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02飴の雨、傘は







新しい環境で不安と期待に挟まれた4月が過ぎ、今はただ楽しい毎日を過ごしている。
一番最初に友達になったエステルはやっぱり良い子だった。そして令嬢でした。かなり
の金持ちやで!でもそれを鼻にかけるわけでもなく、天然ちゃんで普通にすき。他にも
もちろん友達はできたが、基本はエステルと一緒にいる。
そういえば、始業式の日に見つけた通称秘密の花園は、エステルに何度も教えようと思
ったのだが、未だ教えていない。なんとなく、あのレイヴンという胡散臭い先生との秘
密も悪くないと思ったからだ。そう、ただの気まぐれ。
あれから一人で何度も足を運んでいる。先生はいつもいる、あの場所に。あたしが先に
いる時もあるし、あの先生が先の時もある。不思議と気まずい空気が流れたことはなく、
いつも世間話をしてなんとなくで解散。そのやりとりがなぜか心地良いものだった。
先生、という感じがしないのだ。何だろう、親戚のおじさん?そんな感じ。おじさんは
失礼か。まあギリギリ親戚のお兄さん。なんでもいいか。




ただレイヴン先生は、確かにあたしの中に根付いていた。どこか、隅にひっそりと存在し
ていた。







「おはようございます、
「ん?あ、エステルおはよー…って、え、誰?そのお隣さん」




エステルのお隣さんにはどこぞの王子だコノヤロー!っていうくらい朝から眩しい輝き
を放っております。金髪碧眼って王子しか許されないんじゃないんですかね。というか
なんてさわやかな笑顔なんでしょう。




は会うの初めてでしたよね。こちら、フレンです。わたしたちより一つ学年が
 上なんですよ」
「初めまして、フレン・シーフォです。エステリーゼ様からよく話を聞いています」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。あたしはです。というかエステリー
 ゼ様って、え?何、やっぱりどこかの王子様でしたか」
「もう、フレン!学校ではその呼び方はやめてくださいって何度も言っているのに!」
「す、すみません。僕はエステリーゼ様、じゃなくてエステル、さんの家で護衛をして
 いる者で、昔から家族でお世話になってるんです」
「ああ、そうでしたか!いやーさすがエステルだね、スケールが違うというか、うん。
 というかフレン先輩!あたしにまでそんな敬語はいりませんよ!あたしは後輩ですか
 ら!」
「確かにこれじゃあ不自然だね。じゃあ先輩らしくっていうのもあれだけど、
 と呼んでもいいかい?」
「はい!」




新しい出会い。こういうの、悪くない。普通の出会いじゃないところが楽しい。わくわ
くする。あ、そういえば先輩第一号だ!フレン先輩、か。先輩っていいね!響きが!




聞けば、フレン先輩とは生徒会役員らしい。真面目そうだしね、先輩には確かに似合っ
てる。そして女子に大人気らしいよ。まあ王子じゃねえかって思うくらいの容姿だし、
そりゃあ人気だろうよ。あいにく、あたしには眩しすぎるので、キャーキャー言う対象
にはならない。あたしはこう、もっと男らしい方がすきかな。いや別にフレン先輩がだ
めとかじゃないんだけど、あたしにはきれいすぎるのさ…。なんてな。





「今週はもう中間かあ。普通にやばい」
「早いですねえ」
「エステルは余裕なんでしょ、そうなんでしょ、ちくしょおおおおお!」
「普段から予習復習をしておけば大丈夫ですよ」
「遅いよ!何もかもが遅いんだよ…知ってた?明後日から中間なんだよ、今週とか言っ
 てちょっと余裕あるように見せかけて明後日からという罠なんだよ」
「今からでもがんばりましょう!」
「うわああああああ!…でもまあそうすることにしようかな」
「わたしも手伝いましょうか?」
「いや、だいじょうさ!とりあえず今日図書館寄っていくから先帰っていいよ!あ、で
 もわかんないとこあったら夜電話するかも」
「わかりました!いつでもかけてきてくださいね」
「ありがとうマリア様!じゃあちょっくら脳みそをフル稼働させてくるわ!」
「はい、また明日!がんばってくださいね!」
「おうよ!じゃ、まったねーん!」




