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♭03








ワノ国の小さな島、イサナ島で木の実を売って同じ日々を繰り返し過ごしていたあたしは、
ついに白ひげ海賊団の一員になった。あたしにも、家族ができたのだ。
新しい家族に歓迎された日、あたしの心は満たされていた。どんなものもこれに勝るものはない。
モビー・ディックの甲板でのなれそめの後、エースに船内を案内してもらった。これからは
ここがあたしの家となるのだと思うと、不思議な気持ちがした。
船内はとても賑やかで、ずっと宴のようだった。というのは、食堂で昼間っから酒を飲んで
騒いでいる人たちがたくさんいたからというのもある。海賊ってこういうもんなのだろうか。
というか、今思ったけど、あたしも海賊になったってことなのかな。そこらへんってちょっと曖昧。
まあ海賊だろうがなんだろうが、もはやそんなのどうでもいいけど。どっちにしろ家族だから。
そんなわけで、船内をぐるぐる案内されて、正直全部は覚えられなかった。けど、頻繁に使う
だろう場所は頭に叩き込んだ。
そうそう、あたしの海賊に対するイメージとして、男所帯っていうのがあったのだが、ここは
意外とそうではないらしい。ちらほら女子も見受けられるというのもあるが、やっぱり1番の
衝撃はナースですかね。ナースだよナース。海賊船にナースって聞いたことないよ。
むしろ想像できない。いや想像できなくてもそれを目の当たりにしてんだから存在するのだ。
しかもみんな美人だし。こりゃあびっくりたまげた。ミニスカのナース服を纏ったお姉さま方が
たくさんいるんですからね。絶対ナースを巡っての争いがあると思います。
はっ!!もしや、エースもこのナースのお姉さま方と遊んじゃったりしたりするのかい。
だから、女の子を他所で買うこともしなければ、ナンパしてお持ち帰りしたりしなかったのか。
そういうことか。そうなのか。そうなんですか?まじかよ!
だったらあたしって勝ち目ないんじゃないですか。ナースを越える魅力なんてあたし持ってない。
とりあえず自分を見下ろしてみた。胸がない。あるけどない。ないようなものだ。ただの板。
いやいやそんなことないですよ。あたしだって標準クラスはありますよ。でも、ここでの標準は
あたしの遥か上をいっているというか。みんななんでそんな胸大きいの。意味わかんない。
なんだか、すでに戦意喪失って感じだぜ。ため息をつきながらエースの後ろを歩いていると、
なにかにぶつかった。まあエースにぶつかったんだけどさ。




「急に止まらないでよ」
「あーすまん、ってお前が前見て歩かないからだろ」
「あたしは常に前を向いている」
「なんだそりゃ」
「まあいいじゃん。それでここはなんなの?」
「ん?あーそうそう、ここがお前の部屋」




そう言ってエースはあたしの部屋になるらしいそこの扉を開けた。
エースに続いて中に入ってみると、意外と広かった。狭すぎず、広すぎずというか。
部屋にはベッドと、机、イス、ドレッサー、クローゼットなど、必要最低限のものがあった。
これ、個室なのかな。まあサイズ的には個室だけど、新入りのあたしが個室使っても平気なの?
なんか、恐れ多いんですけど。




「この部屋、あたしが1人で使っていいの?」
「おう」
「でもあたし新入りだよ?なんか悪くない?」
「別にいいんじゃねェか」
「そんな軽くていいのかよ!ほんとにいいの?」
「お前は心配性だなァ」
「心配性とかじゃないから!わかれよ!」
「でもここはもうお前の部屋なんだから、素直に使えよ」
「うーん…わかった。ありがたく使わせていただきます」
「おう!」




せっかく用意してもらったんだし、使ってもいいと言うのなら使わないわけにはいかない。
まあ、そのかわりにきっちり働くぜ!あれ、海賊って仕事あったっけ?




「とりあえず船ん中はこんなもんだから、あとは自由にしていいぞ」
「おおい、放置プレイかい」
「夜は宴だぞ」
「そうなんだ、って話を聞きなさいよ話を」
「それと、この部屋の右隣はおれの部屋だから、なんかあったらいつでも来いよ」
「うん、わかっ…え!?」
「じゃ、またあとでな」
「おいおいおい!話を聞きなさい!っていうか隣!?そしてあたし夜までどしたらいいの!」




パタンと扉が閉まった。無視か。スルーか。放置か。
まだここに来たばっかりだというのに、案内したらさっさとどっか行っちゃうのかよ!薄情者!
ひどいよひどいよ!エースは乙女心というものが全然わかってないね!欠片も理解してないね!
取り残されたあたしはどうしたらええのん。夜までうろうろする?いや、でもなあ。
うろうろして帰って来れなかったらどうするのさ。誰かに聞けばいつかは帰れるだろうけどね。
仕方ない。夜までおとなしくしておこう。そういえば疲れたし。休憩がてら昼寝でもするか。
疲れを意識すると、ほんとに眠くなってくるのだから不思議だ。
ベッドに寝ころび、静かに目を閉じた。布団、おひさまの匂いがする。ちゃんと干してあって
よかった…おやすみ。














  ◇◇◇














「おい、ユカリ!」
「……」
ユカリ!起きろ!」
「うー…」
ユカリ!」
「うるさいなあ…なにー?」




心地良い眠りを妨げたのはどこのおバカさんだい。ったく、人が気持ち良く寝ているっていうのに。
まだ覚めきらない頭を起こし、目を開けると近距離に見慣れた顔があった。近 距 離 だ と ?




