視線の先には、いつもレイヴンがいる。
これがいわゆる恋というものなのだろう。だからといって、何かをしようというわけ
でもないのだが。つまり、こういうのを、見ているだけでしあわせって言うんだろうか。
きっと、出会った時からずっとレイヴンがすきだった。いや、違うな。正直に言おう。
初めはユーリの方がいいなって思ってた。だって、カッコイイし。あたしって、実は
髪が長い人すきだったりするのよね。結構、髪が長い男は女々しい!とかできらいな
人も多いけれど、あたしはすき。別に似合ってるんだからいいじゃないって思う。
それに、髪がさらさらで、きれいで、良い香りがするとあれば、そりゃあなんか得
してる気分になるし、ハッピーです。だからね、すきなのよ、髪が長い人。
じゃあ、なんでレイヴンじゃなかったのかって話になるじゃない?そう思うよね。
だってさ、レイヴンの髪って、ぱっと見ごわごわしてそうじゃない?髪質がカタそう
っていうかさ。あたしは個人的に、さらさらの方がすきだから、興味なーいってなった。
だがしかし、意外や意外。レイヴンの髪って結構触り心地が良かったりする。見た
目はごわごわだけど、触り心地はシルク!これは言い過ぎかな?いや、でも良いんだ
よね。
そういうわけで、レイヴンもいいなあって思い始めた。別に髪質ですべてを決めて
いるわけじゃあないんだけどさ。
だからといって、これだけでユーリに勝るというわけではなかったのです。ユーリ
くんは良いお兄ちゃんって感じじゃない?まあ、同い年だからお兄ちゃんとかじゃな
いけど。頼れる男って感じするじゃん、うん。それにイケメン。めっちゃイケメン。
背も高いし。色気ムンムンだし。こりゃあもう、たまらないよね。こんな完璧要素
しかないユーリくんに、レイヴンは一体どうやって勝ったんだ!?って思うでしょ?
思うよね。
それがさ、ずば抜けて勝るもの、ないんだよね。びっくりでしょ。これ、すごく
びっくりすると思う、レイヴンが。まさか、ほめるようでディスるとかひでえ!みた
いな。いや、でもさ、レイヴンがいいんだよ。あたしには、レイヴンが1番なんだよね。
飄々としてるくせに、実は内心、苦しくて仕方なかったとかさ、背はずば抜けて高い
わけじゃないけど、身体はがっちりしててたくましかったり、ユーリくんみたいな色気
じゃないんだけど、レイヴンの匂いはほっとするし、どきどきする。恋してる身なので、
贔屓が入ってるかもしれないけど、でも、レイヴンの良さがあたしのハートにずっきゅん
ときてしまったわけですよ。そりゃあもう、天変地異が起きたと言ってもいいです。
それに、こんなことを言うのもあれなんだけど、レイヴンって裏切りましたでしょ?
実は、シュヴァーンでした!姿を見せなかったシュヴァーン・オルトレインは、
レイヴン!はい、落ちました。どこまでもあたしは恋に落ちました。ありがとう。
ちょ、おま、裏切ったやつになにハート射抜かれてんだよって思うじゃん?ね?
違うんだよ。今までのレイヴンの気持ちを思うとね、こう、心をガッ!と掴まれて
ぶんぶん揺らされた気持ちになったんですよ。もう、そんな揺らされたらあたしってば
ちょっと酔っちゃうよ、みたいな。とにかく、そんな衝撃を受けたって話ですわ。
あ、ちなみにこれは、誰にも言ってないからね。さすがに、シュヴァーンと戦うって
なった時、実はあたしがにやにやしてた口を隠すために手で覆って悲痛の表情っぽく
眉を寄せたとか、誰も真実知らないからね。内緒よ、内緒。
ま、そんなことがあってさ、あたしのガラスのハートはがっしり掴まれたわけさ。
優しく扱ってね、なにせガラス製ですから。こんな理由で惚れるやつなんて、あたし
くらいしかいないよ?むしろ他にいたら、あたしがびっくりするよ。びっくりしすぎて
今作ってるサバ味噌とか落とすよ。ガッシャーンって落とすよ。
一応言っておきますけども、このサバ味噌はレイヴンのために作ってるんだよ。
常識です、常識。レイヴンがすきなものを作る!それは、片思いの特権だ!そうだ!
とかなんとかです。ひゃっほい。
「あれ、ちゃん?」
「なんです、レイヴンさん」
「もしかして、サバ味噌作ってるの?」
「そだよ」
「やっぱり! おいしそうな匂いがするなあと思ってたとこよ」
「レイヴンのために作ってあげてんだから、感謝しなよ」
「え! 本当に? なに? 罠!?」
「喧嘩売られてるの? あたし」
「違う違う! すごくびっくりしたのよ。でもうれしい」
ちょっと照れくさそうに笑うレイヴン。なんてかわいいんでしょうね。びっくり
したのは、あたしの方だよちくしょうかわいい死ぬ。
レイヴンは、あたしがこんなにもすきだってことは知らないんだろうな。ばかめ。
こんなにあいしてるのはあたしくらいだっつーねん。ちくしょう。
ま、今はいいさ。レイヴンを落とすためにこのサバ味噌を作ってあげてんだから。
今に見てろ!これでお前のハートはあたしのもんだ!男前だな、あたし。
心の中の独り言はさておき、レイヴンがどうしたかっていうと、イスに座って
こちらをによによしながら見ている。視線を全身で浴びているあたしです。それさえ
もしあわせだ!と、ここで叫んだら、たぶん、レイヴンは小動物のようにびくっ!て
なるような気がするので、あたしも見えないようにによによするとします。
★★★
「はい、どーぞ」
「いただきます!」
完成したサバ味噌をレイヴンに出してあげると、それはそれは喜んでもぐもぐして
います。なんなのこの人かわいい死ぬ。やばいね、やばいよ。もしもレイヴンと結婚
した日にゃ、毎日こんなかわいい顔を見れるというのかい、死ぬ。死んじゃうよ。
愛おしすぎて死んでしまうよ。今もうすでに動悸がやばいよ。変態なみにやばいよ。
ばれないように、はあはあしてるけど。これ、もしマスクとかしてたら完璧な変態だ。
こやつは、あたしをいとも簡単に変態にすることができるのですよ。コワイ!