エステルと別れ、あたしは図書館へと向かった。








おいいいいいいい!お前らどんだけ必死なんだよ!かく言うあたしもそうだけどさ!図
書館パンパンだよ!あんな広い図書館なのに席埋まっちゃってるよ!ていうかこんな人
が密集したところで勉強なんかできるかばかたれ!ばかはあたしなんですけどね!
うおおお、どうしよう。あ、そうだ秘密の花園で勉強しよう。あそこがあったじゃない
か!神はあたしを見捨てなかったのですね、アーメン!









秘密の花園に着いたあたしはさっそくテーブルに教科書とノートを広げた。
ここはいいね、静かで。集中できるよ。あんな図書館じゃ勉強できるかってんでい!
さて、そんなことは置いといてとりあえず勉強勉強。明後日はさっそく英語なんだよね
え。ガッデム。
教科書広げてみたけど、なんかもう嫌になった。もう一度訳してみようかなと思ったの
だけど、わかりま千円。いや、内容はね、ざっくり覚えてるんだよ。でもさ、文法とか
あんまりわからないというかさっぱりわからないからこれ終わった感じですか。おつか
れっしたー!とはならねえからな。ノートを見よう、ノートを。
ええと、ちょ、ばかやろう。全力でばかやろう。アルファベットをひたすら順番に書い
てるだけじゃねえか。どうしたあたし。この時のあたしどうした。どうして急に初心に
帰っちゃったの。帰ってる場合じゃないよ。前に進まなきゃだめだよ!でも今さら進め
ないいいいいい!うわああああああ!




「お、ちゃんテスト勉強?」
「せんせいいいいいいいいいいいいい」
「え、何!?こわい!ちゃんこわい!」
「せんせい教えてえええええええええ!もうだめえええええええええ!」
「落ち着いて!とりあえず落ち着いて!」










「はいはい、じゃあここ見てここー」
「へい…」




レイヴン先生に泣きついて英語を教えてもらっているあたしです。物理の先生だけど、
英語できるようです。ありがたいです。救世主です。
そんでもって先生だけあって、とてもわかりやすいです。やっほいです。感謝感謝で
ございます。




「なるほど!わかった!わかったよ先生!」
「そりゃよかった」
「先生って英語できるんだね」
「あのね、物理だけできても先生にはなれないのよ?」
「ふうん」
「ちょ、散々教えてもらっといてその疑いの目はないでしょ!」
「いや、なんか万能には見えなかったもので」
「はっきり言うね」
「それだけが取り柄ですから!」
「はい、そこえばらない」
「先生の授業ってこんな感じなんだね」




高校一年生のあたしはまだ文系、理系と分かれていない。来年からは文系、理系、ど
っちにするか選ばなければならない。
ちなみ物理は理系コースなので、先生の授業はまだ受けていない。もしかしたらこの
まま先生の授業を受けないで終わってしまうかもしれない。とは思わないんだな、こ
れが。




ちゃんは来年どっちにするかもう決めた?ってまだ入ったばっかだものね、
 決めてないか」
「うーむ。たぶん理系にすると思う」
「あら、もしかして俺様がいるからとか言っちゃう感じ?いやー困ったね、一応先生
 だからそういうのはちょっとあれなのよねえ」
「妄想乙!誰もそんなこと言ってないですから。欠片も言ってないですから。元々文
 系って苦手なんですよね、あたし。それに数学とかのがやってて苦じゃないし、ど
 っちかというと得意な方だから」
「ほほう、なるほどね。ちぇ、俺がいるからーとかじゃないのか、残念」
「言うわけねえよ!わけねえよ!…ま、そういうことだから、来年先生のクラスにな
 っちゃったりしてね!」
「そうかもね、楽しみにしてるわ。ちゃんの担任の先生も悪くないわね、って
 今は担任誰なの?」
「キャナリ先生だよ」
「へえ」
「キャナリ先生でよかったよーほんと!アレクセイ先生とかだったら正直登校拒否に
 なるもん」
「ははっ、そりゃ言いすぎでしょ」
「ええ、だって目が変態くさい」
「うん、まあ、ちょっとね」




