act.8 楽しい楽しい夏休みはあっという間に過ぎていきました。今年は良い夏休みを送れた! やっぱり恋をすると変わるもんだねえ、人生というのは。人生経験少ないあたしが言う のもあれなんですけどね。でも変わったんですもん。 という話は置いといて、夏休みが終わってしまったので、当然学校が始まってしまい ました。学校ではエースさんに会えないので、すんごく残念。ま、携帯電話っていう 便利なものもあるので、メールとか電話とかさせていただいているんですけどね。ふふふ。 こんなしあわせな日々を送っていると、どうにかなってしまいそうですね!というか、 反対の出来事が起こるんじゃないのかなって少し心配しているんです。人生っていうのは、 波があるからね。心配したところで、あたしにはどうにもできないのだけれど。あたし は今できることしかできない。だから、今しかできないことをやる。 そういえば、最近カメラの話をしていませんけど、ちゃんとカメラでひたすら撮りまくって ますからね!カメラはあたしと一心同体なんです。遊びに行くときも、電話している時も メールしているときも、いつだってカメラはそばにあるし。というかいじってる。相棒 ですから。間違えた、恋人でした。ごめん。そんで、実は朗報があるんですね。むふふ。 夏で腕前をたぶん上げただろうあたしに、なんと!またまたモデルさんを撮らせてくれ るらしいんです!いやったー!うれしいもんです!ちょっぴり認められた気がします。 最初は、もしかしてエースさん?って期待したんだけど、違う男の人でした。残念。 でも、向こうもプロのモデルさんなので、思う存分撮りたいと思います。しかも、当日 エースさんも来るらしいので、すごくうれしいです!とか言いつつちょっと恥ずかしい ですけどね。仕事の姿を第三者視点で見られるとなると、モデルと写真家の関係とは 違うし。とにもかくにも!せっかくのお仕事ですので、精一杯がんばらせていただきたい と思います。おっしゃー! 「なんか今日ご機嫌ね」 「むふふのふ」 「またお兄さん絡み?」 「違うよ!いや、違わない?」 「どっちよ」 「エースさんもいるんだけど、今日は本業の方でちょっとね!」 「本業は学生でしょ」 「もう、わかってるくせにい」 「で?なにがあるの?」 「プロのモデルさんを撮らせていただくことになりました!」 「へー、すごいじゃない!」 「でしょでしょ!」 「そういえば、最近お兄さんのことばっかりで忘れてたけど、あんたカメラやってるん だものね」 「カメラがついでみたいに言わないでよーう」 「最近はめっきりそうじゃない」 「そんなことないよ!実は一体化しすぎてわからないだけで、いつでもそばに!」 「あー、はいはい」 「ちゃんと聞いて!」 相変わらずめんどくさそうに話を聞くナミは、ポッキーを3本喰いしている。どうりで 減りが早いと思ったんだよ…。あたしが話している時に、整った口にポッキーが吸い込む のを見ていた。止められなかったあたしが悪かったです。ちぇ。 でも、いいんだ!今日はお仕事ハッピーデーだからいいんだ!がんばろうっと! エースさんとも話せる時間があればいいな。ちょっとはありそうだけど、どのくらい時間 がかかるかわからないしね。 「ま、がんばりなさいよ」 「うん、がんばる!」 「良い男だったら紹介してね」 「ナミちゃん…」 抜け目ねえな!さすがナミだな、と思いました。 *** 「おはようございます!」 「おー気合入ってんなァ」 「そりゃあ、お仕事ですからね!」 「いつもそんくらいやってほしいもんだけどなァ」 「やってますう」 「そうかァ?」 「シャンクスがもっとしゃき!っとすればきっとわかりますよ」 いつも通りのシャンクスをテキトーに流しつつ、準備にかかる。いつも以上に気合を 入れて、少しの緊張感を味わいながら。 「今日のモデルさんはどんな人なんですか?」 「うーん?なんだっけな」 「ぼけましたか」 「失礼なやつだな!うーん、まァ、女顔のやつ」 「ざっくり!」 