わたしは17才だった。
あなたにはじめてあったのはまだ世界というものすら認識することのなかった頃。
あれから何年経ったのだろうか。
世界はあなたにやさしいですか?世界をあなたは愛していますか?
わたしは、あなただけをずっと愛していました。これからもきっと変わらないでしょう。
わたしは小さい頃からずっとあなたしか見ていませんでした。
あなたがわたしの世界でした。わたしはあなたに助けてもらったのです。
あの暗くて寒くて寂しい場所からわたしを助けてくれたのです。
あなたはわたしにとっての光でした。太陽のように輝く光だったのです。
けれど、あなたの眼は月のように静かで、暗く深い海のようでした。
それでもわたしにとっては、輝く太陽だったのです。
当然、はじめて見た光にわたしは心を奪われました。
その瞬間からわたしのすべてはあなただけになったのです。
あなたの心に誰がいようと、あなたが生きようとしなくとも。
それから、わたしはあなたのためだけに生きようと決めたのです。
生も死も望んでいないあなたのためだけに、わたしの人生はあったのです。
わたしは満足でした。ただあなたのためだけに生きることができるのだと。
でも、あなたはわたしを突き放そうとしました。いえ、突き放し続けました。
突き放されてもわたしは常にあなたの側にありました。
そしていつしか、あなたがもう一人の役割を持っていることを知りました。
わたしにとってあなたはあなたでしかない。どちらでもよかったのです。
あなたの名前がシュヴァーンであろうと、レイヴンであろうと。
どちらだって、あなたでしかありえないのですから。
あなたは運命の出会いをしました。恋や愛といった運命ではありません。
あなたが心から信頼し、大切にし続けることができる仲間が現れたのです。
会った瞬間からそうであったわけではありませんが、それは感覚でわかるのです。
その時、わたしは思いました。あなたはきっとしあわせになると。
過去にとらわれ、いつまでももがき続けるあなたを救える仲間が現れたと。
わたしはそれを理解した時、涙が止まりませんでした。
あなたはわたしを理解してはいなかったけれど、わたしはあなたを深く知っていたのです。
あなたの側であなたしか見ていなかったわたしだったからです。
わたしはあなたと共に彼らの仲間としていました。
つまり、彼らを裏切るということです。当然、わたしは裏切ります。
それはわたしがあなたの味方だからです。
確かに彼らは大切な仲間でした。ですが、わたしのすべてはあなただった。
あなたはついて来るなと言いました。それでもわたしはついて行きました。
どこまでもついて行くと、光を見つけた時から誓っていたからです。
彼らを裏切る時、あなたは仕方が無いと言いましたが、それは嘘です。
あなたはわからなかったかもしれません。
でもわたしには見えました。あなたの眼が人間らしい感情を映したことを。
あなたはもう、その時からわかっていたのかもしれません。
彼らはもう、あなたの中でかけがえのない仲間になっていたということを。
わたしはそんなあなたを見て、あなたを必ず光のもとへ返そうと思いました。
けれど、結局あなたを光へ返したのも彼らだったのでした。
わたしはいつまで経っても、ただ側にいるだけだったのです。
あなたは光へと返り、彼らと世界を覆う闇に挑むことになりました。
わたしは相変わらずあなたの側にいました。
確かに昔と変わらず側にいるのに、わたしは一人、違う場所にいるようでした。
わたしだけがまるで遠い国にいるような感覚です。
それでも、わたしはしあわせでした。
あなたがたとえ、どんなに遠く感じてもわたしはしあわせだったのです。
あなたが闇と闘うというのなら、わたしも闘います。
どこまでも、いつまでだってわたしはあなたのために世界に挑むのです。
当然、敵はやさしくはありません。あなたや彼らに牙を剥けるのです。
あなたは戦います。彼らも戦います。わたしも戦います。
あなたを傷つける。彼らを傷つける。わたしを傷つける。
わたしは、あなたに牙を剥ける敵を切り裂き、あなたを守るのです。
腕が鉛のように重くなっても、いくら血を流そうとも。
わたしはただ、剣を振り続けるのです。
一心不乱に剣を振り続けました。あなたのために。
そういえば、あの時もそうでした。
敵に囲まれてしまった時。誰もが必死に敵を切り裂いていました。
わたしはあなたを気にしていました。どんな時でもそうです。
いつだって、わたしはあなたのことを一番に考えていました。
そんなわたしの視界には、あなたが敵に矢を放つ姿でした。
それは誰よりも凛々しく、美しい姿でした。
ですが、そんなあなたに敵は醜い姿で牙を剥けたのでした。
敵の長い牙があなたを傷つけようとする。
許さない。あなたを傷つけるすべてを。あなたを苦しめるすべてを。
あなたを、殺そうとするすべてを。
わたしの周りにいる敵は依然としてわたしを殺そうと牙を剥けました。
それを薙ぎ払い、わたしはあなたを目指しました。
あなたを守るために。あなただけを、守るために。
その瞬間は、まるで今までの人生のようでした。
わたしはきっとこの瞬間のために生きてきたのだと思いました。
誰かがわたしの名を呼ぶ声が聞こえました。
それでもすべてを振り切りあなたに牙を剥けた敵の前に出たのです。
わたしの胸を大きな牙が貫きました。
すべてが止まった気がしました。
時間も、世界も、命も。
胸を貫かれましたが、その敵を切り裂きました。
それから、あなたも彼らもわたしの元へ来たのです。
でもわたしの眼にはあなたしか映っていませんでした。
それは昔も今も変わらないことです。
彼らが必死に治癒術をかけているのがわかりました。
ですがそれがもう無駄だということはわたしが一番わかっていたのです。
「…、 」
あなたがわたしの名を呼んだ。
その時、あなたがわたしをはじめて見たような気がしました。
ずっと側にいたけれど、いつだって遠かったあなたがはじめて、近くに感じました。
この瞬間こそ、わたしの人生の中で一番幸福の時だったと言えるでしょう。
あなたがわたしの名を呼び、わたしに触れたのです。
一度だってわたしの名を呼び、触れることも、見てさえくれなかったあなたが。
「…はじめて名前を、呼んでくれました 」
「、どうして…、」
「あなたが、しあわせになるのを、心から祈って います」
「…!」
「ああ、わたしのために 泣いて く ださるの ですね…」
「!」
「あいし て い ます」
「俺も、愛してるよ。…ちゃんと、愛せなくてごめん、ね」
わたしを愛していただなんて。
はじめてあなたがわたしに向ける微笑みを見ました。
はじめてあなたが涙を流す姿を見ました。
わたしはやっぱりしあわせものでした。
不器用なあなたを支えることができてしあわせでした。
あなたがわたしの名を呼ばなくとも、わたしに触れなくとも、いつだってあなたは。
あなたは、やさしくわたしを待っていてくれたのです。
わたしを、突き放しても、ついて来るなと言っても、あなたはわたしを。
…いつだって待っていてくれたのです。
重力に負け、瞼が静かにおりていくのを感じました。
そしてあなたが涙を流しながら微笑み、わたしに唇を寄せました。
しあわせです。わたしは誰よりもしあわせです。
最後にあなたはわたしに言いました。
「おやすみ、」
こうしてわたしは
永遠の
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さい
になりました。