「あーっ!あんたあの時のナンパしてきたおっさん!」
「ナンパって!あれはナンパとかじゃなくて、」
「「「……」」」
「ちょっとーっ!そんな目でおっさんを見ないで!」
「いい歳したおっさんが20そこらの娘をナンパって大丈夫か?」
「だめだと思う」
「わたしもそれはどうかと思います」
「ていうか胡散臭いし。燃やしとく?」
「あたしだってナンパされるなら若いお兄さんのがいいわーユーリのがいーわー」
「ひどい!」
半透明
7
デイズ
−2日目−
夢を見た。ユーリたちと行動するようになってから、初めてレイヴンに会った時の夢を。
なんかみんなに会うのも久しぶりだとか思ったけど、実質1日しか経ってない。環境が変われば
そうなるもんなんですかね。ああ、ホームシックです、まさに。みんなに会いたいなあ。みんな
元気かなあ。ていうか、レイヴンって何度会ってもああいう感じなのね。夢で実感するってどう
なんだ。そして、昨日と変わらずあたしは透けている。ガッデム。
「おはよう、シュヴァーン」
「おはよう」
部屋を出て、顔を洗いリビングへ行く。そこには、すでに支度を終えたシュヴァーンが、朝
ごはんを用意していた。良い主夫になれますよ、ほんと。いやー、何度も言うけど幽霊なのに
お腹空くとか、あたしはどんだけ図太い身体をしているんだ!と思わずにはいられません。
でもまあ、いただきますけどね!
「うわあ、おいしそう!食べていいの?」
「ああ」
「やたー!いただきます!」
おいしい!やっぱり良い腕をお持ちなこって!ほんとおいしいね!まあ生身で食べることが
できないということが悔やまれますけどね。でも、幽霊でこんなおいしいごはん食べれるって
すごいよね。あ、幽霊だから太ったりしないよね?まさかね!だってねえ。いや、でもごはん
食べれるんだからやっぱり増えるのか?まじか。それやばくないか。やばいんじゃないのか?
もしも、幽霊の状態から生きてる状態に戻った時このごはん分、体重増えますけど何か?的な
法則があったらどうしよう。それはやばい。別人じゃね?ってなったらどうしよう^q^げふ
とか、考えても生き返るなんて無理だろ。こんな透けてるんだからね!もう知らない!めんど
くさいから考えるのやめた!あ、おかわりください。
◇◇◇
今日こそは仕事の手伝いするんだぜ!と、ちょっと意気込みながらやってきました騎士団本部!
相も変わらず立派な門構え★まあ、この帝都自体大きいですもんね、そこらの街に比べたら。
ああ、憧れの帝都よ!ってかおい。あたしも初めてここに来た時は驚いたけどね。まさに大都市!
全世界からの注目も浴びるわけよね。なんてったってあの結界魔導器がすごいもんねえ。
そんじょそこらの衝撃じゃあ壊れることはないだろう。ま、壊れたらダメなんですけどね!
とりあえず、昨日と同じくシュヴァーンの執務室へと来た。そして、シュヴァーンは真っ直ぐ
机に向かったので、あたしもシュヴァーンの後についていく。
「なんでも手伝うから任せて!」
「ああ。この書類、全部サインはしてあるから判を押しといてくれ」
「了解!任せてーって多いな!この書類とか言うから5p分くらいの量かと思っちゃったよ!
なにこれ!なんの辞書ですか?モンスター図鑑ですか?それともアイテム図鑑?」
「何でもやるんだろう?」
「わかってるよ!ちょっと感想言っただけでしょ」
「じゃあ頼んだ」
「…はいはーい」
昨日は全然仕事やらせる気ゼロだったくせに!何だこれは。やらせるとなったら容赦ねえな。
頼まれたからにはやりますけどね!別にはんこ押すくらいちょちょいのちょいだし。こんなん
30分で、いや1時間くらいで終わらせてくれるわ!見てろシュヴァーン・オルトレインめ!
