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不幸体質 の女の子が
 幸福少女 と名乗る時















あるところに女の子がいました。ごくごく普通の女の子です。
しかし、彼女は昔からなぜか運がありません。いつもトラブルに巻き込まれてしまうのです。
たとえば、彼女がまだ赤ん坊の頃、空を飛ぶ魔物にくわえられ両親のもとから結果的に連れ 去られてしまいました。
そしてその後、魔物は彼女を適当に放り投げ、さっさとどこかへ行ってしまいました。
なんてかわいそうな女の子でしょう。ですが、たまたま通りかかったギルドの方に拾われ、 彼女は生き延びることができました。まあ、両親に会うことはありませんでしたが。
そんな彼女の運のなさは、成長しても変わらずでした。
最初に彼女を拾ってくれたギルドも内輪モメが原因で解散してしまい、次に所属したギルド では、メンバーがお金を持って逃げてしまい解散。次のギルドもその次のギルドも、彼女が 所属してひと月程度で解散してしまうのでした。
そんなついてない彼女はついに決心しました。それは、ギルドを自分で作るというものです。
そのギルドの名は、エフティヒア。それはどこか遠い世界の言葉で、幸福を意味します。
彼女はきっと幸福を掴みたいと願いを込め、この名前にしたのでしょう。
こうして彼女は、エフティヒアという名前と共に、脱不幸を目指すのでした。




――そうそう、ちなみに幸福少女と記し、エフティヒアと読むことにしたそうです。






















「飽きたなー傭兵の仕事」




ここ最近傭兵の仕事ばっかで困るわー。というか普通女の子一人のギルドに傭兵の依頼ばっか
するかね。ばかなのか。そうなのか。
でも良いお金になるんだなあ、これが。だってあたし強いもーん。むふふ。
お金が貯まったら、海の見える街でのんびり暮らすんだ。普通の女の子のように暮らす!
だからそのために一生懸命働いている今日この頃。でもなかなか貯まらないんだよねえ。
あたしってば、なんでか昔から運が悪くていっつもトラブルばっか。あーでも運悪い中でも
ギリギリ良い運ももってるかもね。でないとあたしとっくの昔に死んでるし。
過去いろいろあったなあ。ま、今生きてるんだから別にいいんだけどね!




「さて、じゃあどうしよっかなー。あ、そうだいいこと考えた。あたし、騎士団入ろう」




今までたくさんのギルドに所属してきたけど、どれもこれも解散解散解散でもう大変だった。
どんな解散ブームだよコノヤロー。
でもあたしが入ってからみんなひと月で解散ブームにのっかるから、たぶんあたしの不幸体質が
解散ブームを呼んでるんだと思う。
ので、この解散ブームを呼べるあたしが騎士団に入るととってもおもしろいことがありそうな
予感がする。きっとおもしろいはずだ!いやー今からわくわくしてきたぜい。
最近仕事もマンネリでどうしようかと思ってたし、こうなったら騎士団潰してこようかな!
なにそれすんごくおもしろい。というわけで、いろいろ偽装して騎士団に入団でえい!
騎士団中からぶっ壊せー!これ、採用。

































世の中どうかしてるぜ。貴族とか庶民とか貴族とか庶民とか。どうでもいいだろそんなこと。
あ、でもあたし実は生まれが貴族なんですーとかあったりして!いや、ないか。
もし貴族生まれの子どもだったら、赤ん坊が魔物に連れ去られたら必死に捜索するだろうし。
きっとあたしの両親は諦めたんだろうな、魔物に持ってかれて。あたしも諦めるわ。うん。
さて、そんなわけで、あんまり良い印象のない騎士団に入ることにします。
19歳!いえーい!騎士団ではクールな女子としてはりきっていきたいと思いまっす!
髪は短めなので、ヅラをかぶってポニテで!そしてメイクをするよメイク!化粧って人を化かすん
だぜ…。
あ、でもファミリーネームは隠しておこうかな。さすがに。そもそも本名で入団しようとか面白ろすぎ
だよね。まあめんどくさいからなんだけど。




「お前が新しく入ったやつか?」
「はい、と申します。よろしくお願いいたします」
「ファミリーネームは」
「ありません」
「ない?どういうことだ」
「庶民な上に孤児なもので、ファミリーネームは持っていません」
「そうか、まあいい」
「よろしければ、適当にお呼びください。そうですね、アニクシとでも呼んでください」
「アニクシ?」
「はい。遠い国の言葉で春という意味です。わたしは春がすきなもので」
「いいだろう。今日からお前は騎士団の・アニクシだ」
「はい」