「優男」 「ふうん」 「ま、撮りがいがあるやつだとは思うけどな」 「そうですか」 女顔の優男ねえ。なんかエースさんとはちょっと反対な感じ?エースさんって、男らしい 部類だし、男の色気ってのをぶつけてくるし、優しいけど別に優男じゃないし。なんか 野生の獣的な感じ?ってなんであたしはすぐエースさんと比べるのかね。だめなやつ! 「…集中しなきゃな」 「緊張してんのか?」 「まあ、それなりに…」 「お前ならできるさ」 「そうですかねえ…」 「おう」 「…ん?」 「どうした?」 「エースさん!?」 「うわっ、びっくりした」 「びっくりしたのはこっちですよ!」 「そうなのか?」 「今、シャンクスだと思って話してました」 「はははっ!いつものでやればいいんだ」 「…はい」 「じゃ、おれは邪魔にならないようにあっちに立ってるからな」 「はい!見ててくださいね!」 「おう!」 エースさんがいるなら心強い。やっぱりエースさんはいいなあ。がんばろ! *** モデルさんも来て、あいさつを軽くしてすぐに撮影にかかる。 モデルさんは、シャンクスが言っていた通り、女顔のきれいな男性でした。おだやかな 顔で微笑む感じ?良い人そうでよかったです。あいさつした時も良い感じだった。これ なら安心ですな。さて、シャンクスもエースさんの隣に引っ込んでしまったので、ここ からはあたしとモデルさんとの対話です。 「それじゃあ、始めますね。よろしくおねがいします」 「はい、よろしくおねがいします」 「緊張しないでリラックスしてくださいね!」 「ははっ、そちらもね」 「あはは、そうですね!」 こんな感じで撮影は始まった。緊張してるのはあたしも同じだろってな。むしろあたし の方が緊張してる。いや、もう緊張してた、かな。ここからは、緊張とかなしにバンバン 撮っていきまっせ。あたしは、大きく深呼吸した。その時目を閉じると、なぜか父が頭 をよぎった。お父さん、あたし、同じ道に立ってるよ。あたしも、すぐ追いついてやる から。空から悔しがってればいいよ。目を開け、そのままレンズを覗き込んだ。 「…あいつって、あんな風に撮るんだな」 「なんだ?いつも撮ってるところ見てんだろ?」 「遊びでなら見てるさ」 「あー、仕事のあいつは見たことなかったか」 「その時はおれもモデルだった」 「そういえばそうだったなァ」 「……」 「なんだ、やきもちか!」 「……」 「おいおい、マジで睨むな」 「…睨んでねェ」 「鏡見てみろ、すげェぞ」 「……」 カメラ越しに見るの眼に惹かれたエースは、それが誰かに向くことを考えたこと がなかった。常に自分だけに向けられると勘違いしていたのかもしれない。そんな自分 の考えを見透かしたかのように、目の前では男のモデルがの視線を独占している。 仕事だから仕方がない。だが、これからもこんな思いをしなくてはならないとなると、 我慢できなかった。自分で勝手にむかついているだけだ。シャンクスの言う通り、ただ 嫉妬していた。の視線を独占する、見ず知らずの男に。自分のものじゃない、 彼女になぜか腹が立った。 「…勝手なやつだな、おれ」 「ん?」 「…なんでもねェよ」 *** 「お疲れさまです!」 「お疲れ様でした」 お仕事無事完了!やっぱり気持ち良いなあ、カメラって。モデルさんを撮るのもやっぱ いいね。今回思ったことは、モデルさんによって違うんだなあってこと。当たり前のこと だけど、それを実感したっていうか。エースさんは、狩らねば狩られる!っていうタイプ だけど、今日のモデルさんはそういう感じじゃない。そもそも狩るとかそういうのでも なかったし。普通はそうなのかもしれないけどね。ま、なんにしろ良い経験をさせて いただきました!あー、楽しかった。 「さん」 「あ、はい」 「今日はありがとうございました」 「こちらこそありがとうございました!」 「シャンクスさんもそうですけど、さんもとても魅力的な眼をするんですね」 「そう、ですかね?」 「そうですよ?また、機会があったら一緒にお仕事しましょう」 「ありがとうございます!