と言ってみる。
◇◇◇
はんこを押し続けて早2時間。あれ、おかしいな。もう終わってるはずなんだけどな。たい
して減ってない気がするな。なんでかな。なんでだろうな。あ、そうか。減らしても減らし
てもシュヴァーンが新しい書類を追加していくからだあ☆なるほど!そりゃあ減らないよね!
ひゃっふー!プラマイゼロ!というかプラスのが多い!
あれ、ちょっと手が震えてない?心なしか視界がぼやけるんだぜ…別にいいんですけどね!
ナメてたあたし悪いんですからね!はんこくらいって思ってたからいけないんだけどね!
もういいんだけどね!ははは、と乾いた笑いがもれた。「手が止まってるぞ」すいませんんん!
ちくしょおおおおおおおおお!!!
トントントン
お?なんだ?誰かがノックしたと思ったら聞き覚えのある声がした。シュヴァーンが「入れ」と
言うと、誰かが入ってきた。あらまー、あれは、何だっけ?誰だっけ?あのーあれだあれ!
ルブランだ!そうそう、ルブランだ!最初の頃はよくユーリが追いかけられてたもんなあ。
懐かしい。でも、ルブランもなんだかんだで結構ユーリのこと気に入ってたみたいだもんねえ。
とか今はそんなことどうでもいいか。ていうか、ルブランってばちょっと若くなあい?そりゃ
そうか。でも、基本変わってないっちゃあ変わってないね。ぷぷぷ!あの髭とか。ぶふーっ!
どうせあたしの姿は彼には見えないのだがちょっと気をつかって声を抑えた。あ、この場合って
書類とかもいじらない方がいいよね。書類が浮いて見えちゃうだろうし。そしたらただの心霊
現象だ。ちょっとびびらせてもいいけど、そんなことしたらシュヴァーンにどやされそうですう。
ここは大人しくしていることにしよう。
「報告です!例の件ですが、アレクセイ騎士団長閣下より、近いうちに視察に向かえ、との
ことです!」
「…そうか、報告御苦労。下がっていいぞ」
「はっ!失礼致します!」
カチャカチャと甲冑の音を響かせながら、ルブランは部屋を出て行った。
仕方ないことだけど、あたしが聞いちゃっても大丈夫なのかね、こういう話は。どうせ死んでる
から誰かに告げ口、とかも出来ないから関係ないか。
それにしても例の件ってなんだろう。アレクセイが絡んでるとあんまり良い予感はしないけどね。
シュヴァーンは利用されていたっていうか、いや、違うか。利用とかじゃなくて、ただアレクセイ
の命令に従っていただけだ。んー、でもちょっと気になるなあ。ま、その任務の時はシュヴァーン
もなんか言ってくるだろう。連れて行く、行かないにしても。
よーし!とりあえずこのモンスター図鑑のような書類を片付けるとするか。てか片付くのか、これ。
◇◇◇
それからひたすら無心ではんこを押し続けた。同じような書類を見続けて、はんこをひたすら
押してると、軽くゲシュタルト崩壊起きるわ。というか起きた。
あれ、これなんですか。はんこってなんですか。書類ってなんですか。押すってなんですか。
あぶねーあぶねー!おそるべしゲシュタルト崩壊★にしても、疲れたわー。同じ作業を繰り
返すのって疲れるよね。んんーっ!伸びって気持ちいいね!あたし透けてるけど!でも筋肉
凝ってるって感じ。あたし透けてるけどね!大事なことだから2回言いました。シュヴァーンの
方を見ると、黙々と作業をしていた。あたしより大変なのにこれまた真面目なやつだ。うーん、
コーヒーでも差し入れしようかしら。でも怒られるかな?一応聞いてみよう。
「シュヴァーン」
「何だ?」
「コーヒーかなんか淹れようか?さすがにちょっと休憩した方がいいんじゃない?」
「ああ、じゃあ頼む」
「おっけー」
意外と素直だな。やっぱり疲れてるんだろうか。疲れた時には甘いモノ!でも、甘いモノは
ダメなんだよね。もったいないなあ。人生の半分は損してるね。あー、ユーリのクレープが
食べたい!こいつと一緒にいると甘いモノに辿りつけない気がしてならないんだよね。別に
いいけどさあ。幽霊のくせにそんな甘いモノねだるとか普通におかしいもんね。あーあー。
コーヒーを淹れ、シュヴァーンの机に運ぶ。シュヴァーンもさすがに疲れたらしく、目頭を
押さえ、目を閉じていた。ここに置いとくよ、と一言声をかける。ああ、と目頭を押さえた
まま返事を返される。そんなに疲れてんのか。なんとなくシュヴァーンの顔を覗いてみる。
おお、こんな間近で顔を見るのは初めてだ。やっぱりレイヴンよりは若いね。今のレイヴンは
おっさんだけど、このシュヴァーンはまだ20代?じゃああたしと5、6歳違うくらいかな?
