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が喧嘩するようにお互いの唇を奪い合った。
すべてを飲み込むように、すべてを奪い去るように、すべてを手に入れるように。
髪を引っ張ってやった。レイヴンの髪を結んでいる紐を爪でひっかいて解いた。
硬そうに見えて柔らかい髪が顔にかかる。
止まないキスの嵐の途中でふふっと笑いがこぼれる。
レイヴンの髪が頬をなでてくすぐったい。




「…なーに笑ってるの?」
「髪がくすぐったい」
「ああ、ごめんね」
「いいよ。髪おろしてるレイヴンもすきだから」
「そ?」
「うん」




会話を挟んでまた唇を奪い合う。
足りない。足りないよ。ぜんぶ欲しい欲しい欲しい。ちょーだい、ぜんぶ。
心も体も魂もぜんぶ欲しいよ。
夜明けが来るまでずっとあたしだけを見てよ。あたしだけを見ていてよ。
毎晩暗い部屋で唇を貪る。いつも激しいぶつかり合いみたいになってる。
それくらいすきなの。あいしてるの。でも足りないの。
あなたがあたしのものになるのは夜だけだから。
だから夜は朝と昼の分だけ貪る。欲しがる。奪う。
あたしがいけないの?あたしがぜんぶ悪いの?あたしが他の男といるから?
でも違うよね。だってあなたもあたし以外の女といる。
お互いがお互いのものになれたらいいのに、できない。なんでだろうか。
でもね、あたしがレイヴンのものになるとかレイヴンがあたしのものになるとか、
そういうんじゃない。
レイヴンとはずっと同じなの。同じ魂を共有しているの。
どんなに離れてても結局魅かれあう。
朝と昼に違う人といても、心は、魂はずっと一緒にいるの。そうでしょ?
だから、あなたもあたしを欲しがる。





























「レイヴンは?」
「さあ?まーた遊びに行ってんじゃねえのか、あのおっさんは」
「ふうん」
「…お前、まだあのおっさんと夜会ってるのか」
「そうだよ」
「いい加減やめろよ」
「なんで?」
「お前の男がそろそろ殺しにくるんじゃないのか?」
「そうかもね」
「おいおい」
「いいよ、殺しにきても。あたしとレイヴンを離すんだったら舌を噛み切ってやるから」
「おーこわ」
「まあね」
「まじで気をつけろよ。お前の男、ギルドの中でもやばいって噂らしいじゃねえか」
「よく知ってるね、ユーリ」
「なんでお前はそんなのんきでいられるんだか」
「舌を噛み切る自信があるからだよ」
「どんな自信だよ」




あたしの男と言われているやつは、ギルドの中でも噂になるほど実に野蛮なやつだ。
そいつに対して、もちろん愛とか恋とかそういうのは微塵もない。
だけど、その男はあたしが1番だし、あたしもそいつが1番だと思っているらしい。
なんという迷惑な勘違い。あたしの中に1番とかそういうものはないのに。
だって、レイヴンしかいないんだもん。レイヴンしかいないのに1番とか順番つける
こと自体間違っている。くだらないよ、そんなもの。
そろそろその男もストレスが溜まっているらしい。どうでもいい。
あ、でも、もしあたしとレイヴンを離そうとするなら殺してやるから。
舌を噛み切って殺してやる。そしたら、もうやめる。他の男といるのなんて、やめる。





























その時が来るのは意外と早かった。愚かな男だよ。
でも潮時だったのかも。そろそろレイヴンの元に帰れってことだったのかも。





「なに」
「いい加減あいつのとこ行くのやめろ」
「どうして」
「お前がオレの女だからだよ」
「それとこれは関係ないよ」
「関係あんだろ!お前にはオレしかいねーだろ!」
「違うよ。あんたにはあたししかいないかもしれないけど、あたしにはレイヴンがいるよ」
「うるせえ!いい加減にしねえと、殺すぞ」
「殺せるの?あんたにあたしが殺せるの?あたしより弱いくせに」
「このアマっ…!」
「最後にキス、しようか」
「何言ってんだよ!てめー頭おかしいのか!」