こちらこそよろしくおねがいします!」 「それじゃあ」 「お疲れさまでした!」 良い人やあ!またお仕事できたらいいなあ。うんうん。ほんと良い経験したわあ。 あ、そういえばエースさんどこだろう?さっきはあの壁んとこに立ってたんだけど…。 「シャンクス!」 「おー、お疲れー」 「お疲れさまです!で、エースさん知りませんか?」 「なんだ、お前話さなかったのか?」 「え?どゆこと?」 「さっき帰ったから」 「ええええええ」 「てっきりもう話したもんだと思った」 「話してないよ!引き止めてよ!というか、エースさんにともう話したのか? くらい聞いてよ!気が利かない!」 「ひでェな…お前。なにこの差!?」 「あー…まあいいや、メールしとこ」 「無視か…」 その日、エースさんにメールをしたけど、返事は返ってこなかった。 *** 「……」 「なに、なんなの」 「…なにが」 「あんたのその暗い空気と背負ってる負のオーラ!」 「これいつものだから」 「意味わからないわよ」 「いいんだ、別に…」 お仕事の日から、エースさんと連絡が取れなくなった。というか、メールしても返事が ないから電話とかしたけど、大抵出ないし、出たら出たで忙しいって切られてしまう。 あたし、何かしたっけ?何かしたんですっけ?でもさ、わからないんですよ。カバンの 中も机の中も探してみたけど、どこにも原因がないんですよ!探しても見つからないの。 どうしたらいいんすか。あの日に何かあったんだろうとしか思えないけど、何かが起こる ヒマなんかなかったんだよ。じゃあ何!?わからない。わからないよ! 会えないのは、さみしいよ。声聞けないのはさみしいよ。笑った顔が見れないのはさみ しいよ。頭をなでてもらえないのはさみしいよ。…エースさんに、会いたいよ。 「お兄さんとなにかあったの?」 「……」 「いいから話してみなさいよ」 「…最近、エースさんに会ってない」 「それで?」 「電話もしてない。出てもすぐ切られる」 「それで?」 「メールもしてない。返事、返ってこないから」 「それで?」 「…会いたいのに、会えない。きらわれた。もうやだ」 「どうしてそうなったか、聞いたの?」 「聞くヒマも、ない」 ヘコむ。ほんとのほんとにヘコむ。きらわれたんだ。あたし、エースさんにきらわれた んだ。原因もわからずにきらわれたんだ。もう、最悪だ。ばからしくて、さみしくて、 苦しくて、悲しくて、涙が出た。それすらいやで、カーディガンの裾でぐしぐしと涙を 拭った。 「ちょっと、ルフィ!こっち来て!」 「んー?なんだー?なんかくれんのか」 「あげないわよ」 「ん?泣いてんのか?」 「…うるさい泣いてない」 「あー、今そっちに触れないで。とにかく、あんたに聞きたいことあるんだけど」 「なんだ?」 「最近エースさんどうしてる?」 「エース?んー、別に普通だぞ」 「なんかあるでしょ!機嫌悪いとか、元気ないとか、逆にめちゃくちゃ明るいとか」 「んー?あ、そういえば、最近いつも酒飲んでる」 「家で?」 「酒飲んで家に帰ってくるんだ」 「学校で何かしてるってこと?」 「合コン?ってやつらしいぞ」 「あっ!!」 「急に走ってあいつどこ行ったんだ?」 「あんたは知らなくていーの!」 合コン、だってさ。そりゃそうだよね。エースさんかっこいいもん。大学生だし。大学生 って合コンやるもんなんでしょ?そうなんでしょ?それに比べてあたしはただの高校生 で、全然子どもだし、かわいくないし、全部がだめなんだ。もう終わったんだ、この恋は。 あっけない終りでいとも簡単に、なくなっちゃうんだ。そういうもんなんだ、恋は。人生 ってやつは。いいんだ、もう。全部、どうでもいいんだ。 教室を飛び出して、気がついたら屋上にいた。フェンスに体当たりすると、柔らかい フェンスはしなった。ほんと、どうでもいい。 「…」 「なに」 「直接聞いてみれば?」 「なにが」 「エースさんに」 「もう、いいよ」 「よくないでしょ。