあえず今のあたしには汗と暑さによるイラつきしか与えてもらってませんけどね!
ところで夏と言ったら、あたしたちに冷房という強い味方がついてくるものだ。だが残
念なことに、故障というハプニングにより、あたしたちは一気に灼熱地獄へと落とされ
た。唯一の救いはプールだ!それしかない!もうそれしかないんだあああああ!という
今の状況です。





「うわーい!夏だ!プールだ!青春だ!」
「やっと涼めますね!」
「天国だ!ここは天国だ!ふやけて溶けたっていい!ずっとここにいたい!」
「わたしもずっとここにいます!」
「そこの二人ー、これも一応授業なのよー」
「先生!あたしはここで全部の授業受けます!」
「はいはい、諦めて整列してくださーい」




いやー、プールてすてきだね。すてきすぎてもう水に住みたい!お魚になってしまいた
い!なんて夢のあるあたし!乙女!浪漫ある!





「ほれほれエステルー」
「きゃっ!ったら!お返しです!」
「うおお!やったなコノヤロー!おりゃ!」
「ひゃっ!!手加減してください手加減!」




青春だ。青春してるよ。なんて青春をしているんだ!これぞあたしの求めていた高校生
活!というわけでもないんだけど、まあ楽しいよね。普通に。
設備の整ったこの学園のプールは最高です。公立の中学のような外にあるプールではな
く、室内プールよ!ちなみに温水です。冷たすぎず、温かすぎず、わかってるね。
中も清潔だし、天井はガラス(UVカット)で太陽も浴びつつの贅沢な時間ですよ。あ
りがとう!ここに来てよかった!
それにしても、おなごの水着姿はたまらんわい。うへへへ。おっさんと言われても良い!
ちなみに、男子とは別々なんですよ。ざまあみろ!おなごの水着姿はわしが独り占めし
てやるわい!いやっほーい!












「最高だと思いません?おなごの水着を独り占め!」
「いや、確かに最高だけど、ちゃん女の子でしょ」
「わかってないなあ。女の子だって女の子を愛でるのだよ!先生無駄におっさんやって
 るの?」
「無駄って!無駄におっさんやってないわよ!失礼しちゃう!俺だって出来ることなら
 若い女の子がプールできゃっきゃ言ってるのを見たいわよ!」
「……」
「自分でふっといてその蔑む目はやめて!」
「だって、ねえ?その台詞なかなかギリギリのとこいってますよ」
「ギリギリいかせたのはちゃんだからね!これは誘導だよ!一種の誘導尋問だか
 らね!」
「まあいいや。とにかく早くエアコン直してほしい」
「まあいいやで終わらせたよこの子!でもまあ確かにエアコンの件は同感だけどねえ」
「でしょう!いつ直るのかとか聞いてないんですか?このままだと夏休み突入しちゃい
 ますよーよーよー」
「そうねえ、そろそろ直る頃だと思うけど」
「あー、こう暑いと授業も集中できねえって話ですよ。やってらんねえです」
「ほんとにねえ」
「というか先生いつも白衣着てますけど、見てて暑苦しいです」
「仕方ないでしょ、物理の先生ですもん」
「化学とか生物とかならわかるけど物理って、」
「物理ナメちゃいかんよ!」
「別にナメてないですけど、暑いです。ほんと視覚から暑いです。むしろ腕まくりする
 くらいなら脱いでください。脱げ」
「最終的に命令しちゃったよ!」




うへあ。暑い。でもあたしたちが今いる東屋は日陰だからまだ涼しいんだけどね。風も
入ってくるし、下手すりゃ教室よりも涼しいわ。
ま、教室は人口密度の問題もあるんだけどね。人が集まるとやっぱり熱がこもるよ熱が。
勘弁して。ただでさえ暑いのに。
ああ、アイス食べたい。ガツンとみかんが食べたい。
