ふうん。こんな感じなんだなあ。年近いってなるとまたちょっと違うよね。というか、ユーリは
女顔のフェロモンだだ漏れお兄さん☆だけど、シュヴァーンはイケメンというか格好良い大人な
お兄さんって感じだなあ。身近で見ると普通に格好良いもん。今は目を閉じているけど、綺麗な
色の瞳をしてるんだよね。碧色っていうの?青っていうか緑っていうか。ぱち。
そうそう、ちょうどこんな色…ぱち?
「「……」」
うおおおおおおおい!!いきなり目を開けるなよ!!いや、まあじっと覗きこんでたあたしが
悪いんだけどさ。いやいや!でも気づけよな!シュヴァーン隊長よ!
とりあえず、完全に目をそらすタイミングを失ったあたしはどうすればいいんですかね。
向こうも向こうでタイミングを失ったのか目をそらさない。やばいって。なんかやばいって!
変な汗かいてきた!でも、綺麗な色だなあ、ほんと。うらやましい。あ、今発見した。瞳って
よく見ると虹彩の部分が惑星の表面みたいな感じ。そう思うのはあたしだけかな。よく見ると
そんな感じするんだけどなあ。でもシュヴァーンの瞳の色だと海って感じかも。すごい綺麗な
海の色。海中までよく見える、澄んだ海。うん、そんな感じ。
「きれい」
あれ、今、目をちょっと見開いた?ああ、さっきよりよく見えて綺麗だな。あたしはこげ茶
だから自分で見てもおもしろくないんだよね。いいなあ、うらやましいなあ。あたしもこんな
色だったらいいのに。まあ仕方ないんだけど。うーん、ないものねだりってやつかな。あー、
でもほんと飽きないね。ずっと見ていたい。「おい」あー、いっそ真っ黒とかがよかったわ。
「おい」潔く真っ黒!そっちのが断然よかっ「おい!」た。ん?
「おい!いつまで人の顔を見ているつもりだ」
「え?あ!おうふ!ごごごごめんんんん!!」
「…いいから離れろ」
「ごめんごめんご!なんかさ、シュヴァーンの瞳きれいだなあって思ってたらシュヴァーンの
瞳だってこと忘れててさ。いやーまいったまいった!」
「……」
「何?怒ってんの?別にいいじゃん!減るもんでもなし!ねーねーってば…お?」
「……」
「あ、もしかして、照れてんの?照れてんでしょ!あはは!シュヴァーンが照れるとかレア!