そのあとも世間話をしつつ、勉強を教えてもらいつつな時間を過ごした。やっぱりこ
ういう時間、心地良い。先生といるの、結構すき。



――あたしは気付いていたよ。先生の表情が一瞬変わったのを。
ねえ、先生、あたしたちは子供だけど、子供だからわかることもあるんだよ。大人の
仮面がずれる瞬間が、わかるんだよ。























「終わったあああああああ!やっほおおおおおおおい!」
「お疲れ様です!がんばってましたもんね!」
「ほんとだよ!よくあのギリギリでここまでこれたよね、自分でも感心しちゃいやす。
 そうだ!今日中間終わりました記念で、こないだ見つけたカフェ行こうよ!」
「そうしましょう!あそこのケーキすごいおいしそうですもんね!楽しみです」
「よっしゃあ!じゃあさっそく行こう!…あ、そうだ、エステル先に校門で待ってて!
ちょっと野暮用があるんだ、でもすぐ終わるから!」
「わかりました、先行ってますね」




向かうは秘密の花園。







「先生!」
「ん?おお、ちゃん。テストおつかれー」
「先生に英語教えてもらったから、すごい解けた!」
「そかそか、よかったわね」
「うん!でさ、これお礼」
「飴?しかもこんなに一杯、」
「どうよ、今日カバンに詰めれるだけ詰めてきたよ」
「ははっ、詰めるもんが違うでしょうが。ま、ありがたく受け取っておくわ」
「ねね、これおいしいから食べてみ!」
「いや後で食べるよ」
「これほんとおいしいから食べてみって!」
「…はいはい」
「どう?」
「……」
「ちょ、先生?」
「……甘い」
「え、先生甘いの苦手なの?」
「……うん」
「それを早く言えよ!あーあ、甘いもの苦手なのかあ」
「ごめん…」
「先生が謝ることじゃないでしょ。うーん、じゃあこれあげる」
「これも、お菓子に見える、けど」
「あからさまにビビるのやめてください。いいからお口直しに食べてみて下さいな」
「…はい」
「どう?」
「ん、甘くなくて、おいしい」
「でしょ!これ紅茶のマフィンなんです。だから砂糖の甘さもなくて、おいしいでしょ!」
「うん、これも詰め込んできたの?」
「違うよ!これは小腹空いた時用に作っておいたんです!」
ちゃんが作ったの?」
「そうだよ」
「へえ、意外にもお菓子作っちゃうんだねえ」
「どういう意味だこらァァァ!」
「ごめんごめんんんん!」
「って、エステル待たせてるんだった!もう行かなきゃ!じゃあね、先生!」
「はいはい、これ、ありがとうね!」
「うん!…、また作ってあげてもいいけど、いります?」
「ありがたく貰わせていただきます」
「おっけー!じゃあ先生さようなら!」
「さようならー、気をつけてねー」
「はあい!」




先生に背を向けて走り出す。
新しい発見。思わず顔がにやけた。先生は甘いものが苦手。でも、紅茶のマフィンな
ら食べれる。そういえば、男の人に自分が作ったお菓子あげたの初めてだ。って、男
の人て、先生は先生だよ。男の人とかじゃ、ないし。何考えてんだ、あたしは。







「エステルごめーん!」
「大丈夫ですよ。あれ、何か良い事でもありました?」
「え?なんで?」
「なんだか、すごい嬉しそうです」
「そう、かな?うん、まあちょっとうれしいこと、あったかな!」
「それはよかったですね!」
「うん!じゃあ、行こうか!」













夏が来る。そして、秘密は静かに加速。