それで、あたしはなんでここにいるんだろうな。
意味わからんことばっかりであたしの頭がパーンってなりそうなことは確実です。
とりあえずみんな元気にしていますか。あたしは透けてるけど元気です。














   半透明 デイズ




              −1日目−












レイヴンを変な人にしないためにも、あたしは市民街へと降り、人が来なさそうな路地へと
入る。もちろん、レイヴンを引っ張って。これも他の人から見たら、レイヴンが片腕を伸ば
して変な走り方してるから、さぞかしおもしろいんだろうなあ、とか思ったあたし。




「さて、レイヴン。あたしのことわかる?」
「お前のことは知らない。それと、レイヴンという名前ではない」
「なるほど。知らない、見たことないときましたか…この薄情者!だいたいなんでそんな格好
 してんのよ!ばかか!それに何?その口調。真面目ぶってんなよ!言っておくけど、全っ然
 似合わないからね。それから、ユーリたちは?なんでここにいるの?ケーブ・モック大森林
 にいたはずじゃん。あ、記憶喪失とかなしだからね」
「…すまないが、言っている意味がわからない。何度も言うがお前のことは知らない。それに、
 この格好は騎士だからだ。真面目ぶってるつもりもないし、ユーリとかいうやつも知らない。
 当然、見回りをしていたからずっとここにいた。あと、記憶喪失でもない」
「は?こっちこそ意味わからんから。…でも、なんかおかしいよね」
「おかしいのはお前の頭なんじゃないか?」
「うるさい。おっさんは黙ってて。まず、おかしいのはレイヴンでしょ?それにここだって
 おかしい。ザーフィアスはエアルの暴走で、魔物や巨大化した植物によってボロボロになっ
 てたはず。こんなすぐに修復できるわけないもん。どういうこと?」
「本当に何を言っているんだ?エアルの暴走?そんなことは今まで一度もない」
「じゃあ何?実はここは過去の世界です、とか?んな非現実的なことがあるかっての。
 いやでも、そう考えられなくもない、か?いやいや!だけどおかしいでしょ。…あ、あのさ」
「…今度は何だ?」
「人魔戦争、から…何年経った?」
「…2年だ」
「2年、か。まだ2年、しか経ってないんだ」




はい、確定しました!ここは過去です、過去。過去形はedをつけましょうの過去です。
まじすか。なんでだ。どうして幽霊になったら過去に行くの?意味わっかんねー★じゃあ、
あたしってば成仏できずに現世をうろついているってこと?でもだったら何で過去なんだろうか。
しかもあたしのことが見えるのはレイヴンしかいない。その上、レイヴンはレイヴンではなくて、
シュヴァーンだし。めんどくせええええ!
でも、ここで頼れるのはこのおっさんしかいないし。にしても、今とは随分違うもんだね。
あんな能天気なおっさんからはかけ離れすぎてさ。例えていうなら、能天気ではない真面目な
部分だけしかないおっさんみたいになってるね。まあ人魔戦争からまだ2年じゃあ、ね。
レイヴンが生き返ってから、まだ2年ってことだもんね。それならこの死んだ魚の目も頷け
ますな。うおお、やりづらいなあ、色々。




「あのさ、とりあえずレイヴン…じゃなくてシュヴァーンのお力を借りたいんですけど、
 いいですかね?」
「どういうことだ?」
「要は、ここで頼れるのはシュヴァーンしかいないから、シュヴァーンのところに転がり
 こみたいっていうころです。あ、あたしって言うのでそこんとこよろしく」
「断る」
「即答キタコレ。ひどい!この世界中で頼れる人はシュヴァーンしかいないんだから助け
 てよ!あたしって結構役に立つよ!生きてる人は触れないみたいだけど、物には触れる
 から、こっそり任務とか手伝えると思うんだよね!なぜなら!なんて素敵なことにマイ
 大太刀がここにあるからです!だから、魔物退治とか任せて!物置とかでもいいから、
 あたしを置いてください!お願いします!」
「……」
「だめ?」
「…家族はいないのか?」
「え?」
「家族のところに行けばいいんじゃないのか?」
「無理、だよ。みんな死んじゃったもん。両親は魔物に殺されたし、弟も、人魔戦争に巻き
 込まれて死んじゃった」
「そう、か」
「……」
「……」
「やっぱりいいや!よく考えたら幽霊だし、別に外でも平気だもんね!引きとめて変なこと
 言ってごめんなさい。それじゃ」
「…待て」
「何?」
「面倒を起こさないと約束するなら、俺のとこに来い」
「…いいの?」
「約束出来るのか?」
「うん、うん!できる!ありがとうレイヴン!じゃなかったシュヴァーン!さん!」
「散々呼び捨てにしてるんだ、シュヴァーンでいい」
「あ、ごめんごめん。じゃあ、あらためてよろしく、シュヴァーン!」
「…ああ」