いいもん見れた!うふふ!」
「照れてない」
「照れてんじゃん!耳赤いよ?」
「赤くない。照れてない」
「うそつけー!耳動いてるよ!シュヴァーンはうそつくと耳動くっていうの知ってるんだからねー」
「動いてない、照れてない、赤くない」
「ねえ、かわいいとこあるじゃーん!」
「うるさい」
「あたしはそっちのが断然良いと思うけどなあ。すごく、人間らしくてさ」
「……」
シュヴァーンから離れ、ソファーに座る。淹れたコーヒーに角砂糖を1つ入れ、一口。うん、
なかなかうまく淹れられた。ソファーの背もたれに首を預け、天井を見つめながら口を開く。
「シュヴァーンはさー真面目もいいけどー、たまには息抜きしていいんじゃなあい?自分で
は意識してなくってもさ、疲れちゃうよー?いっつも仕事ばっかりとか、毎日同じことを
繰り返してるとさあ、何にも楽しくないよー!たまにはさ!…笑ったり、怒ったり、泣い
たりすればいいんだよ。くだらないことでも笑ってみたりする!それだけで、少し変わる
んだよ。普通の毎日だって、変わるんだよ」
「余計な、お世話だ」
「ま、そう言うと思ったけどね!でもさ、あたしはもっといろんなシュヴァーンを見たいよ。
あたしはもう死んじゃってるけどさ、それでもまだここにいられるなら、シュヴァーンの
こと知りたいよ」
「……」
「ここに留まる理由が何かしらあるなら、あたしはきっとシュヴァーンと仲良くなることだ
と思うんだけどなあ」
「…何で、そんなに俺に構う?」
「だってシュヴァーンとしか話せないじゃん」
「……」
「というのは、じょーだん!あたしさ、すきなひとがいるんだ」
「……」
「シュヴァーンに、似てる。けど、似てない」
「どっちだ」
「うーん、どっちだろう?似てる部分はさ、真面目なところ、海のような瞳、おいしいごはん!」
「…何だそれは」
「似てない部分は、ユーモアが皆無なところ!表情が乏しいところ!…生きようとする、意志」
「…全然、似てないな」
「そうかな?あたしは結構似てると思うけどなあ。というかさ、普通にあたしはシュヴァーン
のいろんな顔が見たい。だから、笑って、怒って、泣いたりしてよ。泣くのはあれだけど。
あたしは、もっと知りたいよ」
「そんなものは、ない」
「あるよ。ないわけない。まあ、いいや!どうせ自分からはできないみたいだから、あたしが
引き出してしんぜよう!覚悟しとけー」
「覚悟、か」
「そうそう!というわけで、続きやろうかなあっと」
「…ああ」
なんで、こんな話したんだろう?と、書類にはんこを叩きつけながら自問自答。シュヴァーンと
レイヴンは同じであって違うのに。それでも、シュヴァーンにもレイヴンのように生きてほしい
って思った。こんなのおかしいってわかってるけど。同一人物にもう一人の自分のようになって、
だなんてさ。おかしいよね。おかしいけど、言わずにはいられなかった。言わなきゃって思った。
だって、いいとこたくさんあるのに、死んだままなんておかしいよ。…もったいないよ、ずるい
よ、生きてるのに。どんな形であれ、生きてるのに。望んでない生かもしれない、それでも、
生きてることには変わりない。いろんなものを見ることができるし、いろんなものを聞くことも
できる。いろんなものを感じることだってできるし、人とふれあうこともできる。
あたしだって、生きてたら、シュヴァーンにもっと。もっと!いろんなものを、与えられるのに。
でも死んじゃってるから、できない。だから、生きてほしいんだよ。ちゃんと、生きてほしい
んだよ。せめて、そばにいられる時間だけ、見せてほしいんだよ。
◇◇◇
その後もお互いなんとなく気まずい雰囲気の中、自分の仕事を続けた。シュヴァーンの方を
何度か見ると、なにかを考えるように手が止まることがあった。それを見てなにか言おうと
思うんだけど、なにも言えなかった。なにも、言葉が思いつかなかった。ただ口を何度も
開いては口を噤んだ。
空が茜色に染まりだした頃、シュヴァーンに、そろそろ帰るぞ、と声をかけられる。うん、と
しか言えずに書類を片付け、彼の後についていく。
家までの道のりはただぼんやり歩いていた。空に浮かぶ結界魔導器の光の輪を見つめながら
ただ歩いていた。2人の間には、静かな沈黙しかなかった。
◇◇◇
「今日はあたしが作るよ、ごはん」
「いや、お前は座っていろ」
「いいから作らせてー!あたし、なかなかの腕前なんだぜい。まあまあ!期待して待っててよ」
「壊すなよ」
「壊すかよ!何を壊すんだよ!むしろ壊し方を教えてくれよ!」
なんとなく気まずかったけど、思い切ってここはあたしが勇気を振りしぼってみました!
