act.4















「あんたさ、ルフィのお兄さんと良い感じだったわね」
「はひ?」
「確かに、良い感じでしたね」
「なーに言っちゃってんの、お2人さんよ」




昼間、思いっきり海で遊んだあたしたち。夜は、自分たちでご飯を作り、宴会をした。
おそらく、宴会は毎晩あるような気がしてならない。なぜならば、この別荘にはお酒が
たくさん置いてあるからである。そりゃあもうすごい数です。まあ、ここは未成年とか、
そういう堅苦しいお話はなしで。それに、だめなおっさんが未成年のあたしたちにお酒を
すすめているんだから。世も末って話です。いや、だめおやじのしかるべき行動という
べきなのだろうか。ははは、さすがシャンクス。期待を裏切らない。ありがとう。
ではなくて、そんな宴会も終わって、夢のようなジャグジーのお風呂(2回目)でわい
わいして、今に至る。ちなみに、お風呂が2回目なのは、海から帰ってきた時、すでに
入っているからです。余談ですが。ていうか、ジャグジーすごいよ。テンションがすごい
上がった。あれがお家にあったらお風呂何時間でも入ってられるわーたぶん。
男子はまだお酒を飲むようで、自室に集まってなにやら盛り上がっている様子。女子は
部屋でまったり。そんで、なんかいろいろぐだぐだ話してたら、ナミが思い出したように
冒頭の話をふってきた。意味わからないでーす。




「ルフィとは違って大人だし、何より色気があるわよね」
「さすがモデルってだけありますよね」
「いや、別にモデルを本気でやってるわけじゃないみたいだよ」
「でもべた褒めしてたじゃない」
「それは、まあ…すごいすてきな被写体ですからねえ」
「それだけー?」
「なんですか、それだけに決まってるでしょうよ!」
「どうかしらー?ね、ビビ」
「ですね。でも、本当にお似合いだと思います」
「だから違うってばあ!」




女子っていうのはほんとこういう話に結び付けるのすきよねえ。もう困っちゃう。とか
言いながらも、あたし自身そういう話は嫌いじゃないんですけどね。でも、その標的が
自分となると話は別ってもんですわ。




「それで?本当のところはどうなのよ?」
「ほんともうそもありまっせーん」
「それにしては、はたから見てて良い感じだったんだけど?」
「気のせいだよ、気のせい」
「2人で世界作ってたのに?」
「おうふ!なんですかそれは!世界なんか作ってないよ!世界は1つだよ!」
「ふうん?」
「な、なにその目は?」
「でも、時間の問題かしらね」
「だからなにが!」




ナミは嫌になるくらい素敵な微笑みであたしを見つめるのでした。なにそれこわい。
ビビもビビで、なんでかナミの微笑みを理解し、同じように女神のような微笑みであたし
を見る。やめてください、まじで。ほんとに。誤解まっしぐらをありがとうですよ。
あたしはもう何も聞かない!聞きたくなあい!いじられたくなあい!あたしはいじる側
であって、決していじられる側ではないのだ!うおおおおお!














  ***














あれ、おかしいな。眠れないぞ。おかしいな。どうしたもんか、おかしいな。ていうか
なんであたしってば部屋で1人なんですか、おかしいな。なんで1人なのかなあああ?
説明しよう。ナミとビビがもう寝るわーってなった時、じゃああたしも寝るー!って、
ナミのベッドに潜り込もうとしたら、追い出されました。むしろ、蹴りだされました。
あれ、なんで蹴られたんだろう。おかしいな、と思ってもう1度潜り込んだら、さっき
より飛びました。なぜだ。どうしてです!?って問い詰めてみたら、部屋に帰れとのこと。
でも1人じゃ寂しいしい…というアピールで反撃に出るあたし。しかし、ナミにはこうか
がないようだ…とかどっかで見たことあるフレーズ。ちくしょう。ナミのベッドには入れ
ないと悟ったあたしは、ビビのベッドに潜り込むことにした。あたしは、確かにビビの
ベッドにもぐりこんだはずなのに、なぜかナミに蹴りだされる。解せぬ。ああ、解せぬ。
そして、もうとどめと言わんばかりにナミはあたしにこう言い放つ。