押してだめなら引いてみろ。うん、良い言葉だ。なんかやっぱりレイヴンに慣れてるから、
シュヴァーンだとなかなか変な感じする。でもまあ仕方ないよね。
そういえば、過去ってだけあって、顔もちょっと若い。目は死んでるけど。まだ人魔戦争から
2年しか経ってないんだから当たり前か。この時のレイヴンはまだ死んでるんだもんね。
ずっと死んだまま生きてるんだから。…まだ、キャナリさんのことすきなのかな。2年しか
経ってないし、まだすきなんだろうなあ。こんな時にこんなこと思うのは不謹慎だけど、
あたしの知らないレイヴンを見ることができて嬉しい。あ、でもあたし死んでるんだった。
そしたらレイヴンのことせっかく知ることができるのに、もう、会えないのか。…悲しいなあ。














◇◇◇












ついてこいと言われ、おとなしくついて行くと、あまり目立たない場所にある家に案内
された。どうやらレイヴンはここに住んでいるらしい。なんか隠れ家っぽいな。
家の中は殺風景だった。最低限の物しかなく、生活感ゼロだ。ここに住んでいるというか、
たぶん眠るために帰ってくるだけの場所って言う感じがする。実は、女の人とか連れ込んで
たりしてるかもね!でもあたしがいる時連れ込んだりしたら、あたしすんごい居たたまれ
ないよね。うわあ、そういうことにならないことを切実に願うばかりだ。




「この部屋を好きに使っていい」




案内された部屋はこれまた殺風景な部屋。まあ全体が隠れ家っぽいのに、部屋は生活感にあ
ふれてます★ってなってても、ちょっと引いちゃうけどさ。でも幽霊のあたしが部屋もらっ
ていいのかな。




「ほんとにいいの?あたし、別に物置とかでも全然大丈夫だよ」
「たまたま部屋が余っていただけだ。それに、幽霊でも一応女性だからな」
「一応ってなによ」
「いや、別に」
「(コノヤロー)」
「何か必要なものがあるなら用意するから言ってくれ」
「うん、大丈夫」
「そうか。じゃあ、俺は仕事があるから騎士団本部に戻る」
「え、ああそっか。…あのさ、あたしも行っちゃだめ?ここにいてもすることないし、さ。
 なんだったら仕事も手伝うよ!どうせデスクワークとかでしょ?知らないけど、今適当に
 言ったけど」
「一般人、いや幽霊?のお前に頼む仕事はない。大人しくここで待っていろ」
「えええ、一般人ナメちゃこまるよお兄さん。いいじゃん、減るもんでもないし」
「…勝手にしろ」
「よしゃー!勝手にする!そうと決まれば、さっさと行こう!」




せっかく家に連れてきてもらったのだけれど、ほんとにすることがないので、レイヴンの後に
ついて行くことにした。まあ強引だけどね!
だってさすがに寂しいもん。あたしのことを知っている人がいない、あたしに気づく人すら
いない世界で独りなんて、こわいよ。頼れるのはレイヴンしか、シュヴァーンしかいないんだから。














◇◇◇











とかなんとかで、騎士団本部にお邪魔した。なんか無駄に緊張するよね。あたしのこと見える
わけじゃないんだけどほんとは見えてるんじゃね?とかすごい心配になった。まあ、普通に
シカトされているので、見えてないのはわかるんだけどさあ。ちくしょーなんか虚しい!
そして、レイヴン、いやシュヴァーンか。ややこしいなコノヤロー。で、彼がえらい人なんだ
ってことは良くわかった。
そういえば、さっき若き日のルブランとかもいた。若き日って言ってもそんな変わってない
けど。部下には慕われてるんだよなあ。うん、面倒見いいからね。結局本質は変わらないんだ
もんねえ。いくらレイヴンとシュヴァーンは別物って言っても、ベースは同じ人なんだもんな。
あーあほんとめんどくさいことよくするよね。あたしだったらやらないわ。
前を歩いていたシュヴァーンが止まった。どうやらここが彼の執務室らしい。なんだか家よりも
この部屋の方が生活感がある気がする。たぶん、この部屋で過ごす方が多いからなんだろうけど。
部屋の中はそんな広いわけでもなく、狭いわけでもない。ちょうどいい広さだ。彼が作業する
机には色々な資料が山積みになっている。それから、本棚がたくさんあって、見たことのない
本がぎゅうぎゅうだ。部屋の中央にはテーブルとソファーが置いてある。きっと、休憩の時や
来客?の時に使われるのだろう。ていうか来客とかあるのか?主に上司とかかしら。なんでも
いいけどね!
あたしがキョロキョロしている間に、シュヴァーンは机に向かっていた。さっそく仕事を始
めるようです。さて、あたしはどうしたものか。暇なんだぜ。




「ねえねえ、あたしもなんかするよ。お茶くみとか、本の整理とか、掃除とか。あ、書類の
 サインとか手伝うよ!はんことか押す係でもいいよ!うふふ」
「必要ない。大人しく本でも読んでいろ」
「えええ、仕事大変なんでしょ?だったら手伝うって!シュヴァーンはあたしのこと使えない
 やつとか思ってるかもしれないけど、こう見えて意外と役に立つんだからね!手先器用だし」
「手伝うより静かに待っていてくれていた方が助かるんだが」
「…ああそうですか。じゃあ大人しく本でも読んでますよ!ここの本どれでも読んでいいの?」
「ああ」




あーあーあー。なんかシュヴァーンて調子狂うね、ほんとに。レイヴンといる時間のが長い
からだろうけど、すごくやりづらい。ほんとはもともとレイヴンみたいな性格のくせにさ、
シュヴァーンて面白味の欠片もありゃしない。まあ別に、嫌いってわけじゃあないんだけどさ。
でもさあ、あの口調はどうにかなんないのかね。あんな口調のレイヴンとか考えるだけで殴
りたくなるもん。いやむしろ口いっぱいに甘いクレープでも突っ込んでやろうか。
さて、とりあえず大人しくしてろと言われてしまったので、本を読むことにした。幸いにも
ここには色々な本があるようなので、退屈しなくてすみそうだ。ラッキー!それに、本読むの
結構すきだしね。
手ごろな本を2、3冊手に取り、ソファーに腰掛けた。重みでソファーが沈む。いやそんな
沈んでないからね。そこんところ勘違いされたら困る。というか半透明な身体ではあるものの、
質量というものは存在しているみたいだ。つくづく不思議な身体だ。他の人には見えないし、
触れない。でも物には触れる。ので、物を通してなら生きている存在に触れるということだ。
わかりやすく言うならば、武器を通して魔物を斬ることができる。んー、なんとも微妙な身
体になってしまったもんだぜ。
にしても、幽霊が本を読むっておかしいよね。というかあたしってやっぱり幽霊なんだよね?
透けてるし。シースルーだし。でも何で幽霊なら成仏しないんだろうか。この世に未練がある
からとかかな。あるに決まってんだろって話ですけどね。まだまだ若いし、片思い中だし、
星喰みだってぶっとばしてないし。未練たらたらだよ。他にも気になることはある。なんで
また過去に飛ばされてしまったのか。そしてほんとにここは過去なのか。過去に見えてパラ
レルワールドとか言う話もあり得ると思うんだよね。
まあ真相はいくら考えても見えてこないと思うんだけど、確実に言えることは、何かしらの
意味があってここにいるってことだ。これ違ってたら爆笑ですけどね。でもそんな気がする。
これは直感というやつなんですが。もしここに来なくちゃならない何かがあったとして、ここ
で役目を終えたあたしはどうなるんだろうか。その時こそ、ほんとにあたしは、消えちゃう
のかなあ。それって、すごくこわいな。
ふと窓の外に目をやる。何も変わらない。確かに空には星喰みはいないし、ザーフィアスは
綺麗なままだし、人だって特に変わらない。多少は若いのだろうけど。あたしがさっきまで
いた時代も、あたし一人がいなくなったところで世界に大きな変化が起こることはないのだ。
一人くらいいなくたって、代わりはいくらでもいる。あたしがいなくたって世界は止まらない。
…悲しい。切ない。会いたい、レイヴン。ここにいるあんたは死んでるよ。生きてるレイヴン
に会いたいよ。あたしを知ってるレイヴンに会いたい。ここではあたし、独りだよ。
とか色々考えているうちに外は茜色に染まっていた。もう夕方だよ。本全然読んでないや。
目次くらいしか読んでない。それって読んでないのと同じだろ。あはははは。




「そろそろ帰るぞ」
「え?あ、うんわかった」
「そういえば、幽霊だからやっぱり腹は空かないのか?食べなくても大丈夫なのか?」
「そう言われるとそうだね。まあ幽霊だしさすがに…「ぐううううううう」お腹空くようです」
「……」
「すいませんごはんも恵んでいただけると嬉しいです」
「…本当にわけわからんやつだな」
「あたしもそう思います、はい」