「おいしいよーちゃん!」
「そりゃーよかった」
「良いお嫁さんになるわあ」
「まあね」
「未来の旦那がうらやましいわあ、本当に」
「ふうん」
心の中でガッツポーズです。勝ったよ、この戦に勝ちましたよ!お館様あああああ!
というような気持ちです。もう、やばいね。頬杖で口元をうまく隠しているあたしだけ
ども、ものすごくによによしてるからね。これもうやばいね。あと一押しで落とせるね。
いけるよ、いけるよちゃん!
だってさ、未来の旦那うらやましいまで言っちゃってんだよ!?これで、脈ないっす
とか言ったらこの世界滅ぼすよ、本気で。本気と書いてまじで。まじでやってやんよ。
これ、言い換えたら、世界を滅ぼしてもいいって思えるほど、レイヴンをあいしちゃ
ってるってことだからね。めっちゃあいされてるからね、おっさんんんんん!
もうプロポーズしてやろうか、してやろうか!いやいや、落ち着け自分。こういうの
は、男性からするものですよ。女子ってーのは、ロマンチストやねん。男性は、必然と
そういう空気を読んでだな、ロマンチックにやるべきなのですよ。そういうもんだ。
「あたしは、レイヴンのお嫁さんがうらやましいけどね」
「え? どして?」
「だって、一途になったら浮気せずに愛してくれそうだから」
「そ、そう?」
「うん、まあ、あくまで想像だけどさ」
そう言って、上目遣いでレイヴンを見る。心なしか、顔が赤いレイヴン。どうだ。
あたしの持てる力(女子力的な何か)すべてで挑んだ上目遣い。おねがいだから落ちて
ください!あたしに惚れてください!うわっほーい!
ていうかさ、なんで女子ががんばってんだよって感じだよね。がんばれ男!むしろ
おっさん!がんばって!そんなもじもじしないでがんばれよ!おねがい!がんばれ!
ここはさ、あのー、あれでしょ。試してみる?とかそれくらい言ってほしいよね。
それはあたしの願望なの?全世界共通の女子の願いとかじゃないの?ねえねえ!どう
なのよ!
「……あのさ、ちゃん」
「なあに」
「その、あの、ほら」
「なにさ」
「ちゃんて、好きな人……いる?」
「いるよ」
「あ、そうなんだ……」
「ユーリ」
「……ユーリがすきなの?」
「ユーリってかっこいいじゃない?」
「……うん」
「イケメンだし、背高いし、良い匂いするし、男らしい」
「そうね……」
「同い年だし、話合うし、一緒にいて楽しい」
「……」
ぶふぉっ!あからさまにレイヴンがへこんでる!なにこれかわいい死ぬ。あたし死に
すぎなんですけど。レイヴンがかわいすぎて死にまくってるんですけど。何度目の死で
すかかわいい死ぬ。
「レイヴンはどう思う?」
「……なにが」
「あたしとユーリ、釣り合うと思う?」
「いい、んじゃない?」
「ほんとにそう思う?」
「うん……」
「ほんとのほんとにそう思う?」
「泣けるくらいそう思ってるわよ」
「そうなんだ」
泣いちゃいそうだよ!レイヴンってば泣いちゃいそうだよ!かわいい死ぬ。萌え死ぬ。
これが萌えっていうやつか、そうなのか、そうなのかい!
「それってすごく残念だわ」
「え?」
「あたしのすきなひとはさ、ユーリみたいな人じゃないんだよ」
「どういう、こと?」
「あたしより年上だし、ふざけてんのか真面目なのかわからないし、背はふつうだし」
「……」
「でもさ、その人と一緒にいると、すごく安心するし、ただそばにいたいって思うんだ
よ。なにより……」
「……なにより?」
「あたし以上にあいしてるひと、いないと思う」
早く気づけ。レイヴンのことを誰より一番すきで、あいしてるのは、あたしだけだよ。
ほらほら、あたしの視線の意味を早く理解してよ。
「そんで、レイヴンはだれをあいしちゃってるわけ?」
「……え?」
「だれのこと、あいしてるわけ?」
「え、ええ? って、ちゃんも最後まで言ってないじゃない……」
「ふうん。レイヴンって意外と鈍感なの」
「それって……」
しょうがないから、勇気の足りないあなたに、あたしから先に愛を送るとしようか。
目を開いて信じられないって顔をするあなたに、愛のこもったキスも送るとしようか。
「あいしてるぜ」
(感想はいかほど?)(えええええ!?)(早く教えてよ、ちゅーまでしてんだから)
(や、やわらかかったです)(そっちじゃねえよ!)(え!?)(愛の告白だよ!)
(う、うれしかったです)(そうか……ってレイヴンの告白は?)(……)
(今さら何を恥ずかしがってるというの)(愛してるぜー!)(合格!)