「子どもじゃないんだから自分の部屋で寝ろ」




あたしはまだまだ子供だよおおおおおおお!むしろ子どもでいたいよおおおおおおお!
ネバーランドは存在するはずなんだよおおおおお!だからあたしもこの部屋で一緒に
寝させてくださあい☆っていう反撃もまったく効果がありませぬ。もう、いいよ…。
1人寂しく寝るからいいよ…。ひどいよひどいよ。
とまあ、そんな切なくて悲しいお話でございます。こんな薄情な話があるかっていう話
ですよね、ほんと。女性陣は意外とシビアであたしはとっても悲しいです、はい。こんな
強い女性陣を相手にする男性っていうのはすごいです。心から尊敬します、たぶん。
とりあえず、眠れないのは確かなんです。昼間、あんなに海ではしゃいだっていうのに
眠くないのです。あたしってばこんなに元気な子でしたっけ?それともなにか、興奮状態
で眠れないとかそういう話?興奮ってなんですかね、興奮て。まあ、仮に興奮している
としたら、その興奮を冷まさなければなりませんな。というわけで、キッチンにて水を
拝借してきたいと思います。
















「水がおいしいです、水が」




興奮を冷まそうと水を飲んでみたけど、なんか逆に目が冴えた気がするんですけど。
そもそも興奮(仮)だしね。ああ、失敗しましたね、これ。もういいや、どうにでもなれ。
そういえば、男子はもう寝たのかな。酒を飲んでわっしょーい!って感じだったから、
まだ起きてたりするのかしら。シャンクスはずっと酒飲んでそう。そんで気が付いたら
ぐーぐー寝てそう。うわあ、見事に想像できるところが切ない。




「あはは、わかりやすい人だよねえ」
か?」
「え?」
「お前まだ起きてたのか」
「シャンクス」




噂をすればなんとやら。意外と普通なテンションのシャンクスが登場してきた。意外すぎ。
シャンクスは、あたしが座っていたソファーの隣にどかっと座った。やだ、酒臭い。




「お酒臭いんですけど」
「そりゃ、酒飲んでるからなァ」
「いや、近くに寄らないで、まじで」
「なんだよなんだよ冷てェなァ!」
「ちょ!くっつかないでくださいよ!暑い!ていうかセクハラ!」
「あはは」
「あははじゃねえええ!」




だめおやじまっしぐらなこの人を誰かどうにかしてください。ま、それでもなんだかんだ
で憎めないんですけど。でもこの酒臭さはまじでどうにかしてください。




「夏はいいなァ、夏は」
「急になんですか」
「青春だなァ」
「はあ」
も青春してんのかァ?」
「そうですねえ、友人たちと青春満喫中ですよ。シャンクスにはもう2度と味わえない
 だろう青春を」
「お前も言うようになったな…」
「まあね」




月明かりだけが差し込む部屋で、遠く聞こえる海の音を聞いていた。海が静かに鳴いてる。
うん、夏はいいね。夏の夜って、すごいすきなんだよね。空気が、すきだ。




「スキルアップできそうか?」
「うん、いい被写体ばっかだからね」
「そうか。エースもいるしな」
「ですねえ。超ラッキーですよね、あたし」
「そうだなァ。しかもすっかり手懐けてるしな」
「はい?なにを?」
「エースだよ、エース」
「別に手懐けてないです!ていうか手懐けるってどうなの、それ」
「あいつは獣だろ?だから手懐ける」
「そしたらシャンクスも立派な獣ですう」
「違いねェなァ!」
「そんな喜ばれると複雑なんだけど」
「獣同士の恋が叶うといいなァ」
「は?」
「さーてと、おれはもう寝るぞー」
「ちょ、待て待て待てえい!」
「お前も早く寝ろー」
「待てと言っているだろうがあああああ!」
「はっはっはっ!」