◇◇◇










騎士団本部を出てから、食料を調達し、その他必要最低限の生活用品も買って、シュヴァーン
の家へ帰った。その頃にはすっかり空は暗くなっていた。
いやー、それにしても図太い身体!半透明ですけどお腹は空くんですって!もう面白い!
そんでまあ、あたしもご飯の支度を手伝おうとしたけど、また大人しくしてろと言われてしまった
ので、椅子に座ってシュヴァーンの背中を見ていた。うん、男の人の料理している姿は良いね!
ユーリの後姿とかも結構すきなんだけど、やっぱりレイヴンのがすき。でもシュヴァーンも
なかなか!というか、若さもプラスされてちょっと新婚さん気分。うへへへ!あ、今更だけど
男の人に家事任せるのっていいのか?女子として。いや、でも主夫っていうのも増えてるし、
シュヴァーンというかレイヴンみたいなヘタれは主夫が似合う、と勝手に思ってみる。まあ、
交代制でもいいと思うけどね、って何を考えているんだあたしは!落ち着け。だいたい死んでるん
だから交代制もまた夢の夢だよ。うわあ、悲しくなった。一気に悲しくなった。ずーんってなった。
空気がずーんってなった。自分のせいで自分がずーんてなったずーん。




「出来たぞ」
「やたー!ごっはん!ごっはん!」
「…本当に幽霊なのか?」
「透けてるじゃん!というか今はそんなことどうでもいいでしょ!とにかくごはん!!」
「……」




いただきまーすと、シュヴァーンと向き合ってごはんを食べる。おいしい。おいしい!なんか
すっごくおいしい気がする。幽霊だとそうなるのかな。違うか★
黙々と食べるシュヴァーンにおいしいよ!と言うと、そうか、という一言しか返って来なかった。
まあ仕方ない。これから仲良くなるもんね!面白いシュヴァーンを引き出してみせる!とか
言ってみる。お世話になるからには仲良い方がいいもんね!がんばろー。あ、おかわりください!




















バスルームに来てみたものの、シャワーとか浴びるべきなのかな。でも幽霊なのにシャワー
とかあほらしい気がするんですけど。どうですかそこらへん。
全国の幽霊のみなさん!あたしはシャワーを浴びるべきですか!それとも浴びないでシャワー
を眺めるべきですか!さあ、どっち!?
いやまじでどうしよう。一応、浴びてみるか。というかこの服脱げるのか?んー、脱いでみる?
とりあえず上着だけでも、よいしょ。あ、脱げた。じゃあ、ショーパンも脱いでみるか。
よいしょ。お、脱げる。あ、ちょっと待てよ。借りた着替えの服って着れるのか?着てみるか。
よいせ。あら、着れる。
なるほどね。生きているモノには触れない、話せないが、モノは触れる。だから、人と接触
すること以外は案外普通の人と変わらないみたいだ。まあ何度も言いますけど透けてるんだ
けどね!これ一番問題にして解けない問題。それは仕方ない。いやー、不思議な身体!もう
何でもありだね!逆にめんどくさい!










シャワーも浴びて、歯も磨いて寝る準備万端。とりあえずリビングに行くと、シュヴァーンが
何やら読んでいた。仕事の書類らしい。真面目なやっちゃな。




「まだ仕事?」
「ああ」
「やっぱり大変なんじゃん。明日はあたしも手伝うよ、というか手伝わせて?なんかやって
 ないと、あたしがここにいる意味とかないみたいで、嫌なんだよ。雑用とかでも、いいからさ」
「…ああ」
「まじすか!やっぱり話わかるね!ついでにその口調もどうにかなりませんかね?」
「ならない」
「疲れないの?それ。もっとフランクにいこうよ。仲良くしようよ、たぶん年近いんだし!」
「疲れない。年が近かろうが、関係ない。お前はただの居候だ。仲良くなるつもりもない」
「ああそうですかー。でもあたしってばしつこいんだからね!こんくらいじゃめげないんだから!
 おやすみ!」




ふんっと後ろを向いて与えられた部屋へと向かった。






「おかしな奴だ。…おやすみ」




















ちくしょー!負けないんだからね!まあこれ別に勝負とかじゃあないんですけどね。
でも、あんなきっぱり言われた日にゃ、意地でも仲良くなってやろうじゃないかコノヤローって
なるわ。負けず嫌いだからねあたしは!嫌がってもやめないんだから。シュヴァーンのこと
変えてやるからね!これで未来が変わったとしても知らねえ!あたし知らねえかんな!
うーあー、もう寝よう。おやすみ。












シュヴァーンだろうが、レイヴンだろうが変えてみせる。そのネガティブシンキングをな!