ごちゃごちゃ言う男の頭を掴んでキスしてやった。男は目を見開いてあたしの目を見ていた。
あたしも目なんか閉じないで男の目を見つめた。
そして、舌を噛み切る。男の舌を根っこから噛み切ってやった。
血が顔にかかった。汚い血だね。今まであんたが殺してきた人はあんたなんかよりも、きっと
きれいな血をしていただろう。
男は残った舌が喉に引っかかっていて苦しいのか、ひゅーひゅーと音を鳴らしてもがいていた。
必死にあたしに手を伸ばす。手はあたしの腕を掴む。男の爪があたしの腕に食い込んだ。
それをただ見つめていた。そして口に残っていた男の舌を吐き出した。




「あたしはあんたのことすきじゃなかったよ。でもきらいでもない。興味がなかっただけ」
「……っ」
「もう声出ない?苦しい?あんたが殺してきた人たちもきっと苦しかったよね。さよなら」
「…がっ!」




あたしに縋る手を振り払い部屋を出た。これで、帰れるんだ。
部屋を飛び出し、外へ出ると、夕方とはいえまだ人の顔を判別できる明るさだ。
街の人は男の血が顔に飛び散っているあたしを見て、ひっと言う声を出す人多数。
そんなの関係ないし、どうでもいい。さあ、レイヴンのところに行こう。






























トントン。レイヴンがいる部屋をノックする。返事はない。でも気配はある。
もしかしてお取り込み中かしら?どうしようかな。
ドアノブをとりあえず回したら開いた。鍵をかけないとは物騒。
ドアを開けると中から艶のある声一つ。やっぱり女の人と最中らしい。どうしましょ。
とか言いながら結局部屋の中にずかずか入りこんだ。
部屋の真ん中にあるベッドでは男と女があはんうふん言っていた。ナイスタイミング?
構わず声をかける女、あたしはとっても空気が読めないね。




「レイヴン」
「きゃっ!なんなのあんた!」
ちゃん?」
「うん、ごめんね邪魔して」
「だいじょぶよ」
「レイヴン!誰なのこの女…ってきゃあ!血…!」





レイヴンと知らない女。女は最中にずかずか入ってきたあたしに怒る。当然だ。
それから顔にかかった乾いた血を見て声をあげる。これも当然の反応。
おかしいのは、あたしとレイヴン。
勝手に部屋に入って、せっくすの邪魔をした上に顔に血を張り付けたあたし。
せっくすを邪魔されたのに平然と会話に応じるレイヴン。
知らない女だけがBGMのように喚き立てる。
でもあたしにはレイヴンしか見えてない。世界にいるのはあたしとレイヴンだけなの。




「噛み切ったの、あいつの舌」
「だから顔が汚れちゃってるのね。おいで」




レイヴンに呼ばれて近くに寄ると、シーツで顔を拭いてくれた。




「もう一緒になろうか」
「うん、もう離れるのは疲れたよ」
「そうよね、顔を汚してまで帰ってきてくれたんだものね」
「ねえ、もう朝も昼も夜もずっと一緒にいられるよ。ユーリももう怒らないね」
「別の意味で怒りそうだけどね」
「でもいいよ。怒られたっていいよ」
「俺もちゃんと一緒に怒られるならいいや」




やっと帰ってこれた。もうずっと離れないから。ただいまレイヴン。
あたしをやさしく抱きしめてくれるレイヴン。
また夜がはじまるよ。獣の夜がはじまるよ。ほら、夜が呼んでる。




「ちょっと!あんた達いい加減にしないさいよ!誰なのこの女!ねえ、レイヴン!」
「まだいたの、この人」
「ああ、ごめんね。もう帰ってくれる?それからもう会えないから」
「は!?最低!!…あんた達狂ってるわよ!」
「あは、そうかもねレイヴン?」
「うん」




女は自分の服をかき集めて出て行った。
狂ってる。そんなことわかってるよ。でもいいんだよ。それで、いいの。




「レイヴンあいしてる」
「俺も、あいしてる」




そうしてまたお互いの唇を獣のように貪る。
今日は、ちょうどベッドがあるよ。一緒に倒れて愛を紡ごう。






















世界一 ぴゅあ な獣たち