「怒ってるのか」
「怒ってないよ」
「だったら、なんでこっち向かねェんだ」
「海を見ていたいからだよ」
「なんだそれ」
「もう放っておいてよ、ばかエース」
あたしは甲板で体育座りしながら、海を見ていたいんだ。夜の闇に染まった海を見ていた
いんだ。真っ暗でよく見えないけど、見ていたいんだ。
だいたいなんであたしが怒らなきゃいけないの?あたしが怒る意味なんかありませんから。
これっぽっちも怒る理由が見つかりませんな!
別にあたしの隣の部屋のエースくんが、女の子とちゅーしている現場に居合わせてしまっ
たとしても、それは個人の問題であって、あたしは全然関係ないからね。
「怒ってんじゃねェか」
「怒ってねえですよ」
「さっき殴ったくせに」
「つい手が出ただけだよ。人の部屋の前でちゅーする方がいけないんです。迷惑なんです。
邪魔なんです」
「だから、あれはあいつが勝手に」
「別にあたしに言い訳とかしなくていいから」
どうだっていいのよ、そんなこと。あたしには一切関係ないから。何度も言うけど、関係
ないの。あたしにはなにも。なにも!
「早くどっか行ってくれる?」
「おれがいたらだめなのか」
「海にはクラゲがいるでしょう」
「は?」
「クラゲっつったら、こう、ゼラチン体質ででろんでろんじゃん」
「なに言ってんだ?」
「半透明だし向こう側見えるわけよ」
「おい、?」
「だからつまり、あたしはクラゲになりたいのよ」
「…大丈夫か?」
「うるせー!ほっとけ!意味わからないのは重々承知!そんくらいあっち行ってほしいって
意味だよ!わかれ!」
なにがクラゲだ。意味わからないにもほどがあるよ、ちゃん。だけどさ、なんか悔し
いじゃん。もし仮に、仮にだよ?仮にエースが女の子(最近入ってきた大胆な若者)とちゅー
したために、モビー・ディックのアイドル(自称)とうたわれているちゃんがやきも
ちを焼いた!なんていうデマが広がってみなさいよ!そんなことがあった日にゃあ、
もやっぱりエースがすきだったのかあ、だと思ったけどな!だよな!とかくそむかつく噂が
流れてしまうわけですよ。そんなの、あたしが黙っていると思ってるんですか?あー、大
した勘違いだ!あたしは、断じてポートガス・D・エースなんぞ、すきじゃない!
「は、おれが他の女とキスしてもいいのか?」
「すればいいじゃん。勝手にしたらいいじゃん」
「じゃ、なんでお前はそんな怒ってるんだよ」
「だから何度も言ってるでしょ。怒ってない。それに、仮に怒っていたとしても、これは
あんたが女の子とちゅーしていたことに、ではなく、今とことん邪魔をしてくることに
怒ってるの」
「やっぱ怒ってるんじゃねェか」
「あー!めんどくさい!もうほんとめんどくさい!話が堂々巡りしてるの!わかる?いい
からあんたはあたしを放っておけばいいの!」
「放っておけねェよ」
「な…に言っちゃってんのウケる」
「おれは、お前に笑っていてほしい」
「…ばかじゃないの」
「ばかでもいい。お前が笑さえすれば」
この人どうかしてるんですけど。なにおいしい空気的展開にしようとしてんの。流される
あたしだと思ったか、コノヤロー。
「ほんとに、あたしはエースなんかどうでもいいの」
「本当にそう思ってんのか」
「思ってるよ?だいたい、エースだってお年頃な上に海賊やってんだから、女の子とちゅー
の1つや2つや3つや4つや5つや6つや7つや、いくらでもしたっていいんだよ」
「なんか多くねェか?」
「ついでに、せっくすの10こや20こや30こ!そんなのいくらでもしたらいいんだよ」
「だったら」
「なによ」
「お前がその相手になれよ」
「ぶうああああっかか!なんであたしがエースの相手になるのさ!いやだよ!」
こいつ絶対おかしいっす!あたしがそんなに軽く見えるってのかい!失礼にもほどがある
ぞ、ばかエース!
「あたしはすきな人とって決めてるんですう。意外と乙女やってるんですう。エースが
ちゅーしてたような子とは違うんですう!ふんっ!」
「おれだって、そうだ」
「うそつけ!だったらなんでちゅーしてんだよ!しかも人の部屋の前で!あてつけか?
そうなのか?え?言ってみろこンのやろー!」
「おれはお前としかしたくねェよ!」
「おいおい!そこでなに意味のわからないキレ方してんのよ!」
「お前んとこに行こうとしたらあいつが襲ってきたんだよ!」
「痴女か!?痴女なのか!?とんでもねえ新人だな!」
「…だから、おれはとしか、そういうことはしたくねェ」
ピュアか!あたしもさっきそういうこと言ったけど、こういうガタイのいいやつが突然そん
なピュア発言するとか、ツッコんでくださいって言ってるようなものじゃん!
っていうか、この人あたしのことすきなの?なにそれびっくりこいたんだけど。順序おかし
い、ワロタ。
「…エースって、あたしのことすきなの?」
「あァ、好きだ」
「ああ…すきなんですかって、もっと雰囲気作りがんばれよ!」
「お前は文句が多いやつだなァ」
「そりゃ、どうもごめんなさいね!じゃあ帰るよ!」
「待て待て待て!その前にはどう思ってるのか言えよ」
立ち上がって今にも走り出しそうなところを止められた。エースの熱い手があたしの手首を
がっつりホールド。
…すきかきらいかって言ったら、別にきらいじゃないけど。まあ、うん、そうね。
「別に…きらいじゃない、けど」
「どっちだよ」
「きらいじゃないって言ってるじゃん」
「はっきりしろ」
「……」
「」
「…すきじゃなかったら」
「なに?」
「すきじゃなかったら怒ったりなんかしないよ!ばかエース!」
「あっ、おい!!」
暗くてもわかるほど真っ赤になって、あたしは全力疾走です。エースになんか負けないぜ。
で、結局エースにつかまるのだが、そのあとのあたしたちの関係については、ご想像におま
かせします。あー、はずかし!
くらげ
(これが、ツンデレってやつか)(どこでそんな言葉覚えたの、エース)(マルコが言ってた)
(…ちょっと、殴る蹴るしてくるわ)(おい、)(なにさ)(そんなの後でいいだろ)
(ちょ、なに!?)(おれとなら、キスもセックスもできるんだろ?)(!)(、ほら)
(…最低!)(バチン★)(あだっ!)(ロマンチストの乙女の気持ちが全然わかってない!ばかエース!)