エースさんが会わないのも、電話もメールもしないのにも絶対に理由 があるはずでしょ。それも確かめずに、あんたはあきらめられるの?」 「……」 「泣くほど好きなら、直接聞いてきなさいよ。あんたの耳で、あんたの目で」 「……」 「がいつも持ってるカメラには、エースさんとの思い出が詰まってるんでしょ? 見せてやればいいじゃない。あんたの気持ちも、思い出も」 「…ナミ」 「なに?」 「あたし、行く」 「うん」 「行って、告白してくる。ぶつかってくる」 「そうしなさい」 「…フラれたら、なぐさめてね」 「ばか」 「あははっ!…ありがとう」 「いいから、ほら!早く行きなさい!」 「行ってきます!」 まだ昼休みで、学校も終わってないけどあたしはカメラを持って走り出した。だって、 ここにはたくさんエースさんとの思い出がつまってるから。 あきらめるのは、早いよね。言わずに逃げようとするなんて、ずるいよね。ありがとう、 ナミ。ぶつかって、盛大に散って来るよ! *** カメラのメモリーを現像して、走り出す。たくさんあったので、大きな封筒に入れた。 形にしてみると、こんなにも思い出があるんだなって思った。でも、実際はこれ以上に 思い出があるんだよね。写真に出来なかった分の、思い出はまだまだたくさんある。 こんなにあるのに、なかったことになんかしたくないし、してほしくない。だから、 今のあたしができることをする。 エースさんの大学に着いて、校門前で待つ。どこにいるかわからないし、会えるかも わからない。だけど、待ってみなきゃわからない。 大学の校門前に立つ、制服姿のあたしは行き交う大学生にジロジロ見られまくった。 そんなの関係ないけど。いつもならすごく気にしたけど、今はそれどころじゃないし、 そんなの気にならない。ただ、人混みからエースさんの姿を探した。 すると、少し離れたところから、エースさんが女の子に囲まれながらこっちに歩いて くるのが見えた。女の子に囲まれてて、めちゃくちゃむかつくし、胸は痛いし、涙も 出そうだけど、ただただエースさんを見つめた。エースさんは、女の子に囲まれている のに、全然うれしそうじゃなかった。みんなかわいくて、きれいなのに。でも、女の子 はあしらうエースさんにべたべたしている。強い心をお持ちで。 あたしとの距離が3mほどになったところで、やっとエースさんは気がついた。遅いよ。 あたしに気がつくと、なんで?って顔をして、こっちに近づいてくる。女の子も。 「…、お前なんでここにいるんだ」 「エースさんにお話があって、来たんです」 「えー?なになに?この子エースの知り合いなのー?うわあ、高校生だー!」 「うるせェよ」 「冷たいなあ!そこがいいんだけどさー!」 「わかるわかるー!」 ギャラリーうぜえ。けど、別にエースさんと話せれば、あたしはなんだっていいよ。 「エースさん、どうして最近電話に出てくれないんですか?どうしてメール、返信して くれないんですか?どうして、会ってくれないんですか?」 「……」 「エースってば、高校生にも手ぇ出してるのー?いけない大人ー!」 「飽きちゃったとか?」 「ちょっと、この子に聞こえちゃうよ!」 いや、ほんとうぜえっす。聞こえてるし、すごくとても良好に。とりあえず、黙ってて くれませんか、ほんと。びっくりするぐらいうっとうしいです。 「あたし、迷惑かけましたか?あたしのこときらいになりましたか?そもそも、きらい でしたか?」 「…そんなわけねェだろ」 「どうして、笑ってくれないんですか?…お仕事があった日から、ですよね。なにか、 しましたか?なにかありましたか?教えてください。教えてほしいんです」 「……」 「エースー、まだ?」 「ちょっと飽きちゃったよね」 もう、ほんと黙ってて。次、口開いたら黙らすから。 「…あたしは、頭が良いわけでもないし、かわいいわけでもないし、スタイルがいいわけ でもない。運動神経だって人並だし、エースさんと同じ大学生でもない。まだまだ 子どもの高校生です。