「うわっ!!」
「やーっと起きたか」
「ちょ、え!?エース!?なに?どういうこと?ていうか近い!」
「夜は宴があるって言っただろ?早く行かないとはじまっちまうぞ」
「え、ああ、そうですね…?」




相変わらず話を聞かないエースに引っ張られ、甲板に連れて行かれた。
ていうかさ、なんで部屋入って来れたの?あれ鍵かかってなかったっけ?なにそれこわい。
と思ったけど、後で確認したら鍵はもともとついてなかった。妄想でした。
プライバシーとかそういうものは一切ないってやつですね。わかりまーす。
そんなわけで、甲板に出ると、そこには人でいっぱいになっていた。あらやだ、すごい。




「エース、これ…」
「お前のための宴だ」
「あたしの…ため」
「そうだぞ」




みんなにこにこしながらこっちを見ている。片手には酒を持って。
奥には我らのオヤジこと白ひげが座って、遅ェぞなんて言っていた。なんだか夢のようだ。




「ほらほら!これ、ユカリの分だぞ」
「みんなもう準備万端だぜ」
「主役は遅れてくるてやつかァ?」
「早く真ん中行けー」




酒を持たされ、真ん中へと押しだされた。
どうなってんだかよくわからなくて、キョロキョロしていると、オヤジがこっちを見て笑った。
かと思えば立ちあがる。それにつられてみんなも立ちだした。




「新しい家族に乾杯!!」
「乾杯!!!」




こうして宴がはじまった。
質問があちこちから飛び込んでくる。それに、1つずつ答えていった。
最初ははじめての宴に緊張してなかなかうまく喋れなかった。でも、周りのみんながあたしの
緊張をほぐそうと色々やってくれて、気がついたらあたしも笑っていた。
これが、海賊なんだなあとしみじみ思った夜。




ユカリ!お前も酒飲め!」
「え、いや、あたしお酒は…」
「ほらほら!」
「あ、はい…」




飲んだことのないお酒をすすめられた。どうしよう。お酒は飲んでも飲まれるなっていう飲み物
らしいじゃないか。はじめてなんだけど、平気なのか。
お酒の入ったコップを見つめていた。そして周りからはそんなあたしを見つめる視線。
腹をくくれ。海賊になったらお酒には強くならなきゃ。というわけで、思い切って飲んでみた。




「ん?おいしいかも」
「お!お前いけるクチだなァ!ほらほらもっと飲め!」
「ありがとうございます」
ユカリ。だいじょぶか?別に無理して飲まなくてもいいんだぞ」
「平気だよ、あたし結構飲めるみたいだから。ほら、エースも」
「おう」




どうやらあたしはお酒に強いらしい。
この後、お酒に慣れた海賊を押しのけ、期待の新人酒豪として、華々しくデビューした。














  ◇◇◇














騒いで笑って唄って。あたしが海賊の家族になったはじめての夜、はじめての宴で、今までで
1番笑ったような気がする。
海賊の一員になったのだから、楽しいことばかりではないだろう。辛いことも、悲しいことも、
苦しいことも、きっと想像以上の出来事がこの身に起こるのだと思う。
でも、あたしはそれを受け入れる。立ち直れないくらいのことがあったとしても、あたしはずっと
この家族の一員でいたいと思うのだ。ただ、それだけのこと。
宴の終わった夜は静かで、余韻があたしの頬をなでる。月明かりに照らされた甲板で、夜の海を
見ていた。これからのことを考えながら。




「やっていけそうか?」
「…え?あ、マルコ、さん」
「マルコでいいよい」




マルコさんもといマルコが隣に立ち、あたしと同じように月を見上げた。
彼はエースとも仲が良いらしく、宴の最中もよく2人で話していた。久しぶりに会ったというのも
あり、はたから見てとても楽しそうだった。




「ここは、すごく居心地が良いです」
「そうかよい」
「でも、あたしができることはあるんだろうかって思います」
「そんな気にすることじゃねェよい」
「…ですかね」
「気楽にやれ」
「はい」




そう言ってマルコは、頭をなでた。
なんでこう、優しいんだろうな。これは全部エースのおかげなのかな。エースがみんなに会わせて
くれたんだもんね。
ありがとう、エース。直接言ったら、急になんだよって言われそうだから、今は心の中で言う。
でもいつか、ちゃんとお礼を言わせてほしい。この先の新しい日々の中で。
ちなみに、この時エースはお酒の飲み過ぎにより、自室でダウンしていた。情けなし。