「なんてこった」




期末テストも終わり、近付く夏休み。そして相変わらず直らない冷房。もう学校終わる
よ。一番長い休みに突入しちゃうよ意味ねーよ!
夏休みが間近になった今、すでに学校は午前授業で終了。つまり一番暑い時間帯である
お昼に帰される。悪魔め!せめてこの時間に帰すなら日傘をくれ!一人一本ずつ日傘を
くれ!
とにかくもうやってられねえよ!ということで途中コンビニに寄って、アイスを買うこ
とにした。いや、買おうと思った。思ったんだよ。でも、お金がない。正確には財布が
ない。お家に忘れちゃったよ!えへ!
ばかやろおおおおおおおお!死ぬ気か!お金を持たず家を出るな!せめて小銭だけでも
ポケット入れとけばっかやろー!
おかげでアイス一本買えねえよ!ガリガリ君でさえ買えねえよ!そんなあたしの存在意
義ってなんだろう。ないんじゃないかな。もう川に飛び込んじゃう?浅瀬から。もちろ
ん浅瀬から。
もういやだ!誰かこの体内の熱をどうにかしてください!




「ううっ、なんて愚かなんだ…あたしは。ううっ、うえーん!」
「どうした?」
「暑いからアイス買おうと思ったのに財布忘れちゃったんですうううわあああああん!」
「…どれが欲しいんだ?」
「うえっ?え、え、あの、そんな、あたし、」
「泣くくらい食べたいんだろうが。いいから言えよ」
「う、あ、じゃ、じゃあ、ハーゲンダッツ…」
「おいいい!遠慮を知らねえのか!」
「冗談ですううううわあああん!ガツンとみかんが食べたいんですううううう!」
「わかった。ちょっと待ってろ」




なんか知らないお兄さんが奢ってくれるらしい。いいのかな。というか高一にもなって
アイス買えないから泣くって相当恥ずかしくない?むしろ常識的にだめじゃない?知ら
ない人からものをもらっちゃいけません!って小さい頃に教えられてきたのに!
どどどどどうしよう!今さら冷静になってきた!…逃げる?逃げるか?でも逃げたのバ
レて殺されたらどうしよう!これはオーバーか。いやいや!でも、




「おい、買ってきたぞ」
「え!?いや、あのやっぱり、」
「ほら溶けちまうぞ」
「うわわ、あ、ありがとうございます」
「おう」








知らないお兄さんに買ってもらったアイスを片手に、日陰に逃げ込みアイスを貪る。お
いひい。お兄さんも自分用にアイスを買ってきたらしく、流れで一緒に食べる。
冷静になってお兄さんを見ると、あたしと同じ学校らしい。制服が同じだ。先輩かな?
どうなのかな。




「あ、あの」
「ん?」
「これ、ありがとうございました。あの、名前教えてもらってもいいですか?」
「ああ、オレはユーリ・ローウェル。お前と同じ学校の二年だ」
「ユーリ先輩、ですか。あたし、一年のです。あと、明日お金返しに行きま
 す!」
「いや、別にそんくらい構わねえよ。黙って奢られとけ、後輩」
「でも、」
「じゃあ、今度はお前がオレにアイス奢るってのは?」
「あ、はい!絶対奢りますから!」
「ははっ、楽しみにしてるわ」
「はい!」




良い先輩に出会いました、です。
ユーリ先輩はなんだかお兄ちゃんみたい。というか、かかかかっこいいんですけど!フ
レン先輩より断然ユーリ先輩派なんですけど!しかも色気出てる!なんか色気出てる!
色気にやられて鼻血出そう!
ちょ、これ恋のフラグ!?フラグですか!?そうなんですか!?大歓迎なんですけど!
どうしましょ!アイスから始まる恋っすか!最高っすね!そういうの待ってた!いやっ
ほい!あたしにもついにやって来たんですか恋の季節!
今度アイス奢る時、アドレスとか聞いちゃおうかな。あらやだ大胆なあたし!いやむし
ろ今聞こうよ、うん。







「あのー、先輩」




















とかまあ色々あった一学期でしたが、こうしてあたしの高一の夏が本格的に始まりまし
た。