出来ることと言ったら、カメラしかないんです」 「……」 「でも、そんなあたしだけど、エースさんをすきな気持ちは誰にも負けてないです」 「…?」 「うわ、生告白だよ」 「しかも高校生!ていうか、エースに告白とか…ないわ」 「ちょっと、黙っててもらえますか、おねえさん」 「…うざ」 うざいのそっちだから。あたしは、あんたたちよりも、ずっとずっとエースさんのこと 見てきた。一緒にいた時間は短いかもしれないけど、それでも、あたしの方がエースさん のこと知ってるっていう自信がある。だって、あたしの方がすきだもん。エースさんの 優しい笑顔がすき。熱い手のひらがすき。子どもみたいにはしゃぐところがすき。知ら ずに守ってくれるところがすき。カメラ越しの視線が、すき。全部、だいすき。 やば、なんか、泣けてきた。 「…あたしは、エースさんがすきなんですっ!誰にも負けないですっ!だって…だって、 あたしの方がその人たちよりも知ってます!優しく笑うエースさんが、すきなんです…」 「……」 「エース、もう行こうよ」 「あなたも帰った方がいいよ、高校に?」 黙ったままのエースさんの腕を引っ張って行く、女の子たち。 それでいいの?ほんとに、何も言わずに行くの?あたしの方が思い出いっぱいあるのに! つられるように歩きだしてしまった、エースさんを呼び止める。 「エースさん!」 「まだついてくるんだけど、この子」 「エースさん!…忘れちゃったんですか?思い出たくさん、あるのに」 女の子を無視して、歩みを止めたエースさんに話しかける。 「もう、思い出したくもないですか?たのしかったことも、うれしかったことも、全部 忘れちゃうんですか?なかったことにするんですか?」 「……」 「ほら、エース!行こう!」 いい加減、なかなか話さないエースさんにイライラしてきた。あたしの話を聞いてよ。 周りなんてどうだっていい。あたしは、エースさんに言ってるの。それだけなのに! むかついて、写真のたくさん入った大きな封筒をエースさんの背中に投げつけた。写真 は、地面に散らばった。 あたしの涙もいよいよ本格的に流れる。涙で声がぶれるのもかまわず、叫んだ。 「…こんなにあるのにっ!思い出はこうやって形に残ったんです!なんでわからないの! わからず屋っ!カメラには、たくさん笑顔があるのに!カメラにおさまりきらなかった 思い出は、あたしの中にたくさんあるんですっ!…エースさんは、もう全部消しちゃった んですか?」 「ちょっと、あんたいい加減に、」 「…お前らこそ帰れ」 「え?」 「エース?何言ってんの?」 「おれはこいつと話す。お前らはさっさと帰れ」 「エース!だって今日遊ぶって…」 「うるせェ!帰れ」 「…最低!」 そのやりとりを、止まらない涙を流して見つめた。エースさんは、こちらに振り向くと なぜか泣きそうな顔で何かを言おうとする。でも、それは言葉にならなくて、気が付けば エースさんに抱きしめられていた。 「エー、ス…さん」 「…ごめんな」 「な、に…?」 「おれがつまんねェやきもち焼いて、勝手にお前と離れたんだ。は何も、悪くねェ」 「どういう、意味…ですか?」 「…おれの方がのことが好きなんだよっ!」 「…え?」 「お前がおれ以外の男に、カメラを向けることが、あの眼を向けることが気に食わな かったんだよ」 「…エース、さん」 「は、おれのもんだって勝手に思ってたのかもしれねェな…」 「そんなの、あたしだって、」 「」 「は、い」 「…仕事は仕方ねェ。でも、それ以外のは、おれに全部くれ」 「…はい!」 「勝手に逃げてごめんな」 「いいんです…!でも、」 「ん?」 「もう、合コン、行かないでください」 「…当たり前ェだろ」 ちょっと苦笑したエースさんと笑い合う。そのまま自然と、唇を寄せ合った。ここが 大学の校門前っていうのもすっかり忘れて。 カメラという名の小さな部屋で、きみに恋をした。 きっと、これからも小さな部屋でも、外へ飛び出してもきみだけに恋をする。 だから、あたしから視線を逸らさないでね? Monochrome Iris |