というわけで、夕食を作ることになりました。まあ、料理をするのは嫌いじゃないというか好き
なので、こいつをうならせるごはんでもちょちょいのちょい!と作ってみたいと思います。
任せておくんなまし!ひゃっほう!
「どうよ、これ!最高の出来なんですけど大丈夫ですか?逆にこんなおいしく出来て大丈夫
ですか?と言ってしまうほどの出来ですよシュヴァーンさん!というわけで召し上がれ!
あたしの渾身の料理!その名もサバみそだーい☆」
「いただきます」
「おうおう、食べなはれ!あんた食べなはれ!」
「……」
「どうですか、お兄さん」
「…い」
「は?」
「…美味い」
「はい!美味いはいりましたー!」
「うるさい」
「あはは、でもおいしいでしょ?あたしもこれは最高だと思う!いやー、これで安心して
お嫁にいけちゃうよね!あ、もうあたし死んでるから無理だった!ずーん」
「自分で言ってへこむな。でもまあ、確かに美味い」
「でしょでしょ!うん、ほめられたから良しとしようかね!あたしも食べよーっと!
あ、おいしい。おいしい!これほんとおいしい!ねね、おいしいよね?おいしいいいい!」
「うるさい」
料理ってすげえ。なんか気まずいのどっかいった。もう帰ってくんなよ!気まずい空気よ!
いやーうん、気に入ってもらえてよかった。心なしか良い顔してたもんね。うふふ。
やっぱり自然に出る表情ってのはいいもんだ!
◇◇◇
ごはんを食べ終わってから、お風呂に入って、寝る支度をして、リビングに行くとシュヴァーンが
また書類とにらめっこ。家に仕事を持ちこむんじゃないわよ!あらやだ、あたしってば、奥さん
みたい!きゃっふー!
まあ、こういう真面目さがシュヴァーンの良いとこなのかもねえ。でも、無理するのはよくない
ですう!何事もほどほどにですわよちくしょうこのやろう。
「シュヴァーン。仕事もいいけどさ、ちゃんと休める時に休まないとだめだよ!というわけで、
あたしは寝るぞ!おやすみ」
「ああ、わかってる。おやすみ」
シュヴァーンに背を向けて自分の部屋に向かう。が、ここであたしを止める声がした。
「」
途端にフラッシュバック。とろけそうな笑顔であたしの名前を呼ぶ、彼の顔が浮かんだ。
「…え?」
「今日の夕食、美味かった。また頼む」
「え、ああ、うん!わかった、」
「呼びとめて悪かった、おやすみ」
「おやす、み」
バタン
部屋に入って扉に背をあずけながらずるずると座り込む。
なに、今の。なにがあった。名前、呼んだ?ちょ、ええ、名前かよ。おいいいい!レイヴンは
いっつもちゃんづけで呼んで、呼び捨てとかさ。いや、レイヴンとシュヴァーンは違うんだけどさ。
だからかな、一瞬、レイヴンの顔が浮かんだのは。同じ人だから、どうしてもかぶってしまう
のかしら。って、いやいや!とりあえず、ふいうちはだめだって!やばいって!絶対今顔赤い!
ていうか熱いから!顔めっちゃ熱いから!
…ほんと、なんなの、急に。名前とか呼んだことなかったのに!いきなり呼び捨てかよおお!
でも、許す。しかも、ちょっと笑った。ほんとにちょっとだからよく見ないとわかんないけど、
笑った。絶対笑った!だって、あたしいつもシュヴァーンの真顔しか見てないから、ちょっとした
変化ならわかるよ。反則でしょ、呼び捨てに、ちょっとした笑顔とか。
あ、どうしよう、恥ずかしい。胸、苦しい。
あたしはこの日、2度目の恋に落ちた。