めんどくせー。めんどくせーおっさんだなこの人。顔だけはできる騎士みたいな雰囲気醸し
出してるけど、実際はあんたも庶民はうんたらかんたらなんだろー。めんどくさい★
それにあたし、庶民ではあるけど孤児じゃないし。むしろ特殊なパターンな女の子だよう!
ファミリーネームもなんかめんどいから適当につけちゃったよ!忘れないようにメモして
おこうっと。
別にないままでもよかったけど、知らないおっさんになんて気安く呼ばれたくないし。
あたしの名前を呼び捨てにできるのは未来のダーリンだけなんですううううふふふ。
ちなみにあたしは春より秋派。

































そんなこんなで、気がつけば2年も騎士団に居座ることになった。別に居座りたくて居座った
わけじゃない。なんか知らんけど、騎士団でハイパーな実力を発揮しちゃったあたし。
それなりに信頼を得てしまったり、同期と仲良くなったり。なんてこったい。
ていうかギルドの場合はひと月で解散ブームが起こるのに、なんで騎士団だと解散ブームが
起きないんだよ!むしろそのために2年待ったようなもんだよ!ちくしょう!
あーあ。2年も騎士やってみたものの、そろそろクールな女子をやるのも疲れた!飽きた!
ので、ギルドの活動を再開しようと思いまーす。あたしもなかなか良い立場に出世できちゃった
から、意外と自由きくんだなーあはは。
そうそう、人魔戦争の英雄って言われてるシュヴァーン・オルトレインだって姿あんまり
見せないし、いいんじゃね?あたしもそんな感じでいいんじゃね?はい、決定ー。
やっぱり刺激のない生活なんてつまらんですたい。あたしは自由に幸福を掴むのだ!
まだ騎士団も解散ブームにならなさそうだし。
でもとりあえずギルド再開は明日からにして、今日は剣でも振ってるか。暇だし。
ていうかあたしはもともと太刀専門だったから剣は軽過ぎていけねえや。
それに不幸体質発動で武醒魔導器はすぐぶっ壊れるから使えない。ひどいよね、ほんと。
だからあたしは、魔導器を全然使わないで生きてきたっていうわけです。なにそれ天才。
あー、明日からは太刀に戻れるんだー!すてき!MY太刀!




「でも今日は剣で我慢しよう。ふんぬっ」
「そこで何をしている」
「え?ああ、これはお見苦しいところを。シュヴァーン隊長」
「いや、別に構わない。それより、随分剣を軽く振るのだな、君は」
「そうでしょうか。でも、そうかもしれませんね。わたしはもともと大剣使いなもので。
 この長さの剣だと少々物足りないですね」
「ほう、女騎士で大剣使いとはずいぶん珍しいな」
「女であっても騎士であることは変わりませんし、腕も自信ありますよ」
「ああ、わかっている。名前は確か、・アニクシだったな」
「はい。覚えていただいてるなんて、光栄です」
「今度手合わせ願いたいものだな」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ああ。邪魔して悪かった、失礼する」




大剣使いねえ。まあ太刀使い?騎士団ではあんまり自分の情報は流さない方がいいなあ。
ていうかシュヴァーン隊長とお話しちゃったよ!別に興味ないけどね。
でも珍しいこともあるもんだね。見かけたこともそうだけど、あたしのような普通の騎士に
話しかけるなんて。いいことでもありましたか?つってな。
しかも手合わせだなんてよー。めんどくさいようそんなの!ねー。
あ、そうそう。あたし思ったんだけど、シュヴァーンってなんか誰かに似てるんだよねえ。
あんまり覚えてないんだけど、どっかで会ったことあるような?ないような?やっぱり
あるような?そのうち思い出すか。
よーし、今日はこれくらいにしてもう寝ようっと。そんで明日は帝都出発だー。
どこに行こうかな。とりあえずハルルでお花見でもするか。そうしよう。いえーい。






















こうして不幸体質の彼女は、世界の大きな波に自ら飛び込むことになるのでした。
それにしてもとても適当な女の子ですね。2年も騎士団にいてすっかり一人前の騎士に なったかと思えば、心は変わらず彼女のままです。もちろん、不幸体質もですね。
ですが、騎士団では発揮することのできなかった彼女の不幸体質は、いずれこの世界の大きな波に必要になることでしょう。
そしていつか彼女の体質を改善してくれる、素敵な人が現れることを願いつつ、見守ること にしましょう。




――さあ、いよいよ彼女の冒険が始まります。