シャンクスへと伸ばした手もむなしく、笑い声を響かせながら去って行っただめおやじ。
恋ってなんだ、恋って。妄想ヤメロ。誰がいつ、誰に恋したっていうんだYO!
だいたい獣同士の恋ってなんだよ、獣同士って…ん?ということは、あたしとエースさん
のこと言ってたのか?あらやだ、あたしってば鈍ちん。てへぺろ。うそん。ばかなの?
そうなの?そういうこと?なんで、たしがエースさんに恋してるんですよ!意味、わから
ないです。うん、全然意味わからないです。そうです、わからないです。
とか言いつつ、なぜあたしは昼間のエースさんを思い出すのでしょうか。そんな自分が
一番わからないという話です。うわあん!
1人であわあわしていると、後ろでドアが開く音がした。またシャンクスか?帰ってくる
とは上等ですぜ。ぼっこぼこにしてやんよ!と、思いっきり後ろを振り返った。




「シャン…!」
?」
「エ、エース、さん」
「眠れないのか?」
「え、あ、はい」
「隣、いいか?」
「あ、どうぞ」




まさかのエースさん登場であたくし胸がどっきんどっきんです。噂をすればなんとやら
っていう感じなんですもん。このタイミングの良さは一体なんなのでしょうね、ほんと。




「ルフィたちはもう寝たんですか?」
「ん?あー、やっとこそ酔いつぶれて寝た」
「あはは、ずいぶん盛り上がってましたもんね」
「そっちはもう寝たのか?」
「はい。女子は美容にうるさいですから」
「大変だなァ」
「ですねえ」




他愛ない話をしているけれど、なんとなく落ち着かない。いや、落ち着いてるんだけど
落ち着かないというか。なんだかとっても複雑。良い緊張感ってやつなのか?わからん。
でも、いやじゃないかな、この空気。なんつって。




「…なんか、静かですね」
「うるせェやつらが寝たからかもな」
「はは、確かに」
「……」
「……」




なんだろう、この沈黙は。どうしたらいいのか、あたしにはわかりませんけども。
でも、なんだろう。不思議とこの場を離れたくはないというか、そんな気持ちなんだよね。
それってどうしてなんでしょう。隣にいるのがエースさんだから?エースさんのことを、
もっと知りたいとか、思っちゃってるんですか?…ナミたちに言われたからかな。変に
意識しちゃうんだけど。いや、でもナミに言われなくてもきっとあたしは…あたしは?
あたしはなんだよ、自分!





「え、あ、はい」
「お前さ…」
「は、い」




心臓が爆発しそうなくらい主張している。あたし、このまま死んだりしないよね?でも
死んじゃいそうなくらい心臓が激しく暴れている。エースさんと向き合っているだけなの
に?ただそれだけなのに?月明かりを浴びているエースさんが、なんかこう、色っぽくて、
大人の色気っちゅーかなんちゅーか。カメラ越しのエースさんを何のフィルター無しに
直視している感じ。おかげで、心臓はうるさいし、きっと顔は真っ赤だし、変な汗も
出ている。幸い、暗いおかげで顔が赤いのだけはばれてなさそうだけど。うるさい心臓
とか、だらだらの汗とかバレていやしないか、心配なんです。だから、早く何か言って!




「昼間みたいなこと、他の男の前でやらない方がいいぞ」
「…は?」
「お前は警戒心っていうのがだな」
「いや、ちょっと待って、え?」
「どうした」
「どうしたって…昼間みたいなことってなんですか?」
「……」
「エースさん?」
「…はあ」
「なぜため息?」
「自分の胸によく聞いてみろ」
「え、はい…」
「とにかく!お前はもう少し男に対して警戒心を持てよ」
「はい…?」
「じゃ、おやすみ」
「え、あ、おやすみなさい」




よくわからないことを一方的に話すと、エースさんはさっさと部屋に戻ってしまった。
誰か説明してください。昼間のことってなに!?警戒心ってなに!?いや、警戒心って
のはわかるんだけど…そうじゃないんだよ、そういう意味じゃないんだよわかるよね!?
誰に向かって同意を求めているんだろうか、あたしは。
まあ、よくわからないけど、男に対して警戒心を持てばいいってことだよね?おっけー?
それでいいんだよね?よくわからないけどそれでいいんだよね!?でも男ってたとえば
どんな人!?シャンクスとかシャンクスとかシャンクス?それとも知らない男の人かな。
まあいっか!知らない人について行ったらダメよ!っていう感じだよね?たぶん。
あーあ。なんか無駄に緊張しちゃったよ!もう寝てやる!